第10話 馬車の旅

 俺とユリアは馬車に揺られながらエルブレンに向かっていた。

 騎士の御者の話だと大体一週間ぐらいで着くとのことだった。

 馬だけだともう少し早いが、俺達を乗せた馬車の分、少し遅くなるとのことだった。まあ、当たり前だな。馬も生きている訳だし。

 そんな訳で俺は暇していた。

 ただただ馬車に揺られるだけで何もすることがなかった。なので、俺は復習がてら魔法の練習をしていた。勿論、ユリアに見てもらいながら。

 最初は復習として指先に魔法でそれぞれの属性を作りだす。火、水、土、風、光の順に五属性だ。上手くいった。ほぼ完璧だ。これなら戦闘中に使っても問題ないだろう。まあ、使い道があるのかって言われると困るが。

 そもそも、何故、俺が魔法の練習をやろうと思ったか。それは俺のコアドライブを強化できるかも知れないと思ったからだ。俺の青い炎は特殊で魔法とは違う。

 なので、魔法と掛け合わせることでより強くなれると思ったからだ。ここからは俺の青い炎と魔法を上手く組み合わせていく練習もしたい。今度、ユリアに俺の体について話そう。そうだな……エルブレンに着いて、宿に行ったら話すことにしよう。

 エルブレンに向かう一日目。

 俺はとにかく復習、復習、復習。体に魔法を使う感覚を覚え込ませた。




 次の日、エルブレンに向かう二日目。

 俺はユリアからここら辺の地形のことを聞いた。

 まず、このライザレンジ大陸をザックリ分けると、北部、中央部、南西部、東南部に分かれているそうだ。

 最初は分かりやすい南西部から。

 ここは俺たちが居たバスクホロウ王国が治める領地だ。ここにはドーパン村もある。後、俺が奴隷として働かされていた鉱山とかも。

 そんなバスクホロウ領は全方位を何かに囲まれている。

 北側はドゥラーン山脈、東側にはスインド湖と呼ばれる大きな湖があるらしい。西側と南側は海に囲まれている。

 なので、関所があるのはスイング湖の南側部分とドゥラーン山脈の西側の海道にしかないらしい。

 どちらもかなり細い道なのでとても管理がしやすいんだそうだ。途中、騎士の御者が話に入って言ってきた。

 次は今向かってる中央部。

 ここにはドゥラーン山脈がある。円形に連なった大きな山脈だ。標高は五千メートルを超える所もあるらしい。

 因みにたまにドラゴンが空を飛んでいたり、棲みついたりする事があるのでドラゴンを捩ってドゥラーンという名前になったらしい。また御者が会話に入ってきた。

 そして、ドゥラーン山脈の中央にはユリアの故郷、エルフの森がある。

 ここは盆地になっていて、その全てが緑の木々で覆われている。

 そして、この盆地の更に中央に大樹〈アダム〉がある。なので、ドゥラーン山脈を抜けたら皆が感動の声を漏らすらしい。御者が言っている。

 因みに、エルフの森へはドゥラーン山脈にある洞窟を通って行くらしい。山脈を登り降りするのは危険とのこと。

 その洞窟に一番近い町が今向かっているエルブレンということだ。

 次は東南部。

 ここは『サミフロッグ』という国の領地になるらしい。サミフロッグ領は中央〈シレジット〉大陸に歩いて行く時に必ず通る事になる。

 この領の南東にとても巨大な橋があるのだが、それを通って中央大陸に行く必要があるらしい。

 ライザレンジ大陸と中央大陸の間に『エンドライフ』という海峡があるのだが、船で海を渡ることはできないらしい。何でも、海流の影響で海の生物が多く、それを食らう強い魔物がうようよいるとのことだった。

 過去に怖いもの知らずのアホが船で渡ろうとしたが、結果は言わなくてもわかるだろ?と御者。この御者、結構、話に入ってくるな……良いけどさ。

 そして、最後は北部。

 ここは特に大きな国は無いらしい。共和国みたいな感じなのだろうか?

 町や村がいくつかある場所で、強いて言うなら小人族〈ドワーフ〉がぼちぼち移り住んでいるということぐらいだ。

 小人族〈ドワーフ〉は人間の半分ぐらいの身長で物作りが得意な種族だ。ドワーフの作った武器や防具は物が良く、高値で取引されることが多いそう。

 そういえば、驚いた事が一つ。

 ユリアが言った『プレベント』という町の名前に聞き覚えがあった。ミーシャの祖母のドリアからは聞かなかった名前だったので、驚いた。そこそこ近いと思うが、忘れていたのだろうか?

