第27話 学級委員①-1《七瀬勝視点》

「どうしたもんかなー」


俺は教室に朝早く着いたものだから、1人塾考していた。宮瀬先生に言われた学級委員の申し出をどうしようか。


「あれ、もう誰かいる?」


静まり返る教室の中に、その人の声がこだました。俺は振り返ると、黒髪ロングの美少女がそこにいた。


「えっと....」


俺に声をかけられたのではないけれど。反応してしまった。


(なんか気まずい。)


すると、頭を抱えて、俺の方を指差す。


「えーっと、あなたは留年生の。七瀬サン?」


「留学生みたいに、留年したこと、言うんじゃないよ」


俺がノリツッコミをすると、抱えていたカバンを前に出して、隠れながら笑っている。笑っている姿もこちらからすると、ときめいちゃうくらいの美人だ。


でも、そんなに面白いものかと思う。


「フフフ、面白いですね」


そう笑う顔が印象的な彼女の名前がわからない。


「えっと、あなたは」


すると、彼女は怒ったような顔になる。


「同じクラスメイトなのに....シクシク」


「悪い...」


「しかも、自己紹介したのに...シクシクシクシク」


「すまん」


最初の一回で覚えられなかった俺も悪いが、同じクラスの人の名前は覚えきれていない。


美少女は俺の方の目の前に寄ってくる。近い近いって...


「しょうがないですね。私の名前は吉川恵よしかわめぐみです。もう2度と教えませんから」


吉川は、髪の毛をとかしながらいう。少し恥ずかしいのだろうか。


そこもまた、かわいいのは事実でもある。


「それにしても、よく俺の名前知っていたな?」


「七瀬さんは有名ですから」


「えっもう、グループラインとかで悪口とか、派閥とかできてるの?」


彼女は微笑みながら、答える。


「いえいえ、そんなことないですよ。

ただ〜あの美人2人につめられてる七瀬サン。

ほんと『うざい』とかですかね」


「明らかに悪目立ちしてる」


俺は頭を抱えた。美緒と杏花は、あの2人とは、良い意味でも悪い意味でも目立つから...俺が自重しないといけないんだということを改めて実感する。


「フフフ、ほんとうにからかいがいのある人ですね。七瀬さんは....」


「嘘なのか?」


「嘘のような本当の話のような感じです」


嘘であって欲しい話だと内心思ってしまう。

それにしても、吉川の独特の雰囲気に流されている。なんだこの空気...


「それで、七瀬さんは今日の朝早く来て、どうしたんでしょう?」


「ちょっと考え事をな..」


「そうですか。考え事ですか...もしかして、あの2人のうち、どちらを選ぼうとかですか....」


吉川は俺の目の前の椅子に座って、


  頬杖をつきながら、「鬼畜ですね」という。


魔性の女という言葉が似合いそうな女だと思ってしまう。


いけない、吉川のペースに飲まれないように、俺は平然を取り戻す。


「そんなこと、考えとらんわ。ほんと、クラスのグループラインで何話してるんだよ」


というか。年上でもグループラインに混ぜて欲しい.....


「ふふふ、すいません。冗談がすぎました。

それで、七瀬サンの考え事とは?」


やっと本題に入ったみたいだ。


「宮瀬先生に学級委員をやってくれと言われてな。でも、俺がやって、うまくいくのかと思うと....」


吉川はハテナのように首を傾げる。


「やればいいんじゃないですか?学級委員」


「そうか?」


俺は訝しむ顔で、吉川を見る。すると涼しい顔で吉川は答えた。


「七瀬さんなら、うまくできると思いますよ」


七瀬は、俺の顔を両手でおさえて言う。


吉川はスキンシップが激しすぎるが、ここは平常心、平常心を思い出す。


「根拠はどこにあるんだ?」


「根拠は....あまりないですね。勘です」


ないのかよと思う。まぁ、根拠を言われても、まだ会って間もない人に元気付けられても、あまり響かない場合の方が大半だとは思う。


「じゃあ、私が副委員長やるんで、余ったところに七瀬サン委員長で」


「貧乏くじみたいに言うなよ。でも面白い」


「本気ですよ。私」


吉川は俺の目を合わせながら、目を逸らさない。


「えっまじ?」




「おおまじですよ。よろしくお願いしますね。委員長!」


「おい、ちょっと」


すると、吉川は教室から出てしまう。言い逃げというか。なんというか。学級委員になるか、ならないかの決断はまだできそうもない。


「それにしても、なんなんだ。あいつ」


吉川という美少女が去った、この教室。


俺はふと、窓を見ると桜から、花びらがひらひらとまってきたのであった。


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