第21話 水族館での私④(福井里奈視点)

私と勝兄さんはドリンクを買いに来たものの、出店はすごい混んでいた。イルカショーがすぐ始まるので駆け込みのお客さんも多いのだろう。


「うわー。これじゃあ買えないかもな」


「ははは、そうですね....」


勝にぃさんは、残念そうにいう。たぶん、麗香ちゃんに喜んで貰いたかったのだろう。


「それじゃあ、戻りましょうか」


「だね」


私たちはお姉ちゃんと麗香ちゃんの元に向かう。


「これは戻れるか?」


「えっと、戻れなさそうですね...」


イルカショーの会場は人で満員の状態だった。


『それではイルカショー始まりまーす』


飼育員のお姉さんの元気な声が会場に響き、イルカショーが始まってしまった。


「どうしましょう?勝兄さん?」


せっかくお姉ちゃんと勝にぃさんの2人だけにする作戦をしようとしていたのに、なぜか私と勝兄さんという2人になってしまった。


ちょっと予想外の展開ですね。


「うーーん。人をかき分けて、席に戻るのもはばかれるし。いっそ、2人で他見て回る?」


「ちょっと待ってください」


私は勝兄さんとの意外な提案に驚く。勝兄さんとは仲がいいし。私も勝兄さんと一緒なら楽しい(恋愛感情はないけど)。でも、お姉ちゃんに悪いような気がする。


「せっかく、来たのだから楽しまないと!」


「そ、そうですね」


勝兄さんの一声に負けてしまい、私と勝兄さんは後回しにしていたクラゲの展示場に向かった。


「たくさんいるなー。クラゲ」


「たくさんいますね」


私はクラゲよりもカップルの多さに、驚愕きぃうがくしていた。だって幻想的で何よりも照明が暗すぎる。


「おっこれなんて、ブラックシーネットルというやつらしい。全体的に赤くきれいだわ」


勝兄さんが水槽の前で指で示しているので、私も隣に行く。


「そうですね。赤く綺麗です。そういえば、小さい頃、私の家族と七瀬家の家族で海水浴行きましたよね。その時に私、クラゲで刺されちゃって、大泣きしてたら。勝兄さんがすっごい、あわててましたよね」


私は懐かしい思い出に浸る。


「そうだったよな。あの時、里奈ちゃん。死んじゃうと思ってヒヤヒヤしたんだよ。そのあと、大人に聞いたら、危ないクラゲもいるけど。大丈夫だと言ってくれたから安心したけど。あれはちょー焦ったよ」


小学生の頃の私の初恋の記憶。初めて、勝兄さんと会ったのは幼稚園の頃、クラゲの一件から勝兄さんをすごい意識するようになって。

いつの間にか、私は勝兄さんの事を好きになっていた。姉妹で同じ男性を好きになるなんて、空想上の話だと思っていたけど。勝兄さんの場合は特別だと思った。


「死んじゃうって。そんなに私のこと大切なんですか?」


「そうだよ。大事なご近所さん、友達?違うな、ああさっき、美緒と話してた家族じゃんかもう」


「家族....」


今はお姉ちゃんの気持ちを知ってしまったから、勝兄さんへの思いを蓋にした。


「そうそう。家族」


勝兄さんの屈託なき笑顔が本当にいじらしくなる。少し、意地悪してもいいよね...


「勝兄さん...あの海水浴の帰り、私が勝兄さんの頬にキスしたことも家族ならいいですよね?」


「う、うん?」


勝兄さんは驚いているようだ。今まで、私なんて、意識してこなかったのでしょうけど。


でも、私は今日で自分を誤魔化すことはやめにする。


「私のために、必死になってくれてありがとうの意味だったんです。まあ、別の意味も込めましたけど、それは•••」


私が話そうとした瞬間、


勝兄さんが「危ない」


と言って、外国人の観光客とぶつかりそうになった私を助けてくれる。


でも、勝兄さんと私は壁ドンするような形になってしまった。


「ごっ、ごめん」


勝兄さんは顔を真っ赤にさせながら、私を見下ろす。私はもっと勝兄さんを困らせるために意地悪をする。


「また、助けてくれましたね。これは、ほんのお礼です」


私はそういうと、暗がりの中で勝兄さんの頬にキスをする。


何が起こったんだ?という感じで勝兄さんは頬に手を抑えて、私を見ている。


「お礼のキスです。今度はわかるようにしておきました」



 私は水槽を横目で見る。水槽に反射された私の顔は自分自身の行いを嘲笑うかのように、笑っている。


もう、私、小悪魔みたい。


お姉ちゃんのために自分自身で隠していた勝兄さんへの思いはもう抑えきれない。


 私は恥ずかしそうに、口元を長めのセーターで隠したのであった。








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