第27話 ダンジョンでむしむし地獄

 二人は今ダンジョン攻略に挑もうとしていた。ダンジョンから吹く風は内部で反響して、まるでうめき声のように聞こえ、なんとも不気味だ。

「行きますよ……」

 コクリ、とマレ熊は頷いた。


カツーン、カツーン……


 鍾乳洞になっているダンジョンは入った瞬間、足音が変わった。今のところ危険な感じはしない。入った瞬間、危険な生物が襲ってくると思っていたマレ熊は拍子抜けした。


「あ、なにあれキレイ」


 洞窟の壁面には巨大なクリスタルがあった。自ら発光しているのか、ほの白く光っている。その光に引き寄せられて走り寄り、取り出したツルハシで早速叩き出す。

「うわ、貴重な鉱石がこんなにとれる! お宝ですよー!」


 一方エリザベアーも地面に思わぬ宝物を見つけていた。

「あら、これは地上ではそうそう見かけないレア素材の植物じゃないですか。ありがたく採取していきましょう」


 エリザベアーが地面に目を向けている間に、一個目のクリスタルを取り終わったマレ熊が次のクリスタルを求めて歩き出した。前方の曲がり角のとこから燐光がもれている。あそこにも巨大クリスタルがある。

 エリザベアーがあらかた植物を採取し終わってマレ熊を呼ぼうとすると、彼女は豆粒大、よりは大きくサッカーボール大ぐらいになっていた。


「マレ熊ちゃん!? 単独行動は危険ですよ」


 慌てて向かうが、もう遅かった。


「ぎゃああ!! ウニュウニュがいっぱい! ひっクモ!? クモもいるーっ!!」


 曲がり角の先には虫嫌いの地獄が待っていた。地面を覆いつくすほどのムカデ、丸々と太ったクモたちが天井からスーッと降りてくる。マレ熊はすっかり戦意を失って固まってしまった。鼻先までムカデが毒を吐きながら迫ってくる。


 ビューーン、ザクッ!


 エリザベアーの放った強化ボウガンがムカデの頭部を貫いた。


「マレ熊ちゃん、固まっている場合じゃありませんよ! 早く攻撃態勢に移ってください」

「う~あの虫の軍勢に向かって行く……考えただけで吐き気が」

「これはゲームですよ。本物の虫じゃありません、頑張って」

「ゲーム……本物じゃない、これはデータなんだ。偽物……なんだ!」


 自分に言い聞かせ、なんとかマレ熊ジュニアで攻撃をしかける。クマがガブリとムカデの肉を引きちぎった。


「あ~ジュニア! 虫は攻撃するだけね、食べないでね! お腹壊しちゃうよ」


 後方からクモが糸を飛ばしてくる。ムカデを処理している間にマレ熊はその糸にかかってしまった。スロウ効果があったようで、マレ熊はクマごとほとんど身動きがとれなくなってしまった。


「くっ……。このままじゃ……。」

「マレ熊ちゃん、一旦後ろに下がってください」


 エリザベアーが糸攻撃を避けられる位置でボウガンを連射する。そして、大分敵が弱ったところで、クマの突進攻撃で一気にクモを吹っ飛ばした。

 ようやく糸から解放されたマレ熊もボウガンを撃って、追い打ちをかける。残っていたムカデがマレ熊に毒をかけるが、そのままクマで攻撃して押し通した。


「ふー……。なんとかこの辺りの敵は一掃しました。マレ熊ちゃん、毒は大丈夫ですか?」

「大丈夫です、このための解毒剤っと」

 すぐさま用意していた解毒剤で治療する。

「ちょっと二人ともレア素材に集中しすぎちゃいましたね、今度から素材を取るときは一人が見張りをしましょう」

「ですね~ついつい良質な鉱石につられちゃいました」


 では先に進みましょう、と今度はエリザベアーが先頭を進む。後ろについていきながら、マレ熊はこっそり反省していた。

(あ~虫は覚悟してたつもりだったのにーっ。こんな足手まといじゃダメだ。ダンジョン攻略でベアーちゃんとのしこりなくすって決めたんだから!)

 次の戦闘こそ活躍しようとマレ熊は決心した。


 その後も、定期的にムカデ・クモ軍団が襲ってきたが、マレ熊は嫌悪感を押し殺し、積極的に前に出た。その分毒も浴びたが、大量に作ってきた解毒剤で治癒しながら、勇敢に戦った。

 そして大分マレ熊が虫に慣れたころ、二人は洞窟の深部までたどり着いていた。正面は一見行き止まりにみえたが——よく見ると、人が這いつくばってなんとか進める程度の横穴がある。


「ありゃ、この先はクマに乗っていくのは無理そう」


 マレ熊はクマから降りて、横穴に近づき、少し中を進んでみた。それなりの距離があるが、穴の先はまた広くなっていそうだ。地形的にもここが最終局面だろう。きっとこの先にダンジョンのお宝が待っているはずだ。

 戻ってきたマレ熊は、エリザベアーにそのことを伝えようとして気がついた。エリザベアーがクマに乗ったまま微動だにしていない。


「ベアーちゃん? ベアーちゃん?」

「ハッ!」

 エリザベアーは放心してたようだ。マレ熊はピンと来てしまった。


「ベアーちゃん、もしかして狭いところ、苦手?」

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