第21話 恐竜ゲームでサバイバル!

 ある日の配信終わり。

「あー魚捕りが止められない」

 今日の配信では、ダイバーになって魚捕りをするPCゲームをやったのだが、放送後もゲームのやめ時がみつからない。ストーリーはリスナーと進めたいので、今は本筋に関わらないやりこみ要素をプレイ中だ。パソコン画面を注視していると、ディスコードの通知音が鳴った。確認するとエリザベアーからチャットが来ていた。


エリザベアー:配信お疲れ様です。今何してますか?

マレ熊:お疲れ様です。配信でやったゲームやってます

エリザベアー:捕れてますか?

マレ熊:ぼちぼちです

エリザベアー:実は最近マレ熊ちゃんの初期配信あたりを漁ってたんですけど

マレ熊:何のつもりですか!?

エリザベアー:いや、この前のコラボでは随分私の服のセンスを楽しんでもらったので……何かマレ熊ちゃんの弱みを握っておきたいなと

マレ熊:卑怯なりエリザベアー

エリザベアー:冗談ですよ。配信は見ましたけど

マレ熊:やめてくださいよ、初配信とか見るの。恥ずかしいんだから

エリザベアー:まあまあ。ところでマレ熊ちゃん、二回目の配信らへんで某恐竜ゲームやりたいって言ったの覚えてますか?

マレ熊:あー言ったかもです

エリザベアー:それ今も有効ですか?

マレ熊:やりたいですね~機会があれば


 ここで二人が話しているのは恐竜が住む島でサバイバル生活を行う人気ゲームだ。恐竜との戦い、サバイバル生活と楽しい要素が目白押しだが、なんといっても敵対している恐竜を捕獲して仲間にできるのが人気のポイントだ。ただしその美麗なグラフィックにより、高いスペックのパソコンが必要となるのだが。


エリザベアー:実は私このたびパソコンを新調しまして、某恐竜ゲームに挑戦したいと思うんです

マレ熊:おー!  おめでとうございます!

エリザベアー:で、始めるにあたってサーバーをレンタルしてプレイすることにしたんですけど、それだと一人でやるにはもったいないなと思いまして

マレ熊:もしかしてこの流れは……

エリザベアー:行きませんか、二人で恐竜の世界へ

マレ熊:よろしくお願いします。エリザベアー様!


 二人の恐竜サバイバルゲーム配信が決定した瞬間だった。

 数日後、二人はそれぞれのチャンネルで恐竜ゲームを開始した。音声はディスコでつなぎ、連携を取りながら進める体制だ。どちらのチャンネルにも千人以上の視聴者が集まっていた。


コメント:二人の恐竜ゲームとか超楽しみ!

コメント:このゲーム結構シビアだから、いきなり恐竜襲ってきて全滅もあり得るぞ


「ついに始まりましたね、私たちの冒険が」

「まず何からしましょうか、ベアーちゃん!」

 マレ熊はアバターに筋骨隆々のマッチョ男を選び、エリザベアーは均整の取れた体型の女性アバターを選んだ。男女ペアで映画のようなサバイバル生活にピッタリだ。


「とにかく採取からです。私は木を集めます」

「サバイバルの基本の木ですね! じゃあ、わたしは水辺で石を集めます」

 二人は黙々と採取を始めた。身体を動かすとお腹が空いてくる。まだ、狩りをするには用意が足りていないため、木の実を拾って飢えを満たした。

「ふぅ、材料も大分集めたし、何から手をつけましょうか。安定した食料の確保、簡易拠点の設営などやることは山ほどあります」

「まあまあベアーちゃん、まずは序盤のこの空気を楽しみましょうよ。無防備な状態で感じる大自然……あぁ、やっぱりグラフィックきれいだな」

「マレ熊ちゃんはこのゲームやったことあるんですよね?」

「数年前ですけどね~当時は結構ハマったけど、イージーモードでやったので実力は期待しないでください」


 材料が集まると、次に二人はサバイバルに必須の道具をそろえていくことにした。ツルハシ、斧、ナイフ、槍、弓矢などなど。槍を手にして、弓矢を背負ったエリザベアーが宣言した。

「それでは、今から狩りを始めます。情けは要りません。小さくて弱い恐竜を狙っていきましょう」

「弱肉強食ですね……仕方ありません。狩りましょう、小さくて弱いものを!」


コメント:がんばれー!

