第3話 プロローグ -2- 東京レジスタンス

 二〇XX年、日本は軍事クーデターによる一党独裁政権が誕生した。

 新政府は陸上自衛隊一等陸佐ゴトウが率いる青年将校部隊を中心に構成され、陸上、海上、航空の自衛隊全組織、及び警察組織をもその手中に収めた。

 ゴトウは新党「ニッポン党」党首の座に就き、自らを〝将軍〟と名乗った。

 新党は「真の独立国家としての主権を取り戻し、強く美しきニッポンを蘇らせる」ことを理念に掲げ、アメリカに対して日米安全保障条約、及び日米地位協定の撤廃を迫り、一方的かつ強硬な交渉で一時的凍結を勝ち取った。


 そして、軟弱な国民性の原因は軟弱な言葉使いにあるとし、国家安全禁句法(通称、禁句法)を議会での審議なく即日発令した。

 これにより日本国内における禁句『●●=二文字』の使用が禁じられたのである。

 また、禁句法違反者の矯正及び再教育を目的とし、国内各所の米軍施設跡に〝プリズン〟が設置され、違反者はそこに収監された。


 しかし、真の禁句法施行目的は別のところにあると言われている。

 プリズンの収監者は再教育の一環として、全国の農作業に無報酬で従事させられるのだが、ここに真の目的がある。

 国家としての独立性を強固なものとする上で、食材自給率の回復は喫緊の重要課題であった。

 下がり続ける日本の食材自給率はついに二十パーセントを割り込み、輸入食材なくして国家を維持することが不可能となっていた。

 新政権は国の独立性を確立させる上で、この課題を最優先として捉え、特に農産物生産の早期強化を目指すには、その為の労働力確保が必須と考えたわけだ。それも体力のある若い労働力が。


 これにより、若い労働力を継続的かつ安定的に調達する手段として、禁句法の構想が生まれ、特に若年層の使用頻度が高いであろう言葉が選ばれた。

 中高年以上にとってその『二文字』は、特に使用せずとも日常生活に不自由はしない。しかし若者はそうはいかない。そこを狙ったのだ。


 禁句法違反者の摘発及び身柄拘束のため、特別禁句警察隊、通称、特禁警(トッキンケイ)が組織され、将軍直轄組織として全国に配置された。

 彼らは自衛隊員の精鋭から選抜され、体力知力胆力ともに優れており、黒スーツ、黒ネクタイ、黒サングラスの出で立ちで常に二人一組で行動している。

 違反摘発には市中の防犯カメラ、街灯などに配備された高周波盗聴器がフル活用された。


 更に禁句法の施行以降、様々な使用防止施策が次々と追加された。

 まず、携帯、スマホ、パソコンでの『二文字』の入力が出来なくなった。

これを受け「●●焼き」を取り扱う飲食店や食品メーカーは「牛鍋」の名称変更に踏み切り、牛丼チェーンの「●●家」は「はま家」に屋号を変更した。

 次にスマホの写真機能もクラウド上で監視対象となり、『二文字』を表現するようなハートマークのポーズなども違反対象となった。

 これらに対抗するため、国民の間では葉書や手紙などへのアナログ回帰の動きが起こったが、瞬時に郵便物の検閲が合法化された。

 国家による完全な監視統制社会を、武力が次々に実現させてしまったのである。


 こうした不条理な弾圧は国民に大きな不満を生じさせ、圧政に対する抵抗活動が生まれるのも自然の流れであった。

 こうして誕生した地下組織のひとつが東京レジスタンスである。

 東京に生まれたこの地下組織は、第二次世界大戦時のナチスに抵抗したフランス組織にあやかり、レジスタンスを名乗った。

 その後組織拡大に伴い、現在は東東京本部、西東京本部の二本部体制に移行し、活動部隊である青年部の下部組織としてジュニア部隊が編成された。

 レジスタンスの活動内容は幾つかある。

 禁句法違反者の逃亡支援、プリズン収監者の脱走援助、特禁警への妨害活動、他地下組織との連携など。

 目的はただひとつ、禁句法の完全撤廃である。


 西東京のジュニア部隊にはヒカリの騎士団、ツバサの騎士団、キボウの騎士団の三つがあり、十二歳から十七歳の少年少女たちが禁じられた『二文字』を取り戻すべく、日夜活動を行っていた。

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