第18話 水族館の私たち③-1 (七瀬麗香視点)

私とおにぃは、今電車に揺られている。海辺の水族館らしくて、少し遠い。


「麗香、イルカさん楽しみだな!」


「うん、楽しみ!」


演技はうまくできているだろうか?


今日の朝は危なかった。おにぃに勘繰られそうになったからだ。たまにおにぃは頭がきれるときがあるので要注意が必要だからだ。


私にとって、さそほど楽しみでもないイルカのショー。今回の私の任務(?)は美緒さんと里奈さんをおにぃから遠ざけることだ。


私はそれ以外、正直、興味がないのである。


今、私の心を沸き立たせているのはおにぃとの手を繋ぐイベントだ。


事の始まりは休日の人が多いこの電車で、おにぃが『私とはぐれないように』、私の手を握ろうという提案からだった。その提案に私は躊躇いもなくのり、おにぃの手を握ったのが現在である。


でも、やはり、おにぃにとって、小さい子供と見られるのも癪だとも思う。今の私は複雑な感情で電車の中で揺られてる。


「おにぃは何が楽しみ?」


「俺はだな..」


「もしかして、美緒さんと里奈さんの美人姉妹の私服姿が楽しみだったりして...」


私の挑発に少し眉をうごかしてしまうおにぃ。バレてないと思ってるかもしれないけど。私の目にはお見通しだ。長年、見てきたおにぃは少しスケベなところがあるのだ。


「そんなわけあるか。俺はクラゲに興味がある」


「へークラゲにね」


私が大して感情は湧かない。おにぃは物好きな時があるのは確かだ。そこも、私にとって愛すべきポイントだけど。


「クラゲはすごいんだぞー。クラゲっていうのはな....」


また、おにぃの説明が始まろうとしていたが、水族館の最寄りの駅に着いた。


「おにぃ、降りよう」


おにぃはまだ説明が足らないようだったが、大人しく私に手を引っ張られて降りる。


駅では人がごった返しており、ホームまで向かうのは一苦労だった。


「麗香、大丈夫か?」


「おにぃこそ、大丈夫?」


2人して人混みで疲れてしまう。


「まだ集まる時間早いから、あそこのベンチに座ろうか」


「座ろう」


私とおにぃは駅前のベンチに座る。ベンチに座っていると、恋人を待っている女性だったり、男性だったりが目に入る。


私も隣のおにぃを見上げる。この身長差があるとどう見ても、周りからは恋人には見えない。はやく伸びろ。私の身長と胸。強く私は思った。


「こうにしてると、デートで麗香と遠くに来た感じだな」


「•••••••」


私は思わず言葉に詰まって、耳まで赤くなってしまう。おにぃは無自覚なのか人の気持ちをもてあそぶような言葉を口にすることがある。


おにぃに聞こえない声で「私はこのままでもいい」と言う。


「うん?なんか言ったか?」


「何でもない」


すると、タイミングよく駅から美人姉妹が降りてきたのが見れた。もっと、おにぃと2人きりでいたかった。この場合、気づかないふりをするのはアリなのだろうかとまで考えてしまう。


でも、その考えは儚く砕け散った。


「勝にぃ〜」 


「勝兄さん〜」


美緒と里奈がこちらに気づいて、通ってきた。


私は2人の服装に驚く。


美緒さんは胸元を開けたダークのシャツに、短めのグレーのスカート、その上に薄いカーディガンを着ている。それにおしゃれな肩掛けのポーチをかけている。靴はリボンがついてるローファーだ。


それに対して、里奈さんは、長い足を生かすように紺色のパンツに胸元が少し見れるように大きめのドロップショルダーセーターを着ていた。小さい手に持つバッグを持っている。靴もおしゃれなスニーカーだ。


美人な姉妹が本気出してきたという感じだ。私が見ても綺麗だと思う。


隣のおにぃから生唾を飲む音が聞こえた。私にも聞こえたんだから。

      美人姉妹にも聞こえてる...よ


「2人とも早かったな」


「うん。ちょっと早めに出たんだよね。里奈?」


「お姉ちゃんが早めに行って、準備しないと勝にぃとのデートきんちょ....」


「ちょっと黙ろうか?愚妹りなちゃん?」


美緒は里奈の口を押さえている。


里奈はふがふがと抵抗したのであった。


美緒と里奈は私の存在に気づいたらしく、挨拶をする。


「麗香ちゃん。病院以来だね!今日は水族館楽しもうね」


美緒は、私の頭を撫でててくる。気安く触らないもらいたいと思うがここは我慢だ...


「麗香ちゃん!身長伸びたね。今日は一緒に色々見よー」


里奈もそう言うと頭を撫でてくる。この美人姉妹は、すぐに私の頭を撫でてくるが私の癪に障る。


「はい、今日はよろしくお願いします!」


私はなるべく不審に思われないように笑顔をつくろう。




「悪いな。里奈。急に麗香を連れきたいと言って」


「いえいえ、こちらも急に誘ったんですし。いいですよ。こういうのは大勢いた方が楽しめますよ。ねぇお姉ちゃん?」


「そうだよ。勝にぃ。小さい頃からの付き合いでしょ。それに私たち、家族みたいなもんでしょう?」


すると里奈は笑いながら、


「ちょっと、まだ、お姉ちゃん、家族は早いって」とチャチャを入れる。


その言い方だと...いずれ、美緒さんか、里奈さんのどちらかが、おにぃと結婚して家族になるような言いようだ。


おにぃは私だけのおにぃなのに。


すると、里奈さんはその場で一周回った。


「勝兄さん、私のコーデどうですか?」


たぶん、おにぃがいっこうに何も言わないから里奈さんから、聞いてきたのだろう。


「なんか、里奈、大人の女性って感じびっくりしたな」


おにぃは照れもせずに素直に話す。


「あ、ありがとうございます...」


里奈さんも直球で帰ってくるとは思っていなかったのだろう。照れくさいのか、ほおを指でかいている。


「それじゃあ。今日のお姉ちゃんはどう?いつもより頑張ったんだよ?」


里奈が手を差し伸べた先に少しもじもじした美緒さんがいる。


「可愛いと思う。でも、その服装だと俺の目のやり場に困る...」


これも直球で感想を言ってしまうおにぃ。本当に素直すぎるおにぃの口を塞ぎたい。それにしても、目のやり場に困るだなんて、異性として意識してるみたいじゃんと思った。


「へへへ、ありがとう」


美緒さんは先ほどよりもデレデレしたような雰囲気を出しながら、幸せオーラを放っていた。




この雰囲気だとまさしくデートそのものだ。


そうにならないためにも私はおにぃに話しかける。


「おにぃ、私のチケットを買いに行こう」


「ああそうだった。先に買っておけばよかったな。悪いが2人は待っていてくれ」


2人は私たちも行くよと声をかけようとするが、私がおにぃの手を引っ張り券売機に向かったのであった。












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