 気になるが、北部まで行っている時間は無いだろう。残念だが、聞いたことあるぐらいだ。特に問題無いだろう。

 ユリアには長いこと説明してもらった。後、騎士の御者にも。俺はお礼を言った。

 これでライザレンジ大陸のことは大分詳しくなった。また分からないことがあったら聞こう。

 俺がそんな感じのことを言ったらユリアより先に御者が返事をした。お前が返事するんかい!!!

 因みに俺は聞いている間も魔法の練習をしていた。日々の積み重ねは大切だ。




 三日目。

 俺はいつものように魔法の練習をしていた。

 その時、ユリアが氷魔法のようなものを使っていたことを思い出したので聞いてみた。ユリアはアレは水魔法の応用と風魔法を合わせた魔法ということだった。

『アイスブリザード』

 まず、水魔法に魔力を大量に込める。すると、温度の調節が出来るんだそう。この時点で難しそうだがそれだけでは無い。凍るほど冷やした水を今度は風魔法といい感じに合わせて魔法として発動するらしい。聞いているだけで難しそうだ。

 と、俺が難しい顔をしていたのかユリアが『大丈夫!水の温度を調節するだけならできるはず!』と励ますように言ってきた。

 なので、俺はユリアに教えられながら氷魔法の練習をした。水温の調節は温める方が簡単ですぐできるらしい。逆に水を冷やすのは難しいらしい。

 俺はまず、お湯を作ってみることにした。指先に小さい水の球を作り、そこに大量の魔力を込める。ある程度の時間やると水球の中がぶくぶくと泡ができた。熱湯の完成だ。 

 それを見たユリアが拍手をしてくれた。やっぱり、人に褒められると嬉しいな。

 そんなことを思っていたら集中力が途切れて熱湯が自分の手に掛かった。俺は情けない声をだした。

 ユリアが急いで大丈夫?と心配してくれた。ユリアは優しいな。

 すると、ユリアは回復魔法を掛けてくれた。『この火傷を癒やし、前と同じ日々が送れますように、ヒール』

 そう言うと俺の痛みと共に火傷の跡が消えた。

 俺はユリアにお礼を言うと、『私が付いてたのにごめんね』と言ってきた。俺が悪いのにな。

 気を取り直して。

 今度は水を冷やす。水球に魔力を込める。しかし、中々変化しない。

 目に見えないだけで変化はしているのか?そう思っていると熱湯が出来た時間を過ぎた。

 どうやら本当に難しいらしい。それから暫く、魔力を込め続けた。と、ある時、水球が一気に氷になった。

 やっとできた。そう思ってると、さっきと同様、ユリアが微笑みながら拍手してくれた。

 ユリアが褒めてくれるのは嬉しい。が、少し疲れた。時間もそれなりに経っている。今日はこれで終わりだな。




 四日目。

 今日はユリアに光属性の雷魔法について聞いた。

 これまで火、水、土、風、氷、光とやってきて雷魔法をやらないのも勿体無いと思ったからだ。使える魔法の種類は多いに越したことはないだろう。

 俺は今まで同様、ユリアに教えてもらいながら指先で雷を作る。雷といっても小さいやつなので大層なものじゃない。

 魔力を雷へ変化させる。すると、今までの経験からか意外とすんなりできた。

 これでとりあえず俺の扱えそうな属性の魔法は全てやった。

 個人的な魔法の扱いやすさは炎と風と光、次が水、土、最後が氷と雷だ。

 炎、風、光の三つは取り敢えず魔力を込めたら何とかなるって感じだ。扱いやすいように感じる。

 次に水と土の二つ。

 この二つは魔力を込めることで水と土を発生させるということが難しい。それもある程度の大きさに留めないといけないのが更に難しい。

 最後の氷と雷。

 この二つはとにかく魔力をかなり消費する。氷属性は水の水温を下げなきゃいけないし、雷属性は光と熱を集めて打つけさせてる感じだ。

 魔力の消費に対して威力が合ってないように感じる。

 ということで、俺は炎と風と光属性の魔法を中心に練習しようと思う。俺のコアドライブと合うような感じにできると良いんだけど…。




 五日目。

 今日も今日とて魔法の練習をしている。俺はかなり魔法を上手く操れるようになったと思う。まだ初級魔法もまともに発動したこと無いけど…。

 それでもユリアは上手くなったと褒めてくれた。やったね。

 それで今日はユリアに他の魔法についても聞いてみることにした。

 具体的には攻撃魔法以外の二つ、回復魔法と支援魔法について。以前にも聞いたので今回はどのように魔法を発動するのかを聞くことにした。

 回復魔法。これは治癒魔法と解毒魔法の二つを合わせて呼んでいる。

 まずは治癒魔法について。これはどのように傷を治しているのか聞いた。

 すると、生命力を高めて傷を塞いでいるらしい。要は自分自身の力で治しているらしい。治癒魔法はそれを手助けしているような感じなんだとか。なので、病気や死んでしまった人には効果が無いらしい。

 それと治癒魔法は唯一、魔法の中で詠唱が必要らしい。細かく文言が決まっている訳ではないが、有るのと無いのとでは全然効果が違うらしい。何故、そうなのかは分からないそう。言葉には人を癒す力があるのだろうか?

