第20話 『マレ熊の』配信だから
「では、新衣装足元から順に行くよ~」
コメント:お、ハイヒール
コメント:花柄の靴可愛いな
「スカートはこんな感じの膝丈。靴と同じ花柄だよ」
コメント:ふわっと広がってて可愛い
コメント:柄がすてき
「上半身はこうなってます。全身花柄のドレスなんだ。この袖の感じもお気に入り」
コメント:この袖パフスリーブっていうんだっけ? 女の子らしくて好き
コメント:マレ熊二の腕細~い、うらやましい
「さぁ、次。ここが今回の目玉だよ、じゃーん髪型に注目!」
クッチャマ:おおおお!ロングだ!
シベチャチャ:ロングヘアーバージョンか!
コメント:うあああ可愛い
コメント:ボブ大好きだけどいきなりのロングは破壊力高い
「へへっ。ママがドレスに合わせてマレ熊のウィッグを作ってくれました。正面からだと少ししか見えないけど、後ろで編み込んであってかなり凝った髪型になってます」
クッチャマ:そんなん言われると後ろも見たくなる
コメント:設定画とかはありませんか
「騒ぐな愚民どもめ。もちろん用意してあるわ!」
コメント:あ、魔王様がきた
「通訳『設定画の解説もちゃんとするから、焦らないでね』ってことです。じゃあ、さっそく画像出しますね」
画面にドレスを着たマレ熊の後ろ姿、髪型のアップなどのラフ画が現れた。
コメント:おお! 後ろ姿新鮮
コメント:ドレス、結構背中開いてるんだね
コメント:髪の編み込みなんかくるくるしてて可愛い。アクセサリーも付いてる?
「この髪型にするまでは長い苦悩があった……。しかし、結局は今のスタイルで落ち着いた。栗色の髪を背中に垂らし、頭の周りに編み込んだ髪をめぐらすことで、あたかも花冠を被っているかのような乙女の姿。その上からさらに本物の花を飾ることも考えたが、結局は銀細工の熊のアクセサリーをつけることにした。ほら、ここだ。刮目せよ!」
コメント:あ、ほんとだ。アクセサリーよく見たら熊の顔がついてる
コメント:こまけー言われなきゃ気づかんかった
「細部に神は宿るのだ。それを今日は存分に学べ、愚民ども!」
「つまり『細かいところまで気を付けてデザインしてるからそれを今日は知ってほしいな』ってとこでしょうか。ママ、次はどこを解説しますか?」
「そうだな、次は……」
突如現れた魔王キャラの担当絵師による絵の解説と助手のように魔王の言葉を訳すマレ熊。次々現れるマレ熊の新イラスト。久しぶりの配信はチャット欄も大盛況で幕を下ろしたのだった。
「ふー……友世お疲れ様」
「疲れてなどいない。ふむ、なかなかに意義深い時間だった。また、降臨してやってもいいぞ」
最初はどうなることかと思ったが、友世のキャラは案外みんなに受け入れられた。設定も聞けて楽しそうだったし、二回目もありかもしれない。
「あはは、それもいいかも。なんかさ、配信ちゃんとできるか不安だったけど、いつも通りしゃべれたよ。友世が横にいたおかげかな」
「私の存在は大きかろう」
「そうだね、それとマレ熊。わたしが無理になんかやろうとしなくても、マレ熊がいれば十分に配信は成立するんだな~。今日みんなマレ熊のこと知れて嬉しそうだったよ。友世、ありが——」
「それは少し違うな」
友世が真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「例えば今日、いきなり私が美少女の絵を持って行って、その設定を説明したところで、同じようにあの者たちは熱狂しただろうか? 答えは否だ」
「それは確かに……みんなマレ熊に思い入れ持ってくれてるから、あんなに喜んでくれたんだよね」
友世の伝えようとしていることはなんとなく仁子にも理解できた。
「あの者たちのマレ熊への思い入れはマレ熊との様々な思い出からできたんだ。そしてそれを作ったのは仁子、お前だ」
「わたしがマレ熊を作った……」
「どうせ今回の配信でお前は『わたしなんかいなくても配信は成立するんだ、ぐすん』とでも思ってたんじゃないか? 全く自分を卑下することに関しては天下一だな」
「いやいや、そこまで卑屈には考えてないし! ……でも、そっか。わたしもマレ熊の一部なんだ。何だかで数ヶ月マレ熊を動かしてきたのはわたしなんだもんね」
なにか暖かいものが胸を満たしていく。
「そうだ、マレ熊の人気。それは私の天才的な画力によるとこが大きいだろうが、
仁子、お前の力も確かにあるんだ」
この友人がここまで言うなら信じてみてもいいかもしれない。自分の力を。
「さぁ、私にはこれから新たな美を生み出す役目が万とある。そろそろお暇するとしよう」
「友世、人気絵師だもんね。今日はわざわざ来てくれてありがとう」
「本来私を動かすには巨万の富が必要なのだが、仕方ない。マレ熊の出世払いとしておこう。これからもマレ熊を大いに使って、この
「あはは、承知いたしました。ママ」
「ふ~なんだかかんだで配信できちゃったな」
会社のこととか現実の問題は何も解決していない。でも気持ちは明るい方向へと向かい始めた。Vtuberを続けた道の先に何があるかはまだわからない。でも——
マレ熊と日常を過ごしてゆきたいから。だから私はVtuberを続けるんだ。
「さっ、なんか面白そうなゲームでも探そうかな~」
マレ熊の日常はまだまだ続く。
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