第23話 水族館での帰り道 (それぞれ)

(七瀬勝視点)

美緒が通常で良かった。

さっきの何?

里奈?どうしたの?

「もう時間だから戻らないと」と言われて、俺の手をつかんでイルカショーのところまで戻ったけど。

何だったの?

里奈はカピパラの餌やりで本調子に戻ったみたいで、楽しく美緒と談笑してるけど。

頬にキスって?好きということなのだろうか?

何が何だかわからない。

でも、今まで妹としてしか見てこなかった里奈が急に1人の女の子に見えてくる。


「なんなんだよ」


「おにぃどうしたの」


不安そうな顔で麗香が見上げてくる。


「なんでもない。今日は楽しかったか?」


水族館の後、近くのファミレスに入ってご飯を食べた。4人で食べたが、終始、里奈は俺と顔を合わせてこないため、余計に意識してしまっていた。


「うん。おにぃとみんなで遊べてよかった」


「そうかー。良かったまた来ような」


心をざわつかせている俺に平穏をくれるのは麗香しかいない。


「それじゃあ、今日はここでおひらきにする?」


先を歩いていた美緒が振り返り声をかける。


「そうだな。今日はありがとう。麗香もお礼言って」


「ありがとうございます。美緒サン、里奈サン」


「うー可愛い。麗香ちゃんのためなら、いつでも遊ぶよ〜」


美緒は麗香に頬擦りをしていて、麗香は引き気味でも喜んでいるような気がした。


「勝兄さん、えっとその今日は色々とありがとうございます...」


里奈があれ以来初めて俺に声をかけてくれる。


「今日はありがとうな。またみんなで遊ぼうな」


俺は当たり障りない返事をした。


「...はいそうですね...」



俺たちは美緒と里奈にお別れを言い、電車に乗っている。美緒と里奈とは帰りの電車が同じはずだが、それぞれ用事があるらしく、俺と麗香だけ電車に揺られていた。


ブーブー、スマホの振動で、俺は画面を見る。すると


里奈 「今日のこと忘れないでくださいね?後遊びのお誘い待ってます。もちろん2人きりで」


俺はスマホの画面を閉じ、既読をつけなかった。今日の一件は嘘ではなかったらしい。



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(七瀬麗香視点)

やはり、里奈さんの様子がおかしい。イルカショーの間におにぃと何かあったのに違いないと私の勘がそう言っていた。


「おにぃどうしたの」


私はいかにも心配そうな顔でおにぃの顔を見た。おにぃは難しい表情をして考えている。私だけのおにぃなのに、私と違う女のことを考えている。


「今日は楽しかったか」


「うん、みんなとおにぃと遊べて楽しかった」


イルカショーも美緒さんといたから楽しめた。でも、おにぃがいればもっと楽しかったのに違いない。


「そうだな。今日はありがとう。麗香もお礼言って」


「ありがとうございます。美緒サン、里奈サン」


「うー可愛い。麗香ちゃんのためなら、いつでも遊ぶよ〜」


美緒さんが私の頬をスリスリしてくる。正直、うざったいのだけど。でも、イルカショーと今回の水族館で美緒さんはいい人だと感じた。スリスリくらいは我慢しよう。


おにぃと里奈さんがイルカショー以来はじめて会話をしている。おにぃは平常通りだけど。里奈さんは、そうではないらしい。


今回の水族館で里奈さんは要注意人物になった。



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(福井美緒視点)

「ふー今日は疲れたー」


「お姉ちゃん、帰りに◯浜のいつものとこで雑貨見て帰るけど?里奈も行くー?」


勝にぃと麗香ちゃんと別れた後、水族館のベンチに座っている私たち、里奈はなにやら遠くを見ている。


「おーっい。里奈??」


「うわっ。びっくりするなお姉ちゃん!」


麗香が上の空で聞いてるなんて珍しい。


「◯浜のいつものとこで雑貨見て帰るけど?って聞いてる」


「うーん。今日はいいや。海でも少し見てくるよ」


「へー。里奈が珍しいじゃん?外をお散歩したいだなんて」


いつもは紫外線が!!とかいうくせに。


「歩きなったそれだけだよ」


里奈は私のチャチをモノとも言わずに、少し、だけ変だった。姉妹でもわからないことは多いが、今回はあまり聞かないでいた方が良いのかもしれないと思った。


「じゃあ、私行くね!里奈も帰り遅くならないようにね!」


「うん、わかった」


そういうと、私たちは別々に帰ることになった。


「あっそう言えば、勝にぃにラインを教えてもらうの忘れてた」


後の祭りだったのである。



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(福井里奈視点)

お姉ちゃんと別れて、少し波風にあたっていた。

私の恋が始まった海。

勝兄さんと遊んだのはこの海岸ではないけど。潮風の匂いがあの頃の思い出を鮮明に思い出す。


「それにしても、勝兄さん。ほっぺにキスしただけであの驚きと慌てっぷり」


少し面白かったのか、笑みが溢れる。


キスした時。


水槽ガラスの向こう側にいた小悪魔おんなのこは、もう私の中に戻ってきた。


これで、本当の気持ちを押し殺していた自分はもういない。


お姉ちゃんと本当はショッピングをしたかったけど。罪悪感で心が傷みつけられる。


「これから、こういう思いが続くんだろうなー」


海に問いかけてもなにも帰ってこない。


唯一、私の中の答えは、お姉ちゃんに嫌われようとも、進むしかないとさざなみが教えてくれてるような気がした。



里奈 「今日のこと忘れないでくださいね?後遊びのお誘い待ってます。もちろん2人きりで」


既読はつかない。


でも、もうこれで、後戻りできない....





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