第22話 水族館での私?⑤(福井美緒視点)

結局、勝にぃは帰ってこなかった。その分、麗香ちゃんと楽しめたけど。


『皆さんありがとうございました。武蔵とモカもご挨拶〜』


イルカの二匹が挨拶してくれる。


「終わっちゃったね」


「ですね」


私たちは来ない2人のことに思いを馳せる。


「勝にぃを探しに行く?」


「行きましょう」


イルカショーが終わり、人がどんどんとはけていく。その中には、勝にぃとおねぇちゃんはいなさそうだ。


「いないね。勝にぃ」


「おにぃ、いないですね」


勝にぃはどこに行ってしまったのだろうか。


するとひょっこり、里奈の手を引きいて現れた。


「ごめんごめん。ジュース買おうとしてたんだけど。あまりにも混んでて、それで戻ろうとしたら、席にも戻れないで。ほんとすまん」


「いやーそれはしょうがないね。どこか見れたの?」


「里奈ちゃんと一緒にクラゲコーナー見てたんだよ。色とりどりのクラゲがいて、ちょー見応えありって感じなんだよね。美緒も麗香もいこうぜ」


私と勝にぃが喋っている間。ずーっと、私に顔を合わせない里奈。ずっと、勝にぃと手を掴んでいる。


「あのーさっきから気になってるんですけど。おにぃと里奈さん何で手を繋いるんですか?」


少し不機嫌そうに、麗香が言う。


すると慌てて、里奈が手を引っ込めた。


「さっき、人が多かったから手を繋いでただけだよ。はは」


里奈は、手をグーパーさせている。


「何かあったの勝にぃと?」


「いや別に何もないけど。クラゲ見てきただけ」


「ふーん」


勝にぃは頬をひっきりなしにかいてるし。里奈は、落ち着きがない。


「まあ、いいか。麗香ちゃん。クラゲみたい?」


私はまだ疑いの目線を向けている麗香ちゃんに声をかける。


「私はカピパラに餌あげたい」


麗香ちゃんが指差す方向には、カピパラの餌やりコーナーがあり、私たち4人はそちらに向かった。


なぜか、麗香ちゃんは勝にぃのズボンをずっと掴んでいる。


「麗香、歩きづらいって」


「ヤダ」


麗香ちゃんは勝にぃの話に取りつく島もない。


先ほどから、数歩後を歩く里奈はどうしちゃったんだろう。


「カピパラって草食だよね。どう言うの食べるんだろう?」


なぜか微妙な雰囲気となってしまったこの状況を和ませないと思う。


「うーんそうだな、キャベツとか食べるんじゃないか」


「キャベツね。大きな歯があるからそうかも」


「麗香ちゃんはどう思うかな?」


「にんじん」


「にんじんそうだね。美味しいよね」


「里奈はどう思う?」


里奈は私にふられると思っていなかったらしい。


「ほうれん草とか?鉄分とか取らないと朝きついし」


「鉄分。それ里奈が不足してるものでしょ」


「ワハハそうだね」


里奈は、薄ら笑いする。3人と喋っていると、やっと、カピパラの餌やりコーナーのにつく。


『今日のカピパラのご飯は笹でーす』


スタッフのお姉さんが元気よく声掛けをしていた。


「パンダかよ」


里奈が思わず口を滑らすと。麗香ちゃんも少し微笑む。やっと、みんな普通になった。


『次の方〜どうぞー』


スタッフの方が手招きしている。私たちは向かった。


『あれ〜。お嬢さん良かったね。パパとママと来れて。はい、これ笹どうぞ。カピパラのみーくんとモンモンが噛み出したら、手を離してあげてね。意地悪すると、怒っちゃうので」


そういうと、私たちに細長い竹というか笹をくれた。


「あれ、今、私と勝にぃのこと、パパ、ママと言ってなかった?」


私は顔に手をあてて、顔を赤らめる。


「はいはいお姉ちゃん、良かったね。カピパラさんが笹まってるよ」


私がドキドキしてる間もなく、勝にぃから離れたところにつれられる。


「お姉ちゃん、ほらほら。カピパラがこっちきたよ」


なんか自然な感じでこっちに引っ張られたけど。勝にぃから遠ざけられたような気もしたけど、考えすぎだ。


「おお。このカピラ、すごい。硬いところもめっちゃ食べてる」


あっという間に笹をたえたげてしまうカピパラのモンモンだ。


勝にぃの方のみーくんは、2人が差し出した笹をよく噛んで食べているみたいだ。


「ほら、おにぃ。もっとみーくんにあげてよ」


「よし、俺のもいっぱい食べろー」


勝にぃと麗香ちゃんも楽しんでいるようだ。


「ありがとうね。里奈」


「どうしたの?」


「里奈が水族館行こうと言わなかったら。こういう機会もなかったと思うから。ありがとう」


里奈にお礼を伝えると。


里奈は、複雑な表情をして

   「うん。良かったよ。喜んでもらえて」

と答えた。


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