第7話 ケモミミコラボ中編~善行は身を助く~
(うあぁぁぁ……やっちゃった……)
スパチャ地獄から解放されたマレ熊はひとり自己嫌悪タイムに突入していた。
よりによって初コラボの場、人様のチャンネルで。とんでもない醜態をさらしてしまった。もはやなんてコメントすべきかもわからない。マレ熊は息をひそめて、ただ流れていくチャット欄を見つめていた。
コメント:っぱマレ熊よ
コメント:マレ熊の悲鳴まじウケたw今年いち笑った
コメント:アギたんおめ!勝ってるのにマレ熊気遣っててえらい
コメント:アギちゃんゲームにはまじめだから
コメント;まれにみるスパチャ祭りだったなwあんなん大手Vtuberの誕生日配信とかでしかみたことねぇわ
(あぁ、みんなそれぞれ好きなように配信楽しんでる。なのにわたしはうじうじして、戦い終わったのにちゃんとコメントもできてない。わたしVtuberなのに、リスナーより配信に参加してない。こんなんじゃダメ!わたしはマレ熊 茶子なんだ。ちゃんと「配信」しないと!)
「っ、フレーーーフレーーーお、お、か、み! フレーーーフレーーーえ、り、ざ、べ、あ、あ! フレッフレッ二人とも! 頑張れ頑張れ二人とも!」
「おぉーっと、どうしたマレ熊、一人応援団かにゃ?」
「そうですっ。敗退したわたしにできるのは二人を応援することだけです!」
コメント:一w人w応w援w団w
コメント:マレ熊初見なんだがいい狂いっぷりwフレーーフレーーwww
コメント:フレーーフレーーw
チャット欄がフレーーに埋め尽くされた。大神がキレる。
「だーー! コメントもマレ熊もうるせーー!! こん中で二戦目やれってか!」
「ひぃ!すみません、よかれと思って……」
「応援するってんなら、黙って見守れ金狂い女」
「か、金狂いって、あのわたしお金に狂ってたわけでは……」
「はいはいじゃれ合いはそこまでにして。二戦目始めるよ」
ニャン田がビシッと言い放って進行する。
【第二戦 大神VSエリザベアー】
「では、アギちゃん、よろしくお願いします」
「ケッ。格上のお前に勝利して今度こそアギトさまの実力見せつけてやる」
大神の挑発にエリザベアーは微笑むだけだ。
「では第二戦目始めるにゃん! レディゴー!」
大神とエリザベアーのプレイ画面が映し出される。大神はさっきより鬼気迫る勢いでスコアを稼いでいく。対してエリザベアーはじっくり考えながら進めている。
前半五分経過。大神がリードしていた。
「おい、ベアーいつもの配信の調子でやってちゃ、この勝負投げたも同然だぜ」
「ご心配ありがとうございます。けれど私は私のペースで戦わせてもらいますね」
勝負が動いたのは後半だった。ハイスピードにスコアを伸ばしていた大神の手が止まった。うまくやれば野菜を大きな野菜に変化させて高得点をもらえる。下手を打てばボックスから野菜があふれてゲームオーバー。そんな難しい局面を迎え、ウンウン考え始めた大神をよそにエリザベアーが動いた。
それまで慎重に積まれていた野菜たちがまるで操られているかのようにあるべき場所へ収まっていき、次々に大きな野菜へ変化していく。エリザベアーのプレイにチャット欄は沸いたが、彼女は冷静にプレイし続け、スコアは尻上がりに伸びていって3000点近くを記録した。
「遅くても最終スコアが取れれば、万事OKですね」
ニコッと微笑んでエリザベアーがつぶやいた。それは事実上の勝利宣言だった。制限時間終了。
「そこまで! 勝者エリザベアー!」
コメント:ベア様ーーー! 信じてました!
コメント:いつものごとく見事なお手前です!
コメント:アギたん泣かないでww
コメント:アギ、オレの胸で泣け!
