第3話 流行りのゲームに挑戦したらチャンネル爆発した

 マレ熊 茶子の配信も今回で十回目を迎える。今日までは初配信でやった農業スローライフゲームにはまりこみ、ひたすら農場運営(とたまに雑談)の毎日だったが、十回目となるとちょっといつもと違うことをしたくなる。

 そこで今回は流行りのゲームに挑戦することにした。


【祝十回目】農場抜け出してパズルで野菜作ろう【頑張るぞ】


「こんばんは~マレ熊ちゃんねるにようこそ! 今日もゆるーく楽しんでいきます。本日やりますのは農場……ではなくてこれ! 野菜パズルゲームです!」


シベチャチャ:お、カボチャゲームか

クッチャマ:いまみんなそれやってんな


 シベチャチャとクッチャマ。この二人はマレ熊の初配信からずっと欠かさず配信に来てくれるリスナーだ。コメント量も多くノリもよい。

 常識的なコメントをすることが多いシベチャチャと楽しいオタクノリのクッチャマ。この二人のコメントはマレ熊の配信に欠かせないものになってきている。


「本当に人気だよねこのゲーム。プレイ自体は初見でいきたいから実況とか見ないでおいたんだけど、配信者!て感じのゲームもやってみたくて挑戦することにしました」


 今回マレ熊がやるゲームは、野菜のピースを使ったパズルゲームだ。ボックスの中に野菜を落としていき、同じ野菜同士をくっつけてより大きな野菜を作っていく。タイトルになっているカボチャが最大の野菜で、カボチャを作ることが目標となる。

 このゲーム、ルールこそすぐに理解できるものの、カボチャに到達するのはなかなか難しい。落とした野菜のピースが思いもしない方へ飛んで行ったり、大きな野菜を作っても、その合間に小さな野菜ピースが積まれてしまって、身動きがとれなくなり、そのうちにボックスがいっぱいになってゲームオーバーになってしまう。


「それじゃゲーム開始! へ~野菜の顔かわいい。BGMも落ち着く感じです」


コメント:BGM確かにいい

クッチャマ:カボチャはこのBGMがノイローゼになってからが本番だぞ

シベチャチャ:まだ一回も自分でカボチャにしたことないわ

コメント:このゲーム、ルールは簡単なのにムズイよな


「フフフフ~ン♪」

 チャット欄での会話をよそに、マレ熊はBGMを口ずさみながら野菜を落としていき、順調に野菜ピースを大きくしていっている。


「ここで、よいしょ。レタスになって、あ、なんか連鎖してキャベツになった」


シベチャチャ:なんかかなり順調じゃね?

クッチャマ:ビギナーズラック。カボチャはこっからよ


「フフフフ~♪ ……よし、もひとつキャベツができて、わーウリまで大きくなった! よし。あとはもう一つウリを作ってくっつけたらカボチャだね!」


コメント:かなり適当に落としてる感じなのにうまいな

コメント:野菜くる順番が神がかり的にいいと思うのはおれだけ?

シベチャチャ:や、マレ熊上手いわ。野菜の動きが無駄ない感じ


「よしキャベツいって、もういっちょ、ここで、ハイ、ウリできた!」


シベチャチャ:うおおおおお

クッチャマ:いけえええええ

コメント:くっつけーー!!

 画面上ではボックスの中に二つのウリができあがっている。あとはこの二つが上手くくっついてくれたら、カボチャに変化=上がりだ。チャット欄も盛り上がりを見せる。


「くっつけ! くっつけ! ……わーい!カボチャだ! カボチャ達成です~♪」


シベチャチャ:え、マジで!?

クッチャマ:マジ速いマジ速い

コメント:え、これ初めてのプレイ?

コメント:こんな速くカボチャってできるもんなんだ・・・


「ん? なんかコメントみる感じ私もしかして上手い?」


シベチャチャ:いや、めちゃくちゃ上手い

クッチャマ:ちょとマテ、カボチャできるまで何分かかった?

クッチャマ:3分ぐらいじゃないか? 下手したら今のRTAに並ぶ記録だぞ、これ!

シベチャチャ:マレ熊すげえええええ

コメント:すげえええええ

コメント:すげえええええ


「やったー! 嬉しいー! このままダブルカボチャ行きまーす!」


クッチャマ:いやさすがにそれはムリだろ!

シベチャチャ:いや、いけるとこまでいけ!

コメント:マレ熊がんばれええええ


 その後は、チャット欄も巻き込んで次の手を考えながらダブルカボチャを目指した。

 しかし、あと一歩のところでボックスから野菜があふれ出し、ゲームオーバーになってしまった。それでも配信は大盛り上がりで——


「いや~惜しかったぁ~けれどすごい楽しかった! これは流行るのもわかる!」


シベチャチャ:めっちゃいいとこまでいったんだけどな、ナイストライ!

クッチャマ:初回でこれは十分神だから!

コメント:すごかったー!

コメント:いいもんみたわ

コメント:これ切り抜かれるんじゃね?


「じゃあ初挑戦で大成功ということで! 今日の配信はそろそろ終わりにしたいと思います。コメントで一緒に考えてくれたみんなありがとう~!」


シベチャチャ:お疲れ様~

クッチャマ:おつ

コメント:おつかれ~


この配信は終了しました。


「あ~大満足! めっちゃ神ゲーだった!」

 配信が終わっても興奮が冷めやらない。今日の配信はいつもと違ってかなり白熱したものになったので疲れもあった。

「今日はもう寝ちゃお……」


 翌朝。いつもの六時に目が覚めたが、疲れが勝って二度寝した。

「いい傾向かもねー私にとっては……」

 むにゃむにゃしながら起き上がってゆっくり朝ごはん。たらたら家事しながら、今夜の配信について考える。

(う~ん、二回目のパズルゲームって感じでもないな。いつもどおり農場ゲームの続きでもしようかな)

 昼頃になって動画配信サイトを開く。トップ画面にずらっと並ぶサムネイルを流し見して……ショート動画の欄に目がいった。

(なんか見覚えのありすぎる姿が……)

 そこにはマレ熊 茶子の野菜パズルの切り抜きショートが上がっていた。

 タイトルは「新人Vtuberが偉業達成! 初見でカボチャ爆誕RTA」

 昨日盛り上がった配信の様子が切り抜かれてあげられていた。


「ひゃ~こんなんあがってる……」


 注目されて恥ずかしいやら冷汗がでるやら。結局謎の羞恥に襲われてそのショートを確認することはできなかった。どうにも気持ちがそわそわして落ち着かなかったので、今日の配信はお休みすることにした。


 さらに次の日、マレ熊は自身のチャンネルを何気なく開いた。

(あれ、なんかおかしいな……)

 数字がバグってる。チャンネル登録者の桁が多い。

 1、10、100、1000……どう見ても四桁あるように見える。

(いやいや、私の登録者数は確か10人ほどだったはず。サイトがおかしいの?)   

 更新、再起動、SNSで同事例がないかチェック……

 治らない。ということはつまり、これが本物の数字ということか。

(えーと……)

「……to be continued?」

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