第26話 報酬
学生の頃から仲の良かったリリー、ローランド、トリーシャの三人は、在学中からパーティを組んでモンスターを狩りに出掛けていた。
盾を持ち先頭に立つローランド。
両手持ちのブロードソードを振り回して戦うトリーシャ。
それを補助するリリーの組み合わせは相性がよく、調子良く稼いでいたそうだ。
学生が終わると、なにか仕事をしなければいけないわけで。
これは言うなれば就職活動だ──。
「私たちは実績を上げて、大手クランへの加入を目指していました」
リリーが言うには、クランというのはこういった職業に関する互助会のようなものらしい。
強さに合うモンスターを紹介してくれたり、戦闘技術の向上を助けてくれたり、万が一働けないような怪我をし退団する際には、見舞金が出たりする。
こういう職業につく者たちには欠かせないシステムなのだそう。
「しかし、適当にクランを選ぶ訳にはいかない。上納金が法外だったり、待遇が悪かったり、危険な仕事を紹介されたりする悪徳なクランもあるんだ」
ローランドの発言を追いかけるように、リリーも口を開く。
「私たちは大手クランに入れるように、もう少し実績を上げたかったわけ」
「そこで出会ったのがあのグースというシーフだった」
「あいつは、コカトリスの石化が効かない薬を持っていると言ってたのに……」
リリーの言葉で少し間が空いた。
二人の表情は硬く、歯ぎしりが聞こえそうなほど奥歯を噛んでいるようだった。
「私たちは、あの男にカモにされたみたいね」
「僕たちの財布や武器、金目のものは全て取られているようだな」
確かに、剣士だと聞いた金髪男の装備品に盾も剣も見当たらない。
そういえばリリーが石像の時に突き出していた手にも、杖らしきものはなかった。
「道理で、そのシーフの石像が見つからないわけだ」
俺はため息と共にもう一度辺りを見回した。
石像には若い人間が多い。
きっと血気盛んにコカトリスへと挑んだのだろうと思っていたが、そういう状況で連れてこられたと考えるとやるせない気持ちになってくる。
犯罪の片棒を担がされた哀れなコカトリスはもう居なくなったので、これ以上の被害は出ることがないだろうが、だとしてもひどい話だ。
「あいつ、殺してやる!」
先ほどまで泣いていたリリーは、既にその目に復讐の炎を燃やしているようだ。
そうでもしないと、この場に座り込んだまま動けないでいるかもしれない。
復讐も立派な生きる理由なのだから、それをどうのこうのいう事はないだろう。
ただ、今にも洞窟の外へ走りだしそうなリリーをローランドが止めた。
「まずは一度町へ戻ろう、君の装備だって無いんだ。前衛職に素手で挑むつもりかい?」
彼だって同じような気持ちなのには違いないだろうが、冷静に言葉を吐き出している。
「俺もそれがいいと思う、先ずは戻って体と心を休めて、それからでも復讐は遅くないさ。続きは歩きながらでもいいかな?」
そう言いながらも、彼らの気持ちを尊重し、こんなところで長居するのはやめて荷物を背負った。
その行動に触発されたのか、皆が思い思いに自分の荷物を背負うと、この陰鬱とした洞窟を後にする。
個人的にはこの洞窟は気に入ってる。
この悲しき石像たちさえなければの話だが。
かえりしな、シーフの特徴を聞いたが、残念ながらメイの記憶の中にも該当の人物がいなかった。
「ですが帰り着いたら彼の似顔絵を描いてみましょう、ともすればそれで彼を指名手配できるかもしれません」
メイには、記憶の映像を紙に描き出す能力がある。
イメージだけでもそれは発揮できるとしたら、かなり正確なモンタージュ写真が出来上がるのではないだろうか。
「ところで、ヨツメさんたちはコカトリスの素材はどうしますか?」
急に横やりを入れてきたのはモンスター管理ギルドのラング。
初対面の話しかけ難い雰囲気はどこへ行ったのやら。
どうやらモンスターの話になると俺が興味深く聞くので、話したくてうずうずしているのかもしれない。
典型的なオタクだなこいつは。
「俺は良く知らないんだが、あんな大きな鶏のどこを何に使うんだ?」
そのオタクにこんな質問をしてみたものだから、堰を切ったように話を始めた。
「まず羽は大型のクロスボウやバリスタ等の矢羽根に利用されますね。岩を嚙み砕く事のできるくちばしは、そのままピッケルに利用されたりもします。あとはコカトリスにしかない貴重な部位としては、石化の呪眼ですかね」
「そんなおっかないもん貰っても困るんだが」
メドゥーサの首じゃないのだから、持ち歩く訳にもいかないだろう。
ふとした時に目が合ってしまって石化というのも勘弁だ。
少しビビってしまった俺に対して、クスクスと笑うラング。
人の表情を伺うような目つきをするよりも、よっぽどそっちの方がいいと思うのだが。
「大丈夫ですよ、コカトリスが死ぬとその呪いは発動しませんから。でも、力だけは残っているので、錬金術や魔法の材料や触媒に出来るんですよ」
その言葉を聞いて、耳をぴくぴく動かしたのはほかでもないシャーリーだ。
「何ですって? じゃぁそれは私が頂くとするわ!」
俺も知らない錬金術のレシピだ。
当然シャーリーにも知識はないはずだが、錬金術に使えると聞いただけで欲しくなるのだろう。
「使う予定のない物は売り払ってお金に変えた方が何かと都合がいいんじゃないか?」
しかしシャーリーは既に俺の言葉など耳にも入っていないようで、貰う気満々だ。
眼鏡の奥であれこれと妄想を始めてしまった。
後で、丸っこい石ころを「呪眼」だと偽って渡しても満足できそうなので、ここは放置しておこう。
「他には何かないのか?」
俺はラングに向き直ると、更に言及した。
「砂ズリですかね」
「食うのか?」
焼き鳥で出てくるのなら割と好きな部位なんだが。
あれだけの巨体となると食べ街はありそうだ。
「まさかぁ。石にした相手を飲み込んで、溜めておく器官ですよ? 食べたいですか?」
その様子を想像して俺は苦笑を禁じ得なかった。
腹を掻っ捌いた際に、石化した人間の頭部がゴロゴロ出てきたりしたら、食欲も失せるというものだ。
「ただ、コカトリスの砂ズリは、石化ガスの発生装置にもなっているので、研究者達に高く売れるんですよ」
「そんなもの解析されたら、軍事兵器にも匹敵する脅威になりそうだな」
売るか売らないか迷うところだ。
「確かに、石化回復ポーションもかなり高価ですしね」
ラングの当たり前の返しに、俺はそういえばと思い当たった。
「メイ、シャーリーが作ったポーションってのは幾らかかったんだ?」
「大金貨10枚くらいですね」
よどみなく淡々と答えるメイだったが、周りの人間は凍り付く。
「それはだれが払うんだ?」
俺の言葉に、関係者はもう一度石になったかのように固まり、冷や汗をかくのだった。
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