「あ~~~お前らきもいコメントすんな! どこから湧いて出るんだよ毎度毎度!」
敗退した大神がやつあたりのように自分のリスナーに噛みつく。プロレスが始まりそうになったタイミングで「はい、そっからは自分のチャンネルに戻ってからにゃ、アギたんw」とニャン田が煽りながら止めた。
「さて……これで最終戦のカードが決まったな。吾輩対エリザベアー! 相手にとって不足はにゃい!」
「はい、そうですね」
【最終戦 エリザベアー対ニャン田】
開始一分でニャン田の野菜がはじけてゲームオーバーとなり、ほぼ負けが確定した。
「ギニャー! なんでいっつもこうなるんにゃあ!」
コメント:でたニャン田のハジケ芸
コメント:マジ何で一分で野菜をあふれさせることができるのか? 才能だろもはや
「これは何かの陰謀にゃ!」
ニャン田がわあわあチャット欄とやりあっている間にもエリザベアーは黙々とゲームを続け、先ほどと同程度のスコアでフィニッシュした。
「あ、十分終了か。はいエリザベアーの優勝優勝。吾輩は引退して家でこそこそゲームしてます……」
チャット欄はエリザベアーへの賛辞とニャン田引退しろコールで埋め尽くされた。
「おめでとうございます、エリザベアーさん! 大神さんとの戦いも、ニャン田さんとの戦いも野菜の動かし方が凄くて……見入っちゃいました」
マレ熊は勇気を出してエリザベアーに話しかけた。
「うふふ、ありがとうございます」
「あの後半バーッと野菜が大きくなっていくのは計算してやってるんですか?」
「う~ん、計算しているところもあるし、運に任せているところもありますね。マレ熊さんもすごいですよ、野菜の動かし方が的確で……」
「そんな、わたしなんて」
「はーい! そこでイチャイチャはストップ! マレ熊~負けたお前には恐怖の罰ゲームが待っているんだにゃ……もちろん吾輩にも待ってるんだにゃ~トホホ……」
「え、罰ゲーム?」
「は!? 聞いてねぇし! 罰ゲームって何やるんだ……何やるんですか?」
「言ってないからにゃ。はいリスナー喜べケモミミ少女の恥じらう姿が見れるぞ。お題は最近した善行を告白! ギニャー考えただけでサブいぼにゃ!」
リスナー含め全員がどこが罰ゲーム?と心が一つになった。ただ、ニャン田的には本気で恥ずかしいものらしく、身もだえしている。
「で、ではコラボ主催者として先輩Vtuberとして、吾輩が罰ゲームの手本を見せてやるにゃ。は~吾輩、最近な、えっとな……保護猫募金、したにゃ。」
ニャン田らしからぬ小さな声でつぶやかれた内容はツッコミどころがない普通に立派な善行だった。
「あ~~吾輩は告白したにゃ! 次はアギ! お前が恥かく番にゃ」
「や、別に恥ずかしいことじゃないし……普通に立派っすよニャン田さん」
毒気を抜かれた大神がその場の総意を言った。
「やめてくれにゃ~~そういう反応が一番恥ずかしいんにゃ~~。おら、お前も早く恥をさらすにゃ!」
「そんなこと言われても善行なんかねぇし……」
「パス禁止にゃ!」
「う~~~ん、あ、そうだ。私が生きて動いてることそのものが善行! 以上!」
場が一気に白けた雰囲気となる。その中でマレ熊だけが目をキラキラさせていた。
「かっこいい……」
マレ熊の拍手が響く。
「自分が生きてるだけで善行なんてなかなか言えませんよ。わたしもそういう姿勢見習いたいです!」
マレ熊の素直な賛辞に大神は沈黙した。褒められた途端、恥ずかしくなってしまったのだ。
黙り込む大神を見てニャン田が元気を取り戻した。
「あーはっはっはっはっ。そうだそうだお前も恥辱に身を震わせるがいい……
次はマレ熊! お前が羞恥地獄に落ちる番にゃ!」
「あ、はい。えーと、実はこの前落とし物を拾ったんですよ。目の前でICカードを落とした人がいて、声をかけても気付かなくて。だから走って追いかけて届けたんです。小さいけどこれも善行の一つですよね?」
今度は生ぬるい空気が配信に流れ出した。
コメント:うんうんうんうん
コメント:偉いねーマレ熊ちゃん
コメント:みんなの脱力が目に浮かぶようだw
「は~これじゃ、罰ゲームにならないにゃ。・・・ん、ベアー、ミュートか?」
「……あ、ごめんなさい。えと、くしゃみが連続で出てしまってミュートにしてました……」
マレ熊の善行の話を聞きながら皆が生ぬるい笑みを浮かべる中、エリザベアーだけは神妙に黙り込んでいた。上手くごまかしたのでその真意は誰にも気づかれることはなかったが。
「さーて、罰ゲームも終わったし、ここらでお開き……「ちょっと待ったー!!」
ニャン田の締めの口上を大神がぶった切った。
「やっぱり納得できねぇ。マレ熊に再戦を申し込む」
「え、えーーーーー!」
(大神さん、やっぱり納得いってなかったんだ、さっきの勝負。うぅどうしよう)
「うーん、それはどうかにゃあ……」
ニャン田は渋っている。
「二人は一度対戦してるわけだし……」
どうやら絵的に目新しくないのが引っかかってるらしい。
「今度はスパチャも止めさせて本気のマレ熊とやるんだ。全く違う勝負になる!」
「うーん、うーん、どうかにゃあ……」
「……あの、それでは私とマレ熊さんで対決はいかがでしょう? 同じクマミミを持つものどうし、クマミミ対決!とかならニャン田さんのお好みでは?」
「ん! ベアー、ナイスアイディア! イイネイイネ、クマミミ×クマミミ!」
「おい、割り込むなベアー!」
「アギちゃんはマレ熊さんが本気出せなかったことを気にしているんでしょう?」
図星を指されたようで大神が黙る。
「マレ熊さんの実力を認めたからこそ、マレ熊さんが本気を出し切れなかったこの状況が悔しいんじゃないですか? ……アギちゃんほんとは優しいから」
「ッハ! 私が優しい!? そんなんじゃねぇよ! ……あ~~もういい、気が削がれた。おい、マレ熊!」
「は、はい!」
「おまえ、ベアーとやれ」
「……え」
「ベアーに勝ってお前の実力証明しろ! わかったな! あぁん!?」
「ひぃ! はいわかりました! ……んえ? エリザベアーさんに勝つ、わたしが」
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