第23話 恐怖の恐竜パニック!

「マレ熊ちゃん、なんか全然しゃべらなくなりましたけど、今どの辺ですか?」

「……サメッ……サメッ……ブクブクブク」

「え? 何ですか? よく聞こえません」


 マレ熊にそれ以上声を発する余裕はなかった。海面に上がり必死にサメから逃げる。しかし、相手は水棲生物。勝負は最初から見えている。

 空中をちらと見上げると、プテラが少し上でホバリングして待機していた。何してるの? とでも言いたげにマレ熊を見つめている。今、あの子に合図すればこちらに来てはくれるだろうが、水中から恐竜には飛び乗れない仕様だ。

 あぁ、もうメガロドンに追いつかれる。いっそのことプテラに参戦してもらって、一緒に戦おうか。いや、危険だ。せっかく仲間にしたあの子を私のミスで死なせる訳にはいかない。海に落ちたのは自分の責任。自分の始末は自分で取る!


「やああ!」


 マレ熊は逃げから攻撃に転じた。槍を構え、メガロドンに向かっていく。相手に槍を突き刺したが、噛みつき攻撃を正面から受けてしまう。槍が壊れ、さらに攻撃を受ける。マレ熊はあっという間に血だらけになって再び海面に浮かび上がった。上空には心配そうにこちらを見るプテラがいる。

 ここで死んでしまうのか。せめてあの子には私が死ぬところを見せたくない。

 もうすっかりプテラに愛着を持ったマレ熊は最後の力を振り絞って、ザブンと水中にもぐりこんだ。メガロドンはその牙をむき出しにして笑っているかのように見えた。マレ熊はそのまま素手でメガロドンに殴りかかり、海中で最初の死を迎えた。


 その頃エリザベアーは仲間にしたプテラに乗って、マレ熊が飛んで行った方向に向かっていた。先ほどマレ熊の死亡ログが流れてきたところだ。彼女の身に一体何が起こったのか。

 前方にマレ熊のプテラが見えてきた。海面近くを飛翔している。しかしマレ熊の姿は見当たらない。ようやくマレ熊のプテラと合流すると、水面にサメの背びれがチラリと見えた。

「まさか……」

 サメに気をつけながら、水面に少しだけ近づく。


 そこには死体となってもパンチングポーズをとり続ける、最期まで戦ったマレ熊の姿があった。エリザベアーは少しの間沈黙し、優しい微笑みを浮かべた。

「マレ熊ちゃん、最期までよく頑張りましたね」


コメント:マレ熊、いいやつだったよ

コメント:おい、せめて遺体を引き揚げてやろうぜ

コメント:海の見える丘にお墓作ってあげよう


「いや、死んでないから!」

 一回死んでランダムリスポーンしたマレ熊は見知らぬ湿地帯にいた。ここからエリザベアーと合流するまでどれぐらい時間がかかるのか。気が遠くなるマレ熊の背後に黒い影が忍び寄る。再びVCにマレ熊の悲鳴が響いた。


 死んで逃げて、その間にエリザベアーがリスポーン地点を作り、ようやくマレ熊は仮拠点に帰ってきた。

「あ~やっっと帰ってきた。うぅ、もうあらゆる恐竜に殺されまくりました」

「お疲れ様、そしておかえりなさい。マレ熊ちゃん」


コメント:死亡ダイジェスト作成おつかれ~w

コメント:ベア様の有能さに感謝するんだぞ


「ほんとにありがとうございました、ベアーちゃん。プテラも回収してくれて」

「今、私たちは仲間ですからね。ミスはお互いにカバーしあいましょう」

「はい!でも私がベアーちゃんをカバーすることなんてあるかな~あはは」


 マレ熊も帰ってきて仮拠点というひとまずの安住の地もできた。今後のことを話し合う時間だ。

「私たちに今最も足りないもの、なんだと思いますか? はい、マレ熊ちゃん」

「はい、先生。それは戦闘用恐竜です!」

 この恐竜ゲームは恐竜が目玉。採取にしろ戦闘にしろ人間は恐竜にかなわない。今後のサバイバル生活を安定させるためにも、主力となる戦闘向きの恐竜は欠かせない。

「なるほど、いい答えですね。では、その強い恐竜を得るために必要なものとは?」

「巨大罠です、巨大罠を作り上げて恐竜をおびき寄せましょう!」


 それから二人は罠のための材料採取にとりかかった。プテラの存在で材料採取の効率はかなり上がった。やはり恐竜は偉大なのだ。

 罠ができあがり、改めて二人はどの恐竜を捕獲するか話し合った。その結果——


「うぅ、長い爪が光ってます……」

「失敗は我々の死を意味しますね……」

 テリジノサウルス捕獲に挑んだのだった。


「マレ熊ちゃん! テリジノのヘイトがそちらに向かってます」

「よーし、罠はこっちだよ~そうそうそのままおいで~」

 二人はプテラで飛びながらテリジノを引きつけ、罠のある地点まで導いていった。

「ベアーちゃん。カバーお願いします!」

「えぇ。さあ、このまま罠に入ってください」

 プテラでテリジノを翻弄し、上手く罠の中にテリジノを入れることに成功した。


「さぁ、ここから餌やりのターンですが」

 ギラリとテリジノの目が光る。

「近くでみるといっそう迫力がありますね……」

「近くで見ると鳥っぽくて可愛い!」

 テリジノを間近でみて全く反対の意見を言うエリザベアーとマレ熊。可愛い、というマレ熊の感想を聞いて、エリザベアーがスっと餌を差し出してきた。


「マレ熊ちゃん、頼みます……」

「あっはい、わかりました」

 エリザベアーはそのままプテラに乗ってどこかへ行こうとする。

「あれ、ベアーちゃん。どこに行くんですか?」

「あ、あの私はアレです。食料の貯蓄が心もとないので肉を確保してきます」

「なるほど! ではこちらはお任せあれ。ごはんよろしくお願いします」

 そのままどこかフラフラと去っていくエリザベアーを見送りながら、ぽそっとマレ熊はつぶやいた。

「………もしかして怖かったのかな、ベアーちゃん」


 しばしたって。エリザベアーは「テリジノ仲間にできました!」というマレ熊の声を聞いて戻ってきた。そこには、さっそくテリジノに乗ってバッサバッサと無双するマレ熊の姿があった。


「ベアーちゃーん! この子すごいです。採取も上手だし、敵もこの爪でぼこぼこですよ~この見かけで木の実が主食なのも餌の用意が楽でいいですね♪」

「……ふぅ、今度は私がマレ熊ちゃんに助けられてしまいましたね」

「何か言いました?」

「いえ、なにも。さぁ、次は何をしますか?」

「そろそろ本格的な拠点がほしいですよね。テリジノもいるし、いい土地探しにでかけませんか」

「そうですね。あまりに強力な敵がいるところは避けて……」

「でも、狩る恐竜はある程度周りにいた方がいいですね」

「あと水場の近くであることは欠かせません」


コメント:今日の配信まだ続きそうだな

コメント:二人とも完璧にハマったな


 初日の恐竜ゲーム配信は明け方まで続いた。

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