 次に解毒魔法。

 これは体内なんかに入った毒を無害なものに変化させるという魔法らしい。俺のやってる魔法の練習に近いが、比にならないぐらい難しいということだった。

 最後は支援魔法。

 これは体を強化したり、弱らせたりさせる魔法が多い。対象者の負担がそれなりに大きいので支援魔法の掛けすぎには注意しないといけないらしい。

 因みに、以前ユリアが言っていた守護魔法もこの支援魔法に入るらしい。

 ユリア曰く、支援魔法と呼ばれる魔法はかなり多く、結構適当に分類されているらしい。なので、もう幾つか分類を増やした方がいいと思うと言っていた。



 六日目。

 今日、外は雨が降っていた。それもかなりの大雨だ。

 ここまで雨が降ると道が泥濘んだりして、馬車が早く進めないらしい。でも、コレばかりは仕方がない。魔法の練習をしながらゆっくり進む外の景色でも見るとしよう。

 それから夜までこの日はずっと雨が降っていたので馬車の中で寝ることになった。

 今までは焚き火を囲んで寝ていたのだが、今日はそれもできない。火が使えないのでパンと野菜しか食べられなかった。

 火を使って馬車が燃えたら大変だからな。

 と、まあ、それは我慢すれば良い。

 問題は寝る時だ。ユリアが近い。雨の音が聞こえている筈なのにユリアの寝息しか聞こえてこない。壊れたのか?

 時々、ユリアが寝返りを打つ時、言葉になっていない甘い声を発している。寝れないのでやめて下さい。後、顔が近すぎです。



 七日目。

 朝、起きたという体にして外を見た。まだ雨が降っている。

 と、その時、欠伸をしながら眠たそうにユリアが起きた。おはようと挨拶すると、ユリアもおはようと挨拶してくれた。まあ、寝れてないんだけどね。

 それから暫く馬車を走らせていると、急に止まった。何かと思い御者に聞くと、道にスライムが大量にいるらしい。

 そう聞いて俺とユリアはスライムの所まで急いで駆け付けた。御者には馬車の方を任せた。

 スライムは名前だけ聞いたことがあった。様々な理由で発生するが、今回の場合はこの大雨が原因らしい。

 『アクアスライム』といって水に魔力が溜まるとできるらしい。かなりの数がいる。

 スライムは別名『剣士殺し』ともいい、物理的な攻撃は効かないらしい。なので、剣士はこのスライムの為だけに魔法を一つ覚えるんだそう。そう考えるとコイツら凄いな。

 俺は試しにコアドライブを使い、青い炎で攻撃してみた。コイツらに通用するか知っておきたかったからだ。

 結果はコイツらに青い炎は効いた。魔法に近いのでいけるだろうと思っていたが良かった。これなら変に魔法を使わなくてもいいことになる。

 因みにユリアは氷魔法の『アイスブリザード』でスライムを氷漬けにしていた。そして、『ライトニング・アロー』でそれを粉々に砕いていた。



 八日目。

 雨のせいで予定より遅れているらしい。

 夜にはエルブレンに着くとのこと。この馬車の旅も今日で終わりだ。

 昨日の戦闘で俺はとあることを思い付いていた。それは俺の青い炎と魔法を組み合わせる方法だ。

 青い炎の拳の周りに魔力を変化させて作った魔法を纏わせる。そうすることで自分へのダメージも無く相手へ攻撃できるというものだ。

 これによって、相手が苦手な属性なんかがあれば優位に戦える。戦術の幅も増えるだろう。

 指先に炎を作れるなら拳にだって作れる筈だ。炎が大きいと火傷するので普通はできないが、俺は青い炎が守ってくれるから大丈夫だ。

 我ながらいい感じのことを思い付いた。今度、こっそり練習しよう。ユリアには止められそうな気がするし。


「もう少しで着きますよ」


 御者の声が聞こえた。

 約一週間の馬車の旅がもうすぐ終わる。エルブレンに着いたら宿をとって、ご飯でも食べに行こう。

 そして、明日には歩いてエルフの森へ向かおう。

 馬車の中で俺はこれからの計画を簡単に立てつつ、エルブレンに着くのを待った。

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