第4話

  わたしは、自分が死ぬ夢を見る。大抵悲惨な死に方で。


 わたしには隠された自殺欲求がある。


 わたしみたいな邪魔者が死ねば世界が良くなる。本気でそう思うことがある。世界をより良くするために自分ができる一番いい行動は、自分が消えることだなんて皮肉だ。


 舗装された道路、その上を走る高級車が、わたしの隣をかすめた夜の道。

煌々と輝く東京の街を、タワマンの一室から見下ろした夜。

 大きなアーチ、幾何学模様、繊細な光。それは限られたものしか入ることの許されない場所。そんな場所の最奥、光舞い散る大舞台の上に立つスーパースターを見た夜。


 そんなとき、唐突に死にたくなってしまう。突然辛くなってしまうのだ。

 「美しいもの」と、「そうでない」もの。一人と一つのコントラスト。その対比がわたしの本当を照らし出す。

 わたしの穢れに相応しくない綺麗なもの、その美しさが、わたしの穢れを大きくする。

 穢れを払うためにできる現世の方法は一つとしてない。どうすることもできないのだ。

 だから、死にたくなる。死ねば、穢れを払う必要もないし、それ以上何も考えなくて済むから。

 でも、わたしは死んでいない。死にたい、消えたいと思っても、死ぬ勇気がない。死ぬきっかけもないし、そもそも痛いのは嫌いだし、みんなの心を痛めるような人格もないから死んでも誰もわたしで涙を流さないだろう。この期に及んで、わたしは皆んなからチヤホヤされて死にたいと思ってる。すごく馬鹿で幼稚で、だから

 だから、死ねないのだ。


 ・・・弱虫。クズ。何ができるの?・・・


 「・・・ッ」


 唐突な嗚咽に襲われて、わたしは家を飛び出した。何かが込み上げてくる。目頭から、喉から、腹の底から。それが怖い。わたしは今にも壊れてしまいそうだった。

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