第6話 ケモミミコラボ前編~お金は計画的に~

 〇月某日。本日はマレ熊が初めて他Vtuber達とコラボをする日である。

配信タイトルは『ケモミミーズ集合!野菜パズルゲーム対決だにゃん!』


 画面にはマレ熊含め四名のVtuber達が並んでいる。主催者が口火を切った。

「元気か、皆の者~!それではこれより第1467回我らケモミミーズコラボ配信ファーストシーズン開幕~」

 マレ熊はこの時点でもう飲まれてしまっていた。頭の中がハテナで一杯だ。

(1467回もやってたの?? そんな伝統あるコラボにお呼ばれしてしまったの!?)

 もちろん冗談である。このメンバーが集まるのは今回が初めてだ。マレ熊は結構冗談を真に受けるタイプだった。戸惑っている間にもコラボは進んでいく。


「では、ディスコード順に自己紹介!まず吾輩から。主催のニャンにゃん!今回はお前らの好きなケモミミを集めてやったぞ。喜んでこの世の果てまで平伏せよ」

大神オオカミ アギト。犬じゃねーオオカミだ。今日勝つのは私だ。見とけよ!」

「はい、私の番ですね~。こんばんわ~エリザベアーです。今日も楽しんでいきましょうね~」

「……わ、わたしがマレ熊 茶子です。すいません、皆さんの挨拶が凄くて圧倒されちゃいました。えっと今回もゆるく楽しんでいきたいけど、いいですか……?」

「なに聞いてんだよ。自分の挨拶くらいバシッと決めろ!」

「ひぃ!」


 圧倒されてフワッフワッな自己紹介をしたマレ熊は、大神と名乗ったVtuberにいきなり気合を入れられてしまった。

 マレ熊が配信をちょっとのぞいて「みんな明るくていい人そう」という感想をもったこのVtuber達。実は曲者ぞろいのなかなかイカしたメンバーだった。

 まずは今回のコラボ企画主催者、ニャン田〈ニャンダ〉。ネコミミというよりほぼ猫のVtuberである。ギャグ漫画タッチのキャラデザで、わかりやすく色物枠だ。変人で狂人だがVtuber歴は長く、トーク力・MC力には定評がある実力者でもある。

 次に大神 顎〈オオカミ アギト〉。狼耳のVtuberで、他にも属性もりもりの見た目をしている。まず腰まである銀色の髪をアシンメトリーに斜めにカットし、それを高い位置で結んでポニテにしている。前髪には一筋の赤メッシュ。瞳は金色と瑠璃色のオッドアイ。服装はセーラー服だが足まで完全に隠れた超ロングスカートでひと昔前のスケバンスタイルだ。ロリっぽい顔と声をしているが、口調は荒い。喧嘩っぱやいため、リスナーとプロレスすることもしばしばだ。通称はアギちゃん、アギたん、クソガキ、負け犬、狂犬……。

 最後にエリザベアー。マレ熊と同じく熊耳を持つVtuberだ。ふわふわした金髪をハーフアップにして後ろでお団子にしている。瞳は穏やかな緑色で、通称はベアちゃん。ベア様。女神。真の清楚などなど。ウィスパーボイスでしっとり話し、それがとにかく清楚で可愛いと男性人気を得ている。大人しい外見に反してゲームセンスは高く、マニア寄りのハードなゲームを得意としており、そんなところも男性から評価を得ているポイントだ。


「さあ、ではさっそくゲーム開始としようかにゃ」

 今回コラボでやるゲームはマレ熊も一度プレイした野菜パズルゲーム「カボチャゲーム」である。ニャン田のチャンネルに全員が集合し、カボチャの1vs1の対戦モードを使って、勝ち上がり戦をする。

 まずは主催のニャン田を除く三人でじゃんけんし、一戦目はマレ熊VS大神と決まった。勝った方がエリザベアーと勝負することになる。

 ちなみにニャン田は主催として特別シードを宣言し、最終戦のみ参加する。


「結構いい順になったにゃ~ベアーはこの中じゃカボチャやりこんでおるし」

「ん~そんなこと……あるかなー? フフッ」

「で、一番弱いのがアギか?」

「あぁん、今なんていった、……なんていいましたか!? 私だって負けねぇ! 

一番やりこんでないのはこの新人だろ!」

 また大神に絡まれ、マレ熊はビクついていた。

(この子、今「あぁん」て言った……ヤンキーなんだきっと。でもよかった、頼んだ通り特別扱いはされてないみたい)


 マレ熊はコラボに参加するにあたって、まずなぜ自分を誘ったのか確認した。これは想像通り、カボチャゲームでバズってて面白そうだったからということだった。

 そこでマレ熊は自分を特別扱いしないでほしいとお願いした。バズった時のプレイは自分でもなぜあんなにできたかわからない、再現することは約束できない。あれから配信外でも一度もカボチャゲームをしていないので、何度も配信でゲームしている人達には敵わないと思うと話した。

