第24話 海中の攻防
恐竜ゲームの初配信から二人はすっかりこのゲームにハマってしまい、連日長時間配信が続いた。
長い時間を共にする中で、お互い言葉もくだけていき、マレ熊はエリザベアーに対して敬語が抜けた。エリザベアーは敬語キャラを保っているが、大分柔らかい口調になった。
ゲームを終えるとともに寝て、起床したらゲームを起動する毎日。
二人の現実の生活が乱れていくにつれて、ゲーム内の生活は充実していった。
まず本拠点が完成し、中には恐竜達の飼育小屋が設置された。そのほかにも、鉄鋼炉、本格作業台、料理窯などなど……。近くの水場から水道管を引いて拠点内に水飲み場が完成した時は、かなり苦労したこともあって二人ともテンション爆上がりで喜んだ。
「マレ熊ちゃん、これを見てください」
「なになに、何かいいものできたの?」
コメント:ベアーちゃんずっと作業台で何か作ってたけど完成したのか
コメント:今日はどれぐらい文明発展するのか楽しみ~
「とってもいいものですよ、ほら」
エリザベアーが取り出したのは、酸素ボンベ、フィン、ダイバースーツ。海に本格的に潜るための三種の神器だった。
コメント:お、これは
コメント:とうとう海に本格進出か!
「………今日のマレ熊の配信はここまで。みんな見てくれてありがとうー」
「現実逃避しないで、マレ熊ちゃん」
マレ熊はダイバーセットを見た途端、顔色を変えて回れ右した。その反応は予測範囲内、とばかりにエリザベアーがため息をつく。
「いいですか、マレ熊ちゃん」
「あ~正論聞きたくない~」
「正論ってわかってるんじゃないですか。いつまでも海を避けてるわけにはいかないんですよ。海には重要な資源が一杯あるんですから」
コメント:マレ熊、メガロドンにやられてからすっかり海がトラウマになったもんな
コメント:今はベアーちゃんが一人で潜って資源取ってきてるけど
コメント:でも、二人で協力しないと水深の深いところはキツイよ
エリザベアーは深海への挑戦を目指していた。素潜りで行ける範囲の海とは比べ物にならないほど豊富な資源が深海にはあるのだ。
「ベアーちゃん……お願い。海にはベアーちゃんが行って……」
「ダメですよ、一人で深海はさすがに荷が重すぎます」
がっくり肩を落とすマレ熊を見て、エリザベアーが励ますように声をかけた。
「大丈夫です、マレ熊ちゃん。私に作戦があります。きっと海を克服できますよ」
「え、それってどんな……」
「ずばり古代クジラを捕まえるんです!」
尻込みするマレ熊を引きずるようにして、二人は海にやってきた。砂浜でダイバースーツへと着替える。
「クジラがいるような場所はメガロドンもいるよね……」
「ヤツとの対決は避けられません。そこは頑張りましょう」
「スパルタ、スパルタ人ベアーちゃん」
泣き言を言いながらも、さすがにもう逃げられないと悟ったのか、酸素ボンベを装着し、恐る恐る海に入っていく。
「さぁ、行きますよ!」
「置いてかないでね。常に横にいてね、うぅ海の中、暗いよ~」
マレ熊を気遣ってエリザベアーはゆっくりと沖に向かって泳ぎ、そして徐々に深く潜ってゆく。少し潜ると早くも影が近づいてきた。あの大きさは——
「メガロドンだ! やばい逃げよう!」
「落ち着いて、今のあなたは最初よりずっと強くなってるんですよ。さぁ、ボウガンを構えて」
「ひぃー!」
マレ熊の死にもの狂いの攻撃とエリザベアーの正確無比な射撃でメガロドンはあっというまに血だらけになり、最後はエリザベアーの槍の一突きであっけなく倒れた。
「あれ、死んじゃった」
「ね、そんな強い敵じゃないでしょ? 低レべの時に遭ったから強く感じたんですよ」
「そ、そうだったんだ。私もうメガロドンに負けないぐらい強くなってたんだね」
「さ、クジラ探しに戻りましょ」
少し海の中が怖くなくなったマレ熊は多少エリザベアーと離れても泳げるようになった。手分けして探すこと三十分——
「いました、古代クジラです」
「うわぁ、おっきい……」
メガロドンよりも二回りほど大きい身体がゆったりと海の中を泳いでいた。
「ちょっと近づいてみましょう。大丈夫、攻撃はしてこないので」
「う、うん」
エリザベアーにならってクジラと並走して泳ぎ出す。クジラはこちらを気にする風でもなく、ただ穏やかだ。顔をのぞき込むと優し気な目がこちらを見たような気がした。
