第3話

 深夜に見たドキュメンタリー、ある少女の小さな独白が、わたしの心にふと蘇る。



 土手に座りながら、ボサボサのおかっぱ頭が風に靡いている。少女はカメラを向けられ、少し恥ずかしそうに顔を下に向けている。シーンが変わり、そこには雲ひとつない澄んだ青空が映し出される。そこへ

ーどうやって乗り切った?ー

と、無言の字幕が画面に浮かび上がる。

「わたし、『死にたい』って言葉は言わないようにしてました。」

 画面の中の少女の語気が強まる。そこへ、ごう、と強い風が吹いて、彼女は咄嗟に顔を隠した。華奢な細い腕には、無数に引かれた傷の跡が見えた。


ーどうして?ー


「言葉って、強い力を持ってるんです。メンタル落ち込んでる時に負の言葉を口にしたら、それが本当に力を持つと思うんです。だから、言わない。それに、」

 少女はそこでぐっと言葉を詰まらせる。その瞳からほんの一瞬、光がふっと消えるのが見えた。


ーそれに?ー


「それに、うん。...ごめんなさい。これ以上は...」

 

 その声は、涙に埋もれて聞こえなくなった。



 ここから先の記憶はない。番組がここで終わったのか、少女のシーンは終わりなのか、何も覚えていなかった。

 ただ、少女の言いかけた「それに」の続きだけがずっと気になって、心の片隅にずっとしこりとなって残っている。



「それに」



それに、なんだろうか。ずっと分からない。でも、分からなくて良いのだと思う。だから少女も言わなかったんだ、と、思う。

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