第8話 ケモミミコラボ後編~てぇてぇは突然に~
【番外戦 エリザベアーVSマレ熊】
「それではエクストラマッチにゃ! ともにクマミミを頭に備えし二人の少女、エリザベアーとマレ熊。どちらのクマミミが強いのか、今ここで証明される! それでは勝負開始!」
大神の申し入れがきっかけで戦うことになったエリザベアーとマレ熊。エリザベアーの実力は先二戦で証明済みだ。マレ熊はスパチャに踊らされなければどれ程のものか。それが今証明される。スパチャ禁止となったチャット欄も息をのんで二人の対戦を見守っていた。
開始五分。エリザベアーのプレイスタイルは変わらない。最初は慎重に野菜を積んでスコアは気にかけない。じっくり時間をかけるスタイルだ。
マレ熊は……マレ熊も初戦とそう動きは変わらない。すばやく野菜を動かし、積んで大きく変化させていく。今この段階ではマレ熊のスコアの方が伸びていた。
が、エリザベアーはここからだということはここにいる誰もがわかっている。
時間も後半にさしかかり、エリザベアーの画面が動いた。野菜が次々と転がり、気持ちいいほどに順調に野菜が大きくなっていく。スコアが伸び、マレ熊の点数に近づいていく。
(やっぱり凄い、エリザベアーさん。カボチャゲームかなりやりこんでるって言ってた。きっと自分の中でしっかりした攻略法があってプレイしてるんだ。わたしは行き当たりばったりだ。流行ってるから始めてみて初見でうまくいってから一回も触っていなかった。こんなんで本当に勝てるの? 大神さんとの約束を守れる?)
大神は自分との戦いを茶番劇にされたことを怒ったっていいのに、マレ熊の本気が出せなかったことに怒りを感じてくれた。ちょっと口調は怖いけどやさしい人だ。
エリザベアーは大神の意思を汲んでこうして対戦することで戦いの場を作ってくれた。彼女のプレイはわたしの憧れだ。その彼女に今わたしは勝とうとしている。勝つ自信があるかといえば嘘になるけれど。
(大神さん、エリザベアーさん二人の気持ちにこたえたい。そのために、わたしはわたしのゲームに集中する。エリザベアーさんの画面は見ない。自分のプレイに集中してスコア3000点を目指す。そこに勝ち筋がきっとある!)
スコア3000点はこのゲームの中級者が目指す一つの壁だ。動画配信サイトにはスコア3000点越えを目指す配信が数多く存在する。エリザベアーも3000点を目指す配信をして、すでに達成している。しかし制限時間十分という制約のもとではまだその壁は超えられていない。
残り三分。前半リードしていたマレ熊のスコアをエリザベアーは追い越そうとしていた。が、マレ熊もあとちょっとというところで点を伸ばし、なかなか前を譲らない。
残り一分。エリザベアーの画面が再び大きく動いた。積んだ野菜が大きい野菜へ変化し、大きな得点を得る。ついにマレ熊の点数を超えた。リスナーたちが盛り上がる。
マレ熊は自分の画面だけを見つめている。3000点を超える。その山を登ることだけ考える。その時マレ熊の画面で野菜たちが大きく動き、大きい野菜に変化した。
エリザベアーのプレイに似た動きだった。
コメント:マレ熊覚醒キターーー! これは勝つる
コメント:いやいやベア様には及ばんて
コメント:二人ともスコアの伸びがいいな。3000点超えあるか?