「さぁ、クジラを仲間にしますよ。クジラには罠は必要ないようです。ただこうやって並走して泳いでクジラのお腹がすいたらエサを与える」
「え、そんな簡単なの?」
「ところが、クジラにエサを与えるとですね、」
エリザベアーがポイとクジラに魚肉をやる。すると、ゴボゴボと音がして魚の大群が現れた。皆凶暴な魚ばかりだ。
「こうやって敵が現れるんです、これをいなしながらエサを与える必要があります」
「さ、先に言っといてよ~!」
敵はメガロドンほど恐ろしくないが、大群で来られるとなかなか迫力がある。
「魚たちの相手は私がします。マレ熊ちゃんはクジラからはぐれないようにしっかり並走してエサを与えてください」
「うぅ~わかりましたぁ」
マレ熊は目を回しながら必死にクジラに追いすがって、エサを与えるタイミングをうかがった。
コポコポと自分の呼吸音が海の中に響く。
「よしエサ五回目っと。信頼度80%。もうすぐだ」
あれから必死にクジラにくっついてエサを与えることに集中してきた。
いつのまにか周囲はすっかり静かになり、凶暴な魚群の気配はない。エリザベアーがすっかり倒してしまったんだろうか。というかエリザベアーの気配もない。今マレ熊はクジラと二人っきり、いや一人と一頭きりだった。
「不安だけど、この子がいるとそこまで怖くないや」
クジラの穏やかな顔、時折もらす不思議な鳴き声のようなものを聞いていると、海の中にも関わらず心が静かになる。なるほど、この子を仲間にしたら海を克服できるかもしれない。
「おっと、エサ六回目。信頼度96%! 惜しい、あとちょっとなのに」
次にエサを要求されるのはいつかとマレ熊は焦れた。
じーっとクジラを注視していると、辺りに白い何かがフヨフヨ漂ってきた。魚群が現れたのかとはっとしたが、それが数匹のクラゲの群れだとわかるとほっと力を抜いた。
(なんだ、クラゲか。一瞬凶暴な魚が来たかと思っちゃったよ)
余裕、余裕と思いながらマレ熊はクラゲの群れをやり過ごそうとして——
電撃が走る。
「え、なに」
クラゲたちはまるで敵意なんかないように、マレ熊に近づいてきて電撃攻撃を食らわせてきた。
(あ、これマズい)
悟ったマレ熊が何とかクラゲに攻撃しようとボウガンを構えるも、数匹が次々に電撃を食らわせてくる状況では隙なんかあったものではない。
電撃によるスタン効果ですっかり動けなくなったマレ熊をなぶる様に、クラゲたちは囲んで攻撃をしかけてきた。
(嘘でしょ、こんなところで。クジラだってあと少しで仲間にできるところなのに……)
「マレ熊ちゃん、大丈夫ですか」
クラゲに殺されたマレ熊が拠点で目を覚ますと、エリザベアーが駆け寄ってきた。
「すいません、魚群に思いのほか手間取ってしまって。一人にさせちゃいましたね」
ムクリと起き上がる。
「マレ熊ちゃんの装備は回収しておきました」
エリザベアーが差し出したダイバースーツを受け取る。
「……クジラ、惜しかったですね」
マレ熊は無言でギュッとスーツを握りしめた。そんなマレ熊をエリザベアーは心配そうに見つめる。
「クラゲにやられたことはあまり気にしないで。いわゆる初見殺しというやつですよ」
「………してやる」
「マレ熊ちゃん?」
「駆逐してやる!!」
マレ熊はそう叫んで、某名作マンガの主人公の顔で拠点から飛び出した。
「あのクラゲ! 無害そうな顔で近づいてきて、集団で取り囲んでスタン攻撃……!
卑怯すぎる、絶対許さない! この世から駆逐してやるんだぁーー!」
マレ熊は走りながらダイバースーツを着込み、酸素ボンベを背負って、フィンを装着した。走りにくそうにしながらもダバダバと海を目指す。
「マレ熊ちゃーん、落ち着いてー! 一旦態勢を整えましょー!」
エリザベアーの叫びも耳に入らない。海にダイブしたマレ熊は憎きクラゲたちを探しに深く潜っていった。
エリザベアーがマレ熊に追いついた時、そこには何匹ものクラゲを駆逐しまくるマレ熊の姿があった。
その後、海の中だけバーサーカー化するようになったマレ熊はすっかり海を克服し、無事クジラも仲間にすることに成功したのだった。
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