第8話 魔法の特訓

 現在、俺とユリアは城内にある訓練場まで来ていた。

 騎士に魔法の訓練ができそうな場所はないかと尋ねたところ、ここに案内された。いつもは騎士達が使っているらしいが、今は忙しいので使っても問題無いとのことだった。地下水路に行っているのだろう。ご苦労様です。


「それじゃあ、何から教えようか」


「そうだな…魔法の根本的な基礎の基礎から教えてもらおうかな」


 俺は魔法を使うっていう感覚がよく分からないからな…。


「分かった。じゃあ、まず、魔法というのは魔力を使って色々な魔法に変化させます」

「魔法は大きく分けると三種類あって、攻撃魔法、回復魔法、支援魔法の三つ」

「攻撃魔法には属性があって、炎、水、風、土、光、闇、この六つ。回復魔法は傷を癒す回復魔法と毒を無害なものにする解毒魔法の二つを合わせて回復魔法と呼んでいます。支援魔法は身体強化とその逆の身体弱体化の二つを合わせて支援魔法と言います」


 ユリアは得意げな顔をしながら楽しそうに俺に教えてくれる。


「話しだけだと分かりづらいと思うのでここからは実際に魔法を使いながら教えましょう」


 そう言うとユリアは人差し指を俺の前に出した。なんか怒られてるみたいだな。そんな事を思っていると、ユリアの人差し指からメラメラと小さな炎が現れた。


「これは魔力を炎の魔法に変えて出しています。そして、これを水の魔法になるように変化させます。すると……この様に水の球が出来ました」


 それからユリアは風、土、光、闇の魔法を順番に俺へ見せてくれた。


「こんな風に魔力を魔法に変える。これが出来て初めて魔法を使うスタートラインに立てます」


「なるほど、なるほど」


 俺は頷きながら感心していた。


「因みに、光属性の魔法には雷の魔法も含まれます。他にも氷は水魔法の応用だったり、なので人によっては七属性だったり、八属性と言う人もいますが、基本は六属性です」


 そう言ってさっきと同様に雷を人差し指に作って見せてくれた。


「はい!先生!」


「はい、どうしましたかソラ君」


 俺が楽しそうに教えてくれるユリアを見て悪ノリで言ったのだが、意外にもユリアはノリノリだった。


「前に先生が使っていた『ライトニング・アロー』みたいに口頭で言う魔法は何なんでしょうか?」


「なるほど。良いところに目を付けてくれました。魔力を魔法に変化する時はイメージが大事なんです」


「イメージ?」


「はい。例えば、ウォーターボールと聞いてソラはどんな魔法だと思いますか?」


「うーん、まあ、水属性の魔法かな?」


「そう。魔法は魔力を変化する時間があるので時間が掛かります。それを言葉にして言うことでより短い時間で正確な威力で魔法を発動出来るのです」


「へぇ〜」


 そういう理由があったのか。いちいち威力とか、大きさを決めなくてもいいということだろう。魔力を使う量が一定になるから魔力の管理もしやすいという利点もありそうだ。


「因みに魔法は杖を使うと威力が大きくなります。物によりますが、最大で二倍ぐらいになるので魔法を使う時は持っておいた方がいいですよ」


「でも、ユリアは持ってないよね?」


「私は急いで村を出てきたので……」


 髭を生やしてそうなぐらい自慢げだったユリアが落ち込んだ感じになってしまった。


 おっと…余計なことを思い出させてしまった。


「んと…魔法には初級とかそういう階級?みたいのがあるか?」


 話題を戻さないと。


「そう。魔法は発動する難易度だったり、威力とか範囲とかで階級が決まるの。だから、初級の魔法でも威力が大きいと上級扱いになったりするんだよね。魔法階級は初級、中級、上級、超級、超上級、天級、神級に分かれてるから覚えておいた方が良いかも」


「分かった」


「でも、神級魔法は見たこと無いからどんな魔法なのか分からないんだよね…」


 神級魔法かどんな魔法なんだろうか…。


 ここで俺はユリアから教わった魔法に関して整理してみた。もし、分からないことがあったら再度質問しよう。

 魔法は魔力を変化させて発動する。そして、魔法は大きく分けて攻撃魔法、回復魔法、支援魔法の三つ。細かく分けるともう少しある様だが、まあ今はいいだろう。

 それから魔法には階級があり、初級から神級まである。ユリアから聞いたのはこんなところか。

 ここで俺は気になった事をユリアに質問してみる。


「例えばさ、色々な魔法を一気に発動したり、魔法同士を合わせて新しい魔法を発動したりする事はできるの?」


「う〜ん、出来なくは無いけどかなり難しいかも。それこそ私ぐらい魔法に精通した人じゃないと魔法が発動しなかったり、暴発して爆発したりするからお勧めはできないかな」


 思い返せば、ユリアは氷の風魔法みたいな魔法を使っていたっけ。アレも多分、魔法同士を組み合わせたものだろう。しかし、爆発するのか…怖いな。


「まあ、まずは試してみれば?私がお手伝いするからさ」


「うん、分かった」


「それじゃあ、まずはさっき私がやったのをやってみよう」


「おお」


 それから俺はさっき見たように人差し指を前に出す。


「まずは炎魔法から。指先に意識を集中させて、体から指先に魔力を集めていくのをイメージして」


 体から指先へ魔力を集める……こんな感じか?


