第19話 魔王様がゲスト!?
「あー……わたし、寝てた? うわ、身体バキバキ」
疲れた精神が眠りを必要としたのか、床に座り込んだまま浅い眠りに落ちていたらしい。折りたたんでいた足が思いっきりしびれている。
『マレ熊 茶子』を初めて見た時の記憶を夢に見ていた。あの時初めてマレ熊を見た時の感動を思い出す。いきなりVtuberのアバターを差し出されて戸惑ったけど、次第にワクワクが勝っていって、これでゲームしたり雑談配信したりするんだって思うとドキドキして。
でも今の自分は……配信のことを思うと不安になる。やりたいゲームも思いつかない。たった一時間ほどの会社との面談がここまで影響するなんて。どうしよう。黒歴史配信でダウン中って言い訳はどこまで通用するだろう。
「いや、だめだ。このままじゃずるずる配信しなくなる。内容は何でもいいから何か配信しないと……」
「配信内容なら決まっているだろう」
背後から急に聞こえた声に、仁子は声も出せないほど驚いた。心臓が止まったような気がした。
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには友世が立っていた。夢の光景が蘇る。そう、あの日も友世はこんなふうに仁王立ちで立っていて……? いや、こんな黒いオーラをまとっていただろうか。腕を組んで、大きなつり目はギラギラ光っていて。
「仁子。一体どういうつもりだ。返答次第では容赦しない」
目の前の友世は明らかに怒っていた。何も伝えてないけど、マレ熊の生みの親として何か感じるものがあったのだろうか。仁子は自身の配信へのモチベの低さを見透かされたのだと思った。
「友世、ごめん。配信のことだよね」
「いつだ?」
「え?」
「いつお前は私が与えた宝の数々を発表するつもりだ!」
「宝……って、あ、もしかして以前作ってくれたマレ熊の衣装のこと?」
友世の言い方はいつも回りくどいが、そこは長い付き合いだ。仁子の答えは正しかった。
「あれほどの品をパソコンの中で腐らせておくとは、人類の喪失だ」
「お、大げさ。もちろんちゃんと使わせてもらうよ。えっと、ちょうど今日配信するつもりだったから、みんなに見てもらおうかな~なんて」
「ほう、それはそれは……」
友世の機嫌が一転よくなった。けれどどこかサディスティックな雰囲気だ。ドSの顔でニマニマ笑っている。付き合いが長くてもこの不可思議な友人の全てはつかみきれない。
「さすが私だ。絶好のタイミングで訪問したという訳だな」
そう言って友世はずかずかと部屋の中に入っていき、配信パソコンの電源を勝手につけた。
「お~い! 友達でもさすがにそれは——」
「配信開始ボタンはどれだ?」
「待って待っていったん止まって。配信には色々用意が必要なの。サムネもタイトルも決まってないし、告知だってしなきゃだし!」
「じゃあ今すぐ支度しろ、40秒で」
「海賊かあんたは!」
【緊急雑談】きょうはゲストがいるよ急でごめん
「ほう、これで開始となったか」
「シッ! いきなりしゃべらないで。まずは開始の挨拶から……み、みんなこんばんは~。え~と、今回は無理やり、じゃなくてぜひとも配信に参加したいということでゲストが来てます!」
シベチャチャ:こんばんは、ずいぶん急だな
クッチャマ:告知見て飛んできた、間に合った
「う~みんなごめんよ。久しぶりの配信がこんな行き当たりばったりな感じで……」
「お初にお目にかかる。皆の者。今日もマレ熊への参拝ご苦労だ」
クッチャマ:え、誰このゲストさん。美声ですけども
コメント:初からみのライバー?
コメント:いきなりゲストに呼ぶか?
「私が何者か気になっているようだな、よかろう!心して聞け!我こそはここにいるマレ熊の創始者にして、この世に美を生み出す宿命を負って生まれた者!
「ちょー! 本名!」
コメント:え、何か情報量が多くていまいちわかんなかったけど、マレ熊の創始者?
コメント:ちょっと待って、渡志野 友世って言ったらあの有名絵師!?
クッチャマ:やっぱ友世先生がマレ熊のママだったんだ!画風でなんとなくそうじゃないかと思ってた
「あ、友世、実名で活動してるんだった。はーもう一瞬で冷汗びっちょり……
ゴホン!今自己紹介があったとおり、今日はマレ熊の絵師さんが遊びに来てくれました。せっかくの機会なのでまだお目見えしてないマレ熊の衣装を発表して、制作秘話なんかを解説してもらおうと思います。では、さっそく着替えてくるよ~」
マレ熊がぴょこと画面から消える。あわあわと慣れない新衣装の準備を進めている横で、友世が語り出した。
「して皆の者。マレ熊はどうだ?」
(友世~余計なことは言わないでよ~)
シベチャチャ:どうって楽しいよ、配信見てると
クッチャマ:癒しと尊さの配分がいい感じです
コメント:天然で笑かせにくるし
「そんなことは聞いておらん!顔のことだ!」
コメント:ひえっママ怖い
コメント:顔……ですか?天才ですけど?
クッチャマ:顔は常に優勝してます
「ほうほう、やはりお前たちのようなものにもわかるのだな、マレ熊の『美』は」
コメント:え、罵倒されている……?
シベチャチャ:ママ、キャラ濃いな。
クッチャマ:何かRPGのラスボスとしゃべってる気持ちになる
「みんな、お待たせ! 用意できたよ。それと、ママは『マレ熊のデザインはどうですか?』『皆さんに気に入ってもらえてるようで嬉しいです』って言いたいみたい。
魔王口調だからわかりにくいけどマレ熊が翻訳していくから、気を悪くしないでね」
シベチャチャ:いや、面白いよ
クッチャマ:日常会話に通訳がつくレベルw
「じゃあ、ついに新衣装、お見せしていくね!足元から見せていきま~す」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます