第33話 描けば出るって本当ですか

「今から描けば出るってやつを試してみます。エメラルドちゃんのイラストを描いて、SNSに上げてから、最後の十連に挑戦しますっ!」

 マレ熊は起動させたお絵かきソフトを配信に映して、そう宣言した。


コメント:描けば出るね

コメント:イラストの質によるとかって都市伝説もあるけど、マレ熊の絵の腕はどんなもん?

コメント:使ってるのマウス? ペンタブ?


「うーん、絵は正直下手な方だと思う。お絵描きはアナログでしかしたことないから、ペンタブとかはないんだ。マウスでなんとかやってきます。経過見られるの恥ずかしいので、絵は完成したら見せるってことで」

 そう言いながら、マレ熊はお絵描きソフトを落とした。裏で作業するつもりらしい。結構な数のリスナーが消された画面に残念そうな反応をしていた。


コメント:絵下手なのか……

コメント:さっきチラッと見たのだけじゃわからないけど、最初にアタリ取ってるし、基礎はあるって感じするけど。本当に下手なの?


「へた、へた! 高校の頃とか絵が上手な友達がいたから、よく一緒にお絵描きしたけど、比べ物にならなかったよ。みんな、私の絵見ても引かないでね……」


クッチャマ:マレ熊は画伯系か……それもまたヨシ!

コメント:お絵描き配信見るの結構好きだから、マレ熊のも見たいな~下手とか気にすることないぞ。ネットには画伯なんてゴロゴロいる

シベチャチャ:まぁ、おまじないだから、気持ちがこもってればいいんじゃないか?


「うん、だよね! よーしエメラルドちゃんおいで~。うちにきたら、えーとなんかゆるくて楽しい生活が待ってるよ~」


【エリザベアーチャンネル】:マレ熊ちゃん、五万人達成おめでとうございます。

[【エリザベアーチャンネル】¥10,000 ご祝儀なので気にせずお納めください]


「あ、ベアーちゃん。わっスパチャまで! エヘヘ……嬉しいなぁ。来てくれてありがとう!」


【エリザベアーチャンネル】:ちょっと見てましたが、過酷な配信をしてますね


「うん……いまその過酷さに気付いたとこ。で、今は神頼みでお絵描き中です……」


【エリザベアーチャンネル】:マレ熊ちゃん、絵下手なんですか?


「うん下手。できた絵見てもあんまりからかわないでね」


コメント:からかわない、からかわない。なのでなにとぞお絵描き配信を

コメント:画面見せて、マレ熊~


「ま、まぁまぁお絵描き配信はまたの機会で……完成した絵はちゃんと見せるから。えーと、そうだ。ベアーちゃん、配信どのあたりから見てたの」


【エリザベアーチャンネル】:無償百連の後半あたりからですね。全然当たらなくてハラハラしましたよ


「そりゃ爆死配信ですから。もともとは」


【エリザベアーチャンネル】:その爆死配信ってなんで思いついたんですか


「うーん、色々ガチャ動画を見て回ってね。配信者が爆死する様を見てリスナーがすごい盛り上がってるのいいな、って思って」


【エリザベアーチャンネル】:うーん、配信者が爆死して盛り上がるかはその配信の傾向による気がしますけどね


「え、そうなの」


【エリザベアーチャンネル】:マレ熊ちゃんはソシャゲも初心者ですし、そんな子がいきなり爆死したら心配になりますよ

クッチャマ:ベアー様、よくぞ言ってくれました! この配信始まった時からもう心臓が痛くて痛くて!

シベチャチャ:マレ熊が頑張って考えた企画だから、応援はしたいけどな


「そうだったんだ……」

 あらためて自分の配信のチャット欄を見返す。そこにはマレ熊を心配するコメントが少なくない。このコメント達が自分には見えてなかった。


クッチャマ:……マレ熊。次の十連当たらなかったら、やっぱり出るまで当てるのか?

コメント:十分神引き見せてもらったし、十分な気がするなー

コメント:次天井でSSR一枚は確定だし、終わるにはキリいいんじゃないか?