 俺はユリアに言われた通りにする。


「そしたら、指先で魔力を炎に変化させて」


 魔力を炎に変化……。


 と、その時、俺の指先に炎が灯った。


「おお、出来た」


 初めて魔法を発動できた。まだ小さい、今にも消えてしまいそうな炎だが、何かができた時の達成感というのは良いものだ。


「そうそう。私も最初はこんな感じだった」


 ユリアは拍手しながら嬉しそうに言った。


「よし、それじゃあ、同じ要領で他の属性もやってみよう」


「うん」


 それから俺はユリアの指導の下で水、風、土、光、と順番に魔法を発動した。

 小さい水の球や小さい石など特に苦戦もなくできたので一安心。だったのだが、闇魔法、これはどれだけやってもできなかった。魔力が集まり、闇魔法へ変化している時に弾ける様に散ってしまう。


「どうやらソラは闇魔法が使えないみたいだね」


「こういう事って珍しいのか?」


 ユリアが不思議そうにしているので聞いてみる。


「う〜ん…苦手な魔法は誰にでもあるからこういうのは珍しくは無いんだけど…全く使えないっていうのが珍しくて、今のコレは初級魔法でも無いから六属性全部できるのが普通なんだけど……まあ、もしかしたら長耳〈エルフ〉族の中だけかもしれないし、気にしなくてもいいと思う」


「なるほど」


 俺は気にはなるものの深く考えず、闇以外の五属性の魔法が使えたことを喜ぶことにした。


「コホン…それでは気を取り直して次の段階、初級魔法をやってみよう」


「おお」


 初級魔法。実戦では余り活躍しないかもしれないが、基礎は大事だ。


「それじゃあ、初級炎魔法、『ファイアーボール』を練習します。魔法は全部、さっきやったみたいに魔力を集めて、自分が使いたい魔法に合わせて属性だったり、威力だったりを変化させるものだから今までの延長線だと思って」


「了解」


「拳より少し大きいぐらいの炎の球が『ファイアーボール』だよ。やってみて」


 そう言われて今までと同じ要領でやってみる。手を前に出して、体から手に魔力を集める。

 それから、拳ぐらいの炎の球をイメージして、魔力を変化させる。すると、小さい炎球ができ、どんどん大きくなっていく。

 そして、拳より大きいぐらいの炎球ができた。俺は『ファイアーボール』を発動することができた。


「そう、それが『ファイアーボール』、出来てる出来てる」


 嬉しそうに拍手するユリア。とりあえず、初級魔法が出来て一安心だ。これからは魔法の練習をして自分の糧にしていこう。


 ところで、この『ファイアーボール』はどうすればいいんだ?


「なあ、ユリア、コレどうすればいいんだ?」


「う〜ん……どうしよっか?」


「ええっ?!」


 俺はユリアのばつの悪そうな顔に慌てる。

 まさか、城の壁に向かって打つ訳にもいかない。流石に問題になる。地面にでもぶっ放しとくか?


「まあまあ。大丈夫。私には『マジックバリア』があります」


 自慢げに言うユリア。『マジックバリア』は確かサイラスと戦っていた時に使っていた魔法だったか。


「大丈夫なのか?」


「任せて!私に撃ってきて良いよ!『マジックバリア!』」


 ユリアの周りに薄い紫色のガラスの様なものができる。ユリアが大丈夫だと言ってるんだ。大丈夫だろう。


「『ファイアーボール!』」


 俺から離れた炎球は勢い良くユリアに向かって飛んでいく。そして、次の瞬間、ユリアの『マジックバリア』に当たり、消えた。

 これからは発動した魔法を消す練習もした方が良さそうだ。ユリアに攻撃する事になるとは。少し心苦しいというか、変な感じだ。


「ふぅ…どうだった?初めて魔法を使った感想は?」


「なんか不思議な感じだ。今まで魔力を使った事は無かったし、変に疲れる」


「そっか。あんまり魔力を使い過ぎると魔力切れで体が動けなくなるから注意してね」


「分かった」


 魔力切れか…体が動けなくなるのはマズい。特に戦闘中に魔力切れを起こしたらまず助からないだろう。暫くは戦闘で魔法を使わない方が良いかもしれない。自分の限界を知ってから戦闘で使おう。


「そろそろ帰ろっか?」


「ん?ああ……そうだね」


 ユリアに言われて気が付いた。空が赤く染まり、暗くなり始めていた。


 赤い夕陽を見ると前のユリアのことを思い出すな……。




 それから俺とユリアは帰路に就いた。


「さっきの『マジックバリア』って何魔法なんだ?」


「ああ、あれは支援魔法の一つで魔法攻撃から身を守ってくれる守護魔法みたいな魔法でね、使いこなすのが難しいけど覚えておくとかなり便利なんだよね」


「なるほど。じゃあ、魔術師ってなんなんだ?」


「魔術師は魔法だけで戦闘をする人のことだね。魔法専門の人って覚えておけばいいかな」


 それからも俺は色々質問した。まだまだ俺の知らない魔法がいっぱいありそうだ。

 薄暗くなった空の下、俺はユリアと魔法について色々話しながら帰った。




〜ダリウス・フィールの手記〜


 餓鬼を捕まえた。まだ、五歳ぐらいだろう。

 売れば良い金になる。つい傷を付けちまった。後が残るだろう。しくじった。少し値段が下がるかもしれない。

 まあ、傷が治るまで適当に面倒みて、それから売り飛ばせばいい。簡単な事だ。



 餓鬼が熱を出しやがった。

 面倒だったから殺そうと思ったがやめた。妹と同じ目の色をしている。なんだか手が止まった。

 当時、アイツもこのぐらいの歳だった。最後の晩、俺とアイツは喧嘩した。それで俺は飯も食わずに自分の部屋に篭ってた。

 今考えると大人気なかった。謝ろうとしたが、中々できなかった。明日謝ろう。そう思ってその日は寝た。明日なんて無いのに。

 って、何を書いてるんだか…馬鹿馬鹿しい。



 餓鬼の体調が良くなった。熱も引いた。

 だが、一つ問題ができた。それは餓鬼が俺に懐きやがった。俺はお前を殺そうとしてる悪党だと言った。だが、助けてくれたからこれでおあいこだねと言ってきた。全く、肝が据わった餓鬼だ。



 最近、餓鬼が自分の事を餓鬼と言うのはやめろと言ってきた。

 家事なんかが出来た方が高く売れる。それで教えてやる為によく一緒にいる事が多いのが原因かもしれん。まあ、名前ぐらい呼んでやってもいいか。どうせ後二ヶ月ぐらいで売り飛ばすんだ。



 ミーシャが俺に剣術を教えろと言ってきた。

 馬鹿かと言ってやったらできる芸は増やした方が良いって言ったのはフィールの方だと言われた。仕方ない、できもしない技でも見せて馬鹿にしてやるか。



 ミーシャがここに来て九ヶ月ぐらい経った。

 今は俺の雑用としてここに置ている。最近は荷物持ちとして一緒に偵察に出かける事もある。中々仕事ができるやつだ。

 だが、一向に剣の腕は上達しない。教えてないから当たり前だ。しかし、最近、コツを掴んだのか良い動きになってきた。もしかしたら、才能があるのかもしれない。



 少し離れたエルフの森方面で煙が上がったらしい。信頼できる奴からの確かな情報だ。何かあったのかもしれない。だが、あそこは山に囲まれていて行くのも面倒だ。

 それにもう少しで俺の家を燃やした犯人について何か情報が得られそうだ。やっとだ。やっと尻尾を掴んだ。長かった。こんな事をしてと後悔しなかった日は無い。でも、あの日からずっと復讐の為に生きてきた。今更戻れない。妹を、家族を殺した奴を俺はこの手で絶対殺す。



 バスクホロウの騎士団の奴らがここを嗅ぎつけたらしい。しくじったな。今までの付けが回ってきたか。

 悪党の情報を集めるには悪党になるのが一番。そう考えたのが不味かったか。いや、今更だ。ここまできてしまったんだ。何を後悔してるんだ。…………これを書くのも最後になるかもしれないな。

 そういえば、ミーシャのやつが遂に俺の技を盗みやがった。

 一年近くかかったが、俺は何も教えていない。ただ見せてただけだ。もしかしたら、ミーシャは天才なのか?どんな風に育つのか少し楽しみになった。

 まあ、とりあえず、今は騎士団の奴らを何とかしなければ。この件を片付けて俺はストライドへ旅立つ。

 ミーシャは途中で捨てていく。ドーパン村の近くまで行ったら、適当に喧嘩でもして逃してやればいい。怒るだろうか?なんで、いきなりそんな事言うんだって。嫌われるだろうか?

 フン。そもそも、こんな俺にそんな事を思う資格は無いんだがな。とにかく、俺の復讐にミーシャを付き合わせる訳にはいかない。

 …………それなりに楽しかった。ありがとう。

 いや…最後ぐらい……ごめんな。

 じゃあな…ミーシャ。

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