第30話 別行動

 ひと悶着はあったが、借金のカタ問題もひと段落付き、これからの事についてようやく話す事が出来そうだ。

 どうしてこう、俺達は遠回りしてしまうんだろうか。


「それじゃぁ、それぞれがやるべき事や、希望を聞いて行こうか」

 年長の俺が議題を振ると、食事用の小さな丸テーブルにぎっちり並んだ仲間が顔を見合わせる。

 食事のために集まったライフとシャーリーを加えて、通常4人掛けのテーブルに6人でいるのだから仕方がないが。


「私はおばあちゃんの為に苔の洞窟に行くわ」

 やはり一番手はシャーリーだ、何事にも思考という回路を通さずに本能で生きているような娘だからな。

 椅子をガタンと鳴らしながら立ち上がり、宣言している。


「そうだな、目下俺達はそれのためにここに居るわけだからな……座ってくれ」

 宣言後も立ったままのシャーリーを座らせると、俺はリリーとローランドの方を向いた。


「私は、石化回復ポーションのお礼と……あのシーフを見つけ出したいです」

 リリーが言葉を発すと、ローランドも頷いて続ける。

「僕もそれをしっかり清算しないと、次のステップには行けないと思ってる」


 リードの魔法がリリーに掛かっているため、別行動を取っても良くなった。

「やはりここはいったん二手に分かれた方がいいだろうな」


 苔の洞窟に行くには過剰戦力だというのもあるが、コカトリスが倒された今、あのシーフは別の稼ぎ口を探すために他の町に移ってしまうかもしれない。

 情報を集めるのはスピード勝負になるだろう。


「では、リリーとローランドはこの町に残ってシーフの居場所を特定すること。俺達は急いで苔の洞窟へ行って戻ってくる事にする」

 俺の提案に異議を唱える者はいなかった。


「ただし、シーフを見つけてもすぐに攻撃を仕掛けず、俺達が戻るのを待ってほしい」

 彼の行動は組織的なものではないが、悪党は得てしてつるむものだ。

 本人の強さも未知数であり、さらには狡猾な相手だ。

 少人数で無策で挑んでも返り討ちに会いかねない。

 ましてや、彼らは使い慣れた武器を奪われている状態でもある。


「無理せず、情報だけ集めるんだ、慎重にな」


 もう一度念を押す。

 ローランドは割と落ち着いた印象だが、リリーの方はいまいち読めない所がある。

 感情的というか、自分に正直というか。

 だからこそ憎き相手を目の前にした瞬間に、感情に任せて魔法をぶっぱなしそうな予感がしたからだ。


「わかりました、ヨツメ様のいう通りにします」

 しかし、リリーはそのまま笑顔で受け入れた。

 俺の考えすぎだったか?

 まだ知り合って直ぐなのに、こういう性格だと決めつけてしまうには早計だったかもしれない。

 

「ふふふ、心配してくれたんですか?」

 ニヤニヤと笑うリリー。

 もちろん心配したからだが、なんか肯定してしまうと相手のペースに乗せられそうなんだ。


「情報を集める際は、集めている事を相手に悟られるんじゃないぞ、こういうのはそこが一番難しい」


 俺も50になるまでは色々と経験してきたんだ。

 特に研究成果は企業スパイ等によってすぐに漏洩しがちだったりする。

 それは手を変え品を変え、まるで詐欺と警察のいたちごっこの様に。


 しかし、そのスパイが失敗する原因は。

 相手を信じすぎた時か、探ってるのがバレた時だ。


 例えば懇意にしている情報屋が、他の者とも懇意にしていると思わなくてはならない。

 相手の方が金払いが良かったりすると目も当てられない。


 酒場で聞き込みという話をよく読んだ事があるが、敵か味方かも分からない相手にズバリと確信をつくような質問をしていると呆気に取られてしまう事がある。

 おいおい、逆にお前は今大手を振って「探してますよ」アピールしてるんだぞ?

 今夜中に相手は雲隠れするか、お前の寝首を掻きにくるだろうよ。


 とまぁ。こういう事を考えてしまうから、なかなか友人もできないでいるわけだが。


「博士、脳が脱線しておいでですよ」

 俺がううーんと回想等をしている間フリーズしていたのだろう。

 メイが現実に引き戻してくれた。


「では善は急げだ、俺達は明日の朝出発するが、ローランド殿らは今夜から動いてもらって構わないからな」


 二人は頷き、立ち上がった。

 夜の帳はとっくに降りていて、酒場などでは丁度酔客がいい感じになっている事だろう。


「おっと、情報を聞きに行くのに手ぶらでは心もとないだろ?」

 俺はスラックスのポケットから革で折りたたんだ小銭入れを取り出して、ローランドに投げる。

 彼は事も無げにそれを受け取ると中を確認した。


「これだけあればなんとかなりそうです、助かります」

 好青年である彼は、その金髪頭を勢いよく下げて礼を言うと、すぐに宿屋の扉を開けて出て行った。


 落ち着いて振舞ってはいるが、小金稼ぎのために友人を殺された気持ちは計り知れないものがある。

 その復讐のために動くとなれば、自然と足早になってしまうのだろう。

 若い彼の心の葛藤はいかほどかは分からないが、心配になってしまうのは俺が歳をとってしまっているからかな。

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