第22話 海は広いな、大きいな

「ほんとにすみませんでした……」

「マレ熊ちゃん、いいんですよ。私の鼓膜のことは……さ、プテラのとこに急ぎましょう」

 プテラを見つけた喜びからVCで絶叫したマレ熊は、図らずもエリザベアーの鼓膜を破壊してしまった。マレ熊はペコペコと頭を下げながら、エリザベアーとプテラ遭遇ポイントへと向かった。


「いた……!」

 運がよいことに、二頭のプテラはまだ陸地を歩いていた。二人はひとつ頷いて、用意した罠を取り出した。

「プテラサイズならこの罠で十分なはず。問題はタイミングです。二頭同時に捕らえられるかどうか……」

「これは気合が物を言いますね」


コメント:なんかこっちまで緊張してきた

コメント:頼む! 成功してくれ


「合図をしたら一気に詰めますよ、マレ熊ちゃん!  3、2、1、GO!」

「GOー! プテラGOー!」

「マレ熊ちゃん、そんな叫ばないで! プテラにバレます」

 もちろんVCの音声はプテラには届かないのだが、エリザベアーにはマレ熊の大声が若干トラウマになっているようだ。


「「せーの!」」


 マレ熊とエリザベアーの手から罠が同時に放たれ、プテラに真っ直ぐ向かって行った。

「よっし! プテラ二頭GETーー!!」

 見事二頭のプテラは同時に罠にかかり、一時捕獲状態にすることができた。

「第一関門はクリアできましたね」

 ここからはプテラが要求するタイミングで餌を与えることで信頼度を上げていき、無事100%まで達したら仲間化成功だ。

「やりますよ。合図を見逃さないように気を付けてください、マレ熊ちゃん」

「了解です」


「やった! 仲間化成功です」

 マレ熊が餌を与えていた方がいち早く信頼度100に達した。野生の恐竜たちはランダムでレベル差があり、低いほど仲間化しやすい。マレ熊が担当していた方がレベルが低いプテラだったようだ。

「やりましたね。こちらもあと少しです」

 だが、そこからが長かった。プテラがなかなか餌を要求してこない。一方、仲間になったプテラはバサバサと翼を広げて二人の周りを歩き始めた。まるで今すぐ飛べるとアピールしているかのようだった。ソワソワし始めるマレ熊とエリザベアー。

「どうします、マレ熊ちゃん。この子にはもう乗れますが……」

「プテラが乗せられるのは一人まで、ですよね……」

 二人はもう乗りたくて乗りたくてうずうずしていた。


「「ジャンケン!」」

「グー!」

「チョキ!」

 マレ熊がグー。エリザベアーがチョキ。空の旅一番乗りはマレ熊に決まった。

「すみません、ベアーちゃん。プテラお先です!」

「クッ、もう一頭が仲間化したら私もすぐに……」


 マレ熊はさっそくプテラにまたがって飛翔の指示を出す。プテラは鳴き声を上げながら、空高く舞い上がった。この大地の美しい自然が目の前に広がる。

 前方にはキラキラ光る青い海。その先にそびえ立つ高い峰々。


「景色きれい……遠くの方までよく見える」

 まるで本当に空を飛んでいるかのような気持ちだ。

「マレ熊ちゃん、プテラの乗り心地はいかがですか?」

「最高です。今、わたしどこまでも行けます!」

 冒険心がどんどん高まるのを感じる。向こうの山脈には一体どんな恐竜達が住んでいるんだろう。どんな強い恐竜がいてもわたしにはプテラがいる。飛んで逃げてしまえばこちらのものだ。


「ベアーちゃん、わたしちょっと向こうの山を見てきます」

「え、向こうの山って結構遠いですよ!? 海一つ越えなければ行けないし」

「このプテラと一緒ならひとっ飛びですよ。じゃあ、ちょっと行ってきまーす」

「あ、マレ熊ちゃん!」

 エリザベアーの焦る声もなんのその、マレ熊はさらに高度を上げ、高さに歓声を上げながら、前方に見える山に向かって進んで行った。足の下が陸地から海に変わって、海原を悠々と飛んで行く。


「うーみは♪ひろいーな♪」

「マレ熊ちゃん、大丈夫ですか? こちらはもう一頭のプテラも仲間になりました」

「おぉ! やりましたね!」

 VCに嬉しい報告が入った時だった。テンションの上がったマレ熊は手がブレて、コントローラーの余計なボタンを押してしまった。その途端、感じる浮遊感。

「え」

 某恐竜ゲームあるある。飛翔恐竜に乗っている時に誤って降りるボタンを押してしまう。マレ熊の身体は美しい海へとまっさかさまに落ちていった。


「ぎゃあああああああああ!!!!」

 マレ熊が海に墜落するのとエリザベアーの二つ目の鼓膜が逝くのは同時だった。


ドブン!ブクブクブクブク……

 さっきまで絶好の景色の中、飛んでいたのに今は暗い海の中。マレ熊は慌てながらもなんとか海面へ浮かび上がろうと泳ぎ出した。上から見ると美しい青い海は、中に飛び込むと暗く恐ろしい。魚すら近くを通るとぎょっとする。調子に乗りすぎた己を恥じながら、もうすぐ海面に顔を出せる、そんな時だった。

ガツン!

 後ろから衝撃。そしてダメージ表記が出た。何かに攻撃されている。マレ熊は後ろを振り返り——

「……ヒュッッッ……!」今度は悲鳴も出なかった。

 そこには巨大サメ、メガロドンがうつろな瞳でマレ熊に狙いを定めていた。


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