残り数十秒。エリザベアーのスコアが遂に3000点に到達した。マレ熊ももうすぐ3000点に届きそうだ。まだチャンスはある。もう一回大きくスコアを伸ばすことができれば……。
終了。エリザベアー3078点。3000点越えだ。マレ熊のスコアはちょうど3000点を記録していた。
「終了~! 勝者エリザベアー! しかし二人とも3000点を記録するとは見事にゃ!」
(試合終わっちゃった……負けちゃった。でも3000点は達成できた。)
「おい、マレ熊」
「大神さん! あの……わたし負けちゃって、約束守れなくてすみません!」
「……お前、3000点いってたな。」
「あ、はい。なんとか」
「今日二回目でか。ムカつくな。私が配信何時間してそこまでいったと思ってる?」
「わ、わかりません!」
「……また今度さ、今度こそ私と本気でやろうぜ。その時は遥か上から叩き潰してやるよ」
そういって大神は笑った。
「っはい! 約束ですよ」
「マレ熊さん対戦ありがとうございました」
大神との会話の終わりを待って、今度はエリザベアーが話しかけてきた。
「エリザベアーさん、私こそありがとうございます! 対戦してくれたおかげでみんなにちゃんと私のプレイ見てもらえました」
「私もマレ熊さんに触発されて今日初の3000点超えできました。だからお相子ですよ」
「3000点越えおめでとうございます! 試合中は自分の画面に集中してたので、あとで配信見直してエリザベアーさんのプレイ確認します。わたしっエリザベアーさんのプレイのファンなので!」
それを聞いたエリザベアーは少し沈黙した。
「……マレ熊さんっていつも一生懸命で、なんていうか……かわいい、人ですね」
「か、かわいい? かわいい??」
エリザベアーの思わぬ言葉にマレ熊は頬を染めた。声がうわずる。
「えぇ、リスナーにもよくかわいいって言われるでしょ?」
「う、言ってくれる人もいます。でもなんていうか直接人から言われるのは……お母さんとかリア友以外に可愛いなんて言われたの初めてかも」
「そう、ですか、私が初めてなんですね。フフッ……」
「はい! エリザベアーさんみたいなすてきなひとが初めてで嬉しいです。」
「ふ……あははは……」
「へへへへ……」
「なんだこの空気。甘ったりぃ」
「うーん、これはてぇてぇというやつじゃな。喜べオタクども。クマミミ少女同士のカップリングにゃ。ベア×マレ爆☆誕☆」
コメント:ベアマレ万歳~~~~
コメント:マレベア派は少数派ですか?
コメント:いうてアギ×マレもてぇてぇと思うのオレだけ?
コメント:アギとマレ熊には少年漫画の熱さを感じた。よきライバル関係ってやつ
コメント:百合ありがとうございます。これで冬が越せます。
「ベアマレもマレベアもアギマレもマレアギも……みんな違ってみんないい。てな訳でケモミミコラボは百合エンドを迎えたという訳で、めでたしめでたし」
「ちょっとニャン田さん、アギマレだのマレアギだのなんすか?そんなものないっすよ!」
大神がすかさず抗議した。
「見えないものをのぞき込んで発見してきた者たちがここには大勢いるんだにゃあ。じゃあ、リスナーのお前ら。カプ絵・小説を書く際は検索よけを徹底しろにゃ。吾輩とのお約束だ。それでは今度こそ、閉幕閉幕。さらばだにゃあ」
この配信は終了しました。
配信後——
「あの、マレ熊さん。ちょっといいですか?」
「エリザベアーさんどうしました?」
「いやだったら答えなくていいんですけど……マレ熊さんって〇〇住みですか?」
「えっはいそうですけど。は、もしや今の配信でわたし何か情報ポロリしちゃってましたか?」
「いえ、それは大丈夫ですよ。そうかやっぱり……」
「あの、なんでエリザベアーさんはわかったんですか? わたしが〇〇住みって」
「あ、あぁすみません。気持ち悪いですよね、いきなり住んでいる所なんか聞いて」
「いえ、エリザベアーさんだったら別に気持ち悪くなんてありません」
「そうですか。……ハァ、マレ熊さんって無防備すぎるのでは?」
「えーそうですかね? だってエリザベアーさんが何かするような人とは思えないし。住所知られたって問題ないですよ。男性に聞かれた訳でもないし」
「男性に……そう、そうですよね。いやでも……ブツブツブツ」
「エリザベアーさん? すみません、ちょっとよく聞こえなくて。ディスコードの調子悪いのかな?」
「いや、なんでもありません。今日はありがとうございました、マレ熊さん。すいません、落ちますね」
「あ、はいありがとうございました……?」
ピロン♪
「エリザベアーさん急に二人で話し始めたと思ったら、もう落ちちゃった。なんか用でもできたのかな?」
結局エリザベアーがなぜマレ熊の住む地域を知っていたのかは謎のままだったが、マレ熊はそれに気づかなかった。
暗い部屋の中、青年がパソコンの画面をじーっと見つめていた。画面には『ケモミミーズ集合!野菜パズルゲーム対決だにゃん!』の配信終了画面が映し出されている。画面を見つめながら青年は深く深くため息をついた。
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