 そうするとニャン田は、なら新人チャレンジャー枠として来てほしいと言ってくれた。それならぜひ、と返事して今日に至る。

(そうだ。私の気持ちに応えてくれたニャン田さん達に私も応えなきゃ! 圧倒されてる場合じゃない)

「大神さん! 今日私は挑戦者です。えっと、皆さんの胸お借りします!」

「ん、お、おぅ! よくいった! このアギトさまが実力の差をわからせてやるよ」

「はい、よろしくお願いします!」


【第一戦 マレ熊VS大神】


「それでは勝負を始める。ルールは十分間でより高いスコアをとったものを勝者とする。ゲームオーバーになっても負けとはならないが、その時点でのスコアが最終得点となる。では第一戦、はじめ!」

 カボチャゲームは通常の一人プレイでは時間無制限。ボックスから野菜をあふれさせない限りゲームオーバーになることはない。長考できるパズルゲームなのだが、今回の対戦では時間制限ありだ。より早くスコアを稼ぎつつ、ゲームオーバーにならないような立ち回りが要求される。

 大神はせっかちなため、普段からスピード感あふれるプレイをしていた。今回のルールは自分のスタイルと合っているため、自信があった。自信があったのだが……

「なん……だと……」思わず少年漫画のようなセリフがこぼれおちる。

 マレ熊のプレイ画面。その野菜の動きはかなり速かった。的確に野菜を積み、大きくしていく。スコアが上がっていく。

(くそ、コイツやっぱうめー! ビギナーズラックじゃなかったのか)


【ニャン田チャンネルのチャット欄】

コメント:うおおおおすげえええええええ

コメント:まじうめぇぇぇぇ

コメント:マレ熊たん頑張れ~!

コメント:アギちゃ~ん、このままじゃ負け犬になっちゃうよwww


 コラボ場所はニャン田のチャンネルのため、チャット欄は元々濃いニャン田のリスナーが多くを占め、そこに各ライバーのファンが書き込んで混沌と化している。

 ちなみにマレ熊の古参リスナー、シベチャチャとクッチャマもチャットに参加しているが、膨大で濃密なコメントに流されていく。

 制限時間の半分を過ぎ、マレ熊はすでに一つカボチャを完成させていた。スコアも高い。

「くっそおおおお!!」

 大神が吠えた。チャット欄の大神リスナーが、負け犬wwwと楽し気に書き込んでいる。彼女のチャンネルお決まりの流れであった。

 このまま勝負はマレ熊の方に傾いていくと思われた。しかし、そのとき一つのチャットが飛んだ。


[¥10,000 マレ熊ちゃん頑張れ頑張れw]


 大神を煽りたいリスナーによる酔狂だった。

「おーっと、マレ熊の大健闘にご祝儀だ! マレ熊ちゃーん、スーパーチャットだよん♪」

 ニャン田が声をかける。


シベチャチャ:あ、これはちょっと

クッチャマ:マズい流れに……


「す、スーパーチャット?」

 マレ熊がチャット欄に目を向け、そこにあった一万円という額を視認する。その瞬間彼女は叫んだ。

「お、おかねぇぇぇ! だめですお金そんな簡単に使っちゃだめです!」


 マレ熊はスパチャが苦手だった。普段マレ熊に投げられるスパチャは300~1000円程度のものだったが、目でわかる形でお金を投げられると落ち着かなくなるのだ。

 自分はお金をもらうだけの配信をしているんだろうか、と考え込んでしまい、悩んだ末スパチャを切ってしまうのがいつものマレ熊チャンネルの流れであった。


「い、いちまんえんも。いちまんえんも」

 気が動転したマレ熊を見て面白がったリスナーたちが次々にスパチャを送った。チャット欄が赤く染まる。高額スパチャ祭りの始まりだ。

「もったいないもったいない!」

 マレ熊が叫ぶ。

「スパチャ、スパチャ切らなきゃ。ボタンどこどこどこ!?」

 ここは他人のチャンネルだ。スパチャを切る権利があるはずもないのだが、マレ熊は気づかない。スパチャを切る代わりにとばかりに、パズルゲームのボタンを連打する。瞬く間にマレ熊のボックスが野菜で埋まり出した。


シベチャチャ:落ち着けマレ熊!

クッチャマ:このままじゃゲームオーバーになるぞ!


 二人の注意もむなしく、マレ熊のボックスから野菜があふれ、野菜たちが苦し気に飛び出した。

「マレ熊ゲームオーバー。スコアは1500点で打ち止め!」

 ニャン田が宣言する。マレ熊の狂乱に唖然としていた大神がそこでハッとした。

「ニャン田さん。今のは無効じゃないですか? マレ熊は明らかに様子おかしかった」  

 大神が抗議する。

「おかしかったね~でも勝負の世界はいつだって非情だにゃん。」

「……」

 少し黙ったのち、大神はゲームを再開させた。順調にスコアを伸ばし、2000点に到達した。その瞬間終了のアラームが鳴る。


「はい、そこまで~勝者、大神! はいみんな拍手拍手~」


コメント:888888888

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「……納得できねぇ、こんなの」

 大神の小さなつぶやきはマイクに拾われることはなかった。

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