第22話 魅力的
モンスターギルドの役員が2人、俺たちの後をついてくる。
「あのコカトリスを倒すなんて凄いんですね」
一人は気さくだが、多少軽薄そうな雰囲気でライフにばかり話しかけやがる。
ライフも困惑しているのか、曖昧に返事をする程度で会話にはなっていないようだが。
それでも何となく不愉快に感じてしまう。
もう一人は寡黙なタイプではあるが、あちこちにきょろきょろと視線を動かし挙動不審。
話しかけても会話にはならなさそうな雰囲気だ。
俺はこの二人の事を相手にせずに、この世界のモンスターの区分について反芻していた。
まずモンスターギルドというのはそのモンスターランクの選定や、危機管理、討伐後の処理などを行う施設だという事だ。
モンスターはその危険度によって、注意(caution)、警告(warning)、災害(disaster)、破滅(destroy)の四つに分類されている。
注意等は、一般市民が怪我をする程度のモンスターに当てられ、猪や鹿等の野生動物もこの類に入る。
警告になると、死人が出る可能性の高いモンスター……例えば熊やサメのような生き物も入ってくるだろう。
ちなみにここまでは俺の居た世界でも可能性のある区分だ。
災害級からモンスターは野生動物の被害ではなくなる。
名前通り竜巻や津波と同等の犠牲の可能性を持った生き物。
村一つを焼き払う炎を吐く龍などがそれにあたる。
今回のコカトリスも、それが街中に飛来しようものならどれだけの被害が出るか、想像に難くない。
だからこそ、その脅威が確実に排除されたかどうかを、ギルドが確認するのは当然だろう。
「やはり常識の類や実際の知見は、本を読むだけでは得られんものだな」
俺は苦笑しながらも、この世界の
今思い出しても体が震えそうなコカトリスの恐怖さえ、過ぎ去ってしまえばよい経験に思えてくるのも、私のあくなき探求心のなせる業かもしれない。
そんな事を考えていると、耳元で声がする。
『博士、今どこにいらっしゃいますか?』
眼鏡を通してメイから通信が入ったようだ。
『こちらはシャーリー様が石化回復ポーションを作成し終えた所ですが、合流なさいますか?』
いいタイミングだ。
「わかった、では西の山道入口で落ち合おう」
ギルド職員の無口な方が、ぎょっとしたような顔で俺を見上げてきた。
「独り言じゃないぞ! 魔法で仲間と交信してたんだ」
放置していても良かったのだが、変人扱いされるのは嫌だったので言い訳してみる。
いつも変人扱いされているが、それとこれとは別の話だ。
「魔力の集積を感じなかったので」
男は目を背けるとゴニョゴニョと何かを言うが、それがどういう意味なのかは俺にはちょっとよく分からない。
そのまま一人で何かをブツブツ言ってるだけだ。
とりあえずそれ以上の会話を広げてくる事もなかったので、こちらからもアクションはないまま、メイ達との合流場所へと到着する。
「ライフ様、ご主人様が迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「あっ、いえ。特に迷惑などは……」
ライフはそんなことはないと頭を横に振りながら答える。
その反応にホッとしたのか、メイは視線をギルド職員に向ける。
その美しいが無表情な顔が向けられると二つの違う反応が返された。
無口な職員はその無表情さに何を感じたのか、怖がるようにさっと目を逸らす。
もう一人の軽薄な男はその顔が気に入ったのだろう、ヒュゥと口笛を吹いた。
「初めまして美しいお姉さん、私はモンスター管理ギルドのアンドリュー・ケインハックと申します」
自己紹介と共にしゃがむと、メイの手を取りそこに口づけをしようとしたのだろう。
しかし、メイの手はブロンズ像の様にその場から一切動くことなく、口を尖らせたアンドリューが必死にそれを引っ張るという、なんともおまぬけな図だけが展開された。
「私としたことが……お美しい貴女への最大限の敬意をと思いましたが、恥ずかしがる貴女の気持ちを理解できておらず、大変申し訳ありませんでした」
気を取り直したアンドリューは立ち上がると、ぬけぬけとそういう事を言う。
さっきのキス顔のアホ面下げといてよくそういう言葉が言えるもんだな。
「最低です」
それを見ながら本人に聞こえないようにぼそっと漏らしたのは、まさかのライフ。
「なんだライフ、ああいうヤツが好みだったのか?」
当のアンドリューは既にメイしか視界に入っていないらしく、俺の言葉も聞こえていない様子だ。
「軽薄な人は好みじゃないです。ただ、私に気があるように接してたのに、美人のメイさんを見るところっと態度を変えて、明確に差を付けられた気がして気分が悪いです」
俺は苦笑しながらライフの頭を撫でる。
「メイが彼の趣味に合ったってだけだろう、ライフが劣っている訳じゃない」
その対応に、今一つ納得がいっていないのか、顔を上げて俺を見る。
「メイさんに魅力で勝てないのは分かってるんですけどね」
その不貞腐れた顔が可愛くてつい口走る。
「俺はメイなんかより、ライフの方がずっと魅力的だと思って居るぞ」
その言葉を聞いたライフは、一瞬固まったが、意味を理解するとどんどん顔を赤くして、ついには頬を両手で押さえて顔をそむけてしまった。
その反応も可愛くて、俺の言った言葉を自分では疑う余地もない。
実際、メイはロボットだ。
成形された美しさに、男性を魅了するプログラムを組んだだけの物体だ。
しかもそれを作ったのは俺なのだから、俺に俺が求愛してるようなものだろう。
あまつさえ眼鏡も掛けていないし、口も悪いし、眼鏡も掛けていないのだ。
そっぽを向いているライフを眺めながらニヤニヤしていると。
そのライフが何かに気付いたらしい。
「ところでシャーリーさんは?」
言われて見渡すが、どこにもいない。
「マズい、迷子か!」
「近くにシャーリー様の生体反応はありません、油断しておりました」
「薬を持って一人で洞窟に行っちゃったんじゃ?」
慌てる俺達に小さな声が掛けられる。
「あっ、あの」
無口な職員が、おずおずと指をさす方向に一同目を凝らすと。
大きく腕を振って意気揚々と歩き去るシャーリーの背中が小さく見えた。
「シャーリー! そっちは正反対だぞ!」
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