コメント:狩りの時間だーうおおお!

 

 マレ熊が必死に草食恐竜を槍で突いてる間に、エリザベアーが少し遠方から矢でダメージを与える。小さめの恐竜は囲んで槍で突きまくる。

「よし、肉を大分集められましたね。マレ熊ちゃん、火をおこしてください」

「了解です。あーこれで木の実生活から逃れられた」

 見晴らしのいいところで肉を焼き、これからの方針を話し合う。話題の中心はどんな恐竜を仲間にしたいか、だ。

「それじゃあベアーちゃん、簡単に仲間にできる小型恐竜をたくさん捕まえて軍団を作るのはどうですか?」

「魅力的ですけど、今の我々では餌がまかないきれませんね。自分たちの食糧で手一杯ですから」

「確かに……」

 残り少ない肉をかじりながらマレ熊は遠い目をした。そんなマレ熊の目にズシン、ズシンと歩く巨体が映る。

「トリケラトプスか……ベアーちゃん! じゃあいっそのこと大きい恐竜に一発チャレンジはどうですか? トリケラは身体大きいけど、草食で入手難易度はそう高くなかったはずです」

「うーん、トリケラいいですね……でも私たちまだ死んだときに戻ってこれるリスポーン地点を作ってないんですよね。チャレンジはせめてリスポーンできるようになってからが得策かと」

 ゲーム熟練者のエリザベアーはさすが慎重派だ。マレ熊は「なんかいい恐竜いないかな~」と辺りをさらに見回した。するとはるか下方の海岸に空から降りてきたプテラノドンが歩いているではないか。


「プテラ、プテラですよ、ベアーちゃん。プテラを捕まえたら、強い恐竜が襲ってきても空に逃げれますし、今後の冒険が一気に安全になりますよ!」

「飛翔恐竜ですか……」

 エリザベアーも海岸沿いを歩くプテラを見に来た。

「難易度高いですよ、あんなふうに降りてきたタイミングでうまく捕えなければならないし。まだまだやらなければならないことも多い今、プテラをずっと追いかける時間はありません」

「はい! ベア教官、マレ熊に作戦があります」

 マレ熊がかつて二人でFPSゲームした時のあだ名を呼んだ。

「発言を許可します、マレ熊三等兵」

 エリザベアーもノってきた。

「これからどっちみち仮拠点を作りますよね。その時、仮拠点の建築をする係と材料を集めながらプテラを探す係に分かれたらどうですか?  もし、仮拠点が完成するまでにプテラが見つからなかったら、拠点にリスポーン地点を作ってトリケラトプス

チャレンジに切り替えてもいいですし!」


コメント:お、これは合理的なんじゃないか

コメント:代替案もあるしどっちかの恐竜は仲間にできるだろ


「いいですね、それ。その案でいきましょうか」

「やった~!」

 さっそく二人は分担を決めて動き出した。建築が得意なエリザベアーが仮拠点を作り、マレ熊が材料集め兼プテラ捜索担当だ。材料を拾う合間にプテラがいないか周りをチェックする。材料がたまったらエリザベアーのところに持っていき、また別の場所に採取に行く……。

 三十分も過ぎたところで、エリザベアーの仮拠点はほぼできあがっていた。あとは細かいところを残すのみ。マレ熊の方は収穫ゼロだ。


「あ~見つからないな、そんなに甘くないってことか。まぁ、トリケラでもいいよね。大きくて角攻撃が頼りになるし。顔もわりと可愛いし!」


 それはマレ熊がプテラへの執着を捨てた故に現れた好機だったのかもしれない。

 ふと立ち寄った木陰から二頭のプテラが同時に降りてくるのが見えた。

「わ、わ、うそ!?」

 二頭は番なのか仲睦まじい様子でテコテコ歩いている。

 このチャンス、逃してはいけない。

 マレ熊は一目散にエリザベアーのもとへ走り出した。


「ベアーちゃあんん!! プテラが、プテラがいましたよおおお!!!」

 絶叫するマレ熊。

 その頃、仮拠点ではエリザベアーが死んだ鼓膜を押さえてうずくまっていた。

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