第12話 紳士たちとFPSゲーム!
「う~大神さん、もうやめません?」
「まだだ! おい、次勝ったやつが一億点な」
「もー永遠に終わらないこの勝負」
あの直後、大神は強引にパズルゲームの対戦モードを起動した。配信外ではあるがかつてのコラボと同じ、制限時間ありのパズルゲーム対決を始めたわけだが——
「あの、大神さんもう十戦目……」
大神は負けるたびに、もう一戦! 次勝ったやつが真の勝者!を繰り返し、一向に対決は終わらなかった。配信終わりに突然の道場破り、二時間近くの緊張感あふれる勝負、マレ熊の集中力は限界を迎えていた。
十三戦目。
「あ……」
マレ熊は大ポカをやらかし、ゲームオーバーを迎えた。その隙にと大神が点数を伸ばし、ついに大神が一勝した。
「よーし! 勝ち! このラウンドで勝ったやつが十億点ポイント、よってこの対決は
全く納得できなかった。む~としていると、「おい! 私が負けましたって言え」と大神がさらに神経を逆なでしてきた。
ここでマレ熊のわりと太い堪忍袋の緒がプチンとちぎれた。
「勝った回数は私の方が多いんですよ。……お、大神さんって、もしかしてゲーム下手なんじゃないんですかっ!」
言ってしまった。沈黙が痛い。その静けさはマレ熊を冷静に戻し、代わりに恐怖がわきあがってきた。
「……言うじゃねえか」
「ひぃ!」
「そこまで言うんならこっちにも考えがある。」
そう言って大神はパズルゲームを落とし、別のゲームを立ち上げた。それは今大人気のFPSゲームだった。ちなみにFPSが苦手であるマレ熊はもちろんプレイしたことがない。
「これが私の最も得意とするゲームだ。これで今度こそお前に私の強さをわからせてやる。ついでに配信もするぞ! ギャラリーがいた方が燃えるからな!」
「えぇ!? 今から? 告知もなしに?」
「告知は今からするんだよ」
大神はタタタッとSNSを操作し、一件の投稿をした。そこには——
「ゲームするぞ、集まれニートども」とだけ書かれていた。
すでに配信枠も立っている。大神は本気だ。
【FPS配信】今日こそお前らに教えてやるよ、本当の強さ【feat.マレ熊】
「よし、集まったかニートども。大神 顎様のFPS配信だ」
コメント:きたぞ
コメント:おっす
コメント:開始五分前に告知……ですか
コメント:大神 顎さんは「計画性」について考えたこと、おありでしょうか?
辛辣なコメントが続くが、これが大神チャンネルのいつもの光景だ。大神は歯牙にもかけてないが、マレ熊は怯えていた。
(ひえ~みんな怒ってる。やっぱいきなり配信なんて無茶だよ)
「おい、マレ熊。あいさつしろよ」
「あ、はい。こんばんは。マレ熊 茶子です。あの、このたびは大神さんのチャンネルにお邪魔させていただき……」
コメント:うおおおお女の子きちゃ!
コメント:マレ熊たんいらっしゃい、ゆっくりしていってね!
コメント:女子だ囲め囲め!
自分にも辛辣モードで来られると思って怯えていたマレ熊は拍子抜けした。いや、この圧倒的な歓迎ムードも別種の怖さがあるが。
「今日はこのFPS初心者女を完璧にキャリーしてやって、顎様のゲームの腕が本物だってわからせてやる。ほら、さっさと始めるぞ」
「う~何ボタンで撃つのかもわからないのに……せめてチュートリアルください」
「大神流は常に実戦の中で強くなる、だ。やってりゃわかる」
「もう無茶苦茶だ……」
「18! 38! ロー! ロー! ロー! ロー!」
「右のやつ、激ロー! よし、1キル!」
「おい、そこ射線通ってる」
「アンチ動いた。移動するぞ」
ここはどこ? 外国? 先ほどから大神は意味不明な言葉しか話してくれない。解説を頼んでも返答は、魂で感じ取れ、だった。困ったマレ熊に救いの手を差し伸べたのは、大神のリスナー達だった。
コメント:マレ熊ちゃん、ローはね、敵のHPが低いって意味だよ。激ローはローよりさらに相手のHPが削れた状態だよ
コメント:射線通ってるは相手の攻撃範囲に入ってるって意味かな。敵の銃の延長線上にいるから危ないよってこと
コメント:アンチは安全地帯の略ね。こういうゲームは安全地帯がどんどん狭くなっていくんだ。安全地帯の外にいたらそれだけでダメージ受けるよ
「みなさん……! ありがとう、本当にありがとう」
コメント:マレ熊たんファイト! 今のうちにリロードしとくといいよ。リロードってわかる?
コメント:なんでも聞いてねマレ熊ちゃん
大変紳士的なコメント達に助けられ、マレ熊は少しずつ立ち回りを覚えていった。
それに対して大神と言えば——
「左から別部隊! おい、カバーカバー!」
コメント:【悲報】大神 顎さん開始一戦目でキャリー相手にカバーを求めてしまう
コメント:おい、アギ! マレ熊ちゃん初心者だぞ、配慮しろ
コメント:アギちゃんお願いだからキャリーして。お母さんいつまでも待ってるから
もちろんマレ熊にカバーなどできるはずもなく、二人はそろってキルされた。
「チッ。次だ、次!一位取るまで終わらねぇぞ」
コメント:それなんて無理ゲーwww
コメント:アギちゃーん、マレ熊ちゃんの気持ち少し考えようか
次も負ける。その次も負ける。大神はひたすら強引なプレイングをし、マレ熊はもはやチャット欄と二人三脚だ。そして一時間後……
「アギちゃん、右に敵です。撃ってみます」
「前出すぎんなよ、相手の射線に気を付けろ」
「イエッサー! 頭を狙って……やった、当たった! アギちゃん今の見ました?」
「よっし、そのまま押し込むぞ」
マレ熊が攻撃を当てた敵に大神が突っ込んでいく。二人は大分連携を取れるようになっていた。しかし、アンチが狭くなったところで二部隊に挟み撃ちされ、負けてしまった。
「あー! 悔しい! いいところまでいったのにぃ」
マレ熊が声をあげる。
いくつもの共闘をへて、マレ熊は「大神さん」から「アギちゃん」と呼ぶようになっていた。チャット欄を頼りにプレイしてたマレ熊に自然とリスナーの呼び方がうつったのだ。
「今のは惜しかったな。しっかし、さすがに疲れた。ちょっと休憩しようぜ」
大神、いやアギがゲームを中断した。疲れがたまっていたマレ熊もそれにならう。
「しかし、お前最初から大分成長したな。走り方もわからなかったっていうのに」
コメント:マレ熊たん才能あるよ♡
コメント:わしらが育てた
「ありがとうございます。いや~困ってたら、チャット欄の皆が教えてくれたから。アギちゃんのリスナーさん優しいですね。ちょっと私に過保護すぎな感じですけど」
「そりゃお前が女だからだろ」
「ん? アギちゃんも女の子ですよね?」
「……あぁ、やっぱりな」
「え、なんですか」
「ちょうどよかった、あのさ、お前バビニクって知ってるか?」
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