「……うん。決めた。絵描き上がったら、それで最後の十連にする。エメラルドちゃんが来てくれなくても、そこでおしまい。マレ熊のガチャ挑戦は終了とします」


シベチャチャ:それがいいよ

クッチャマ:まれにみる豪運配信だったしな、おつりがくるよ


「そうかな、うんそうかも! よーし、絵もそろそろ描きあがるし。ベアーちゃんも時間があったら、見届けていってね」


【エリザベアーチャンネル】:はい。今夜は深夜配信の予定なので、このままマレ熊ちゃんの配信で起きてようと思います

コメント:なーマレ熊、絵完成する前にやっぱちょっとだけ過程見せてくんない? 

コメント:オレもオレも! からかったりとかぜっったいないから!


「む~……そこまで言われると。じゃ、じゃあそろそろ完成するからちょっとだけ、ね……」

 配信画面にお絵描きソフトの画面が映る。絵はもう仕上げの段階まできていた。

 長い髪をハーフアップにした緑のドレスの美少女が描かれている。


コメント:え、うま。

コメント:ゲームの公式が画像上げてるエメラルドにそっくりなんだけど


「うん、公式サイトのエメラルドちゃん見て描いたんだ。アレンジとかできないもん……下手だから。見たまま描くしかできないのっ!」


コメント:いや、それ十分すごい

コメント:マレ熊って神絵師だったんだ

コメント:神絵師あるある、ラクガキですって言ってとんでもないクオリティの絵あげるやつ


「もう、神絵師とかやっぱみんなからかってきたし! わたしが神絵師なんて世の神絵師さんに失礼だよ」

 ちょっと怒気を含ませてしゃべりながらも、マレ熊の手は止まらず、イラストの細かい点を修正していた。その手つきはこなれていて、普段デジタルイラストを描いてていないとは思えない。

「よし、完成だ! で、イラストをSNSにアップするとこまでがおまじないなんだもんね。恥ずかしいけど、ガチャのため。アップしちゃいます!」

 マレ熊のアカウントに、短時間で描いたにしては高クオリティのイラストがアップされる。『ガチャ祈念の絵です。「アンティークガールズ」のエメラルドちゃん描いてみました!』とつぶやきが添えられている。


「フーー……それでは皆様、長らくお待たせしました。最後の十連引きます!」


コメント:よーしこいこいこいこい

コメント:描けば出る、描けば出る


 最後の十連が始まる。R、SR、R、R……最後の一枚だ。SSRの演出が始まる。結果は————



「長時間お付き合いありがとうございました! 二百連ガチャの結果はSSRが十九人となりました。エメラルドちゃん来ず!」


コメント:惜しかった! でも十九人来たのもすごい!

コメント:今後ソシャゲ配信ある? 残りの一人はその時の楽しみにとっとこう

シベチャチャ:お疲れ! スリルあって楽しかったぞ。自分がガチャ回してる気持ちになった

クッチャマ:おつ~! マレ熊がイラストイケるってわかったのが個人的に収穫だわ

【エリザベアーチャンネル】:絵素敵でしたよ。配信お疲れさまでした。


「リスナーの皆とベアーちゃんの助けもあって、ガチャ完走できました! チャンネルも五万人に達成したということでこれからもゆるーく頑張っていきたいと思います。ベアーちゃん、この後の配信頑張ってね! 今夜はマレ熊の豪運ガチャ配信、五万人達成記念をお送りしました! では次回の配信までさようなら~」


この配信は終了しました。


 最初に掲げた目標を達成はできなかったが、充実感が身を包んでいる。紆余曲折あったけど、落ち着くところに落ち着いた気がしている。

「五万人も無事達成したし、ガチャ配信もみんな最終的には楽しんでくれたし、やってよかったな」

 初の記念配信で一区切りついた感じはするが、明日もマレ熊のライバー生活は続くのだ。とりあえずは……

「アップした絵、やっぱ恥ずかしいな……削除したいけどダメかな?」


 この後、マレ熊はSNSで「ガチャも終了したので、私が描いた絵は削除しちゃってもかまわないよね?」とリスナーに聞いて、大反対にあい、泣く泣く絵を公開し続けることに決めた。

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