第15話 福井家にて(福井美緒視点)
「ただいまー」
「おかえりー。どっだった?まあ、お姉ちゃんのことだから、期待はしてないけど」
出たな?
でも今日はちょー機嫌がいいのであーる。
「すごい前に進みました」
含みのある言い方だけど里奈には伝わるだろう
「えっ、おねぇちゃんが?」
リビングの2人がけのソファーに2人して座ってる。里奈は私の方に向き直り、すごいまんまるの眼で見てきた。
「一緒にカラオケ行って、それで一緒に帰ってきたよ」
私は嘘を言っていない。カラオケの中に由依や杏花がいたのは秘密だ。
「あっもしかして、誰かそこにいたでしょ?」
怪しい目をしながら、杏花は私を見つめてくる。
「ぐっ、鋭い」
「嘘はよくないよ」
杏花はしたり顔で、私の頭を撫でてくる。妹のくせに、なまいき。
「誰と一緒に行ったの?」
「由依とあの病院に来てた藤見杏花」
「えっあの美人のマネージャーさんと。由依お姉さん?」
「そうだけど」
杏花は、コーヒーが注がれたマグカップを置きつつ、私の肩に手を置いた。
「お姉ちゃんの恋、長かったね」
「何おわったように言ってるのよ。まだおわっとらんわ」
「だって、あの美人なマネージャーの杏花さんと大人の女性の由依さんだよ。何一つお姉ちゃんは勝ててないよ」
はぁーとため息をつく我が愚妹。
「由依は私の味方だし。何と言っても、幼馴染は最強でしょ」
私が必死に取り繕うとするけど。愚妹は、指をチッチッチと指を振る。
「これだから、お姉ちゃんは......幼なじみは負けヒロインなんだよ。幼なじみだからとたかを括っていて、最後に逆転される。漫画でもアニメでも映画でもそうだよ」
わかってないなーという失望の目を向けてくる愚妹。ちょっとオタクぽい愚妹ならではの視点だけど。芯をついているような気がした。
「どうしよー」
わたしは特段と暗くなる。
「しょーがない。私が勝兄さんとお姉ちゃんくっつけ大作戦してあげるわ。そうすれば、由依サン、杏花サンなんてイチコロだよ」
何か嫌な予感しかない愚昧の提案だ。でも、里奈はもっと強い
「その2人だけじゃなくて、実は....」
わたしは、朝の勝にぃと咲さんの一件を話した。
「ここに来て、本物のお姉さんで、美人、巫女さん????」
「その人が咲さんと言うの」
私がもしも、恋のバトルロイヤルをするとなったら、咲さんという人も相手にしないといけない。
「もうお姉ちゃん。勝兄さんを力ずくでキスするくらいしないとダメだね」
里奈は、もう思考停止したようで、投げやりのアドバイスをする。これだから、愚妹は...
「まぁとにかくお姉ちゃんは、私に任せておけばいいのよ。早速、今週の土曜日に勝るにぃさんとデートだよ」
「えっ、どういうこと?」
ふっふーん。里奈は私の前にラインの画面を見せてきた。さっきから、何か文字を打ち込んでいると思っていたけど。
「なになに?」
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相手のアイコンは七瀬勝と表示されている。
•••••••••
キョウカ「お久しぶりです」
七瀬勝「久しぶり、里奈ちゃん!」
キョウカ「勝兄さんって今週の土曜日暇ですか?」
七瀬勝「予定はないけど」
キョウカ「それじゃあ、土曜日に姉と◯島水族館行くんですけど。チケット一枚余ってて、行きませんか?」
七瀬勝「いいけど?俺でいいの?」
キョウカ「はい。勝兄さんがいいです!!」
七瀬勝「それなら行くわ」
キョウカ「それじゃあ、◯島水族館の前に10:00集合で!!」
七瀬勝「了解」
•••••••••
我が愚妹はスマホを高らかに広げて見せてくる。
水族館を誘う話よりも
「えっ何で、勝にぃの連絡先知ってんの?」と私は里奈に問いかける
勝にぃの連絡先、未だに知らない私も私だけど。愚妹が知ってるのは、何か腑に落ちない。
「そんなことどうでもいいでしょ。勝兄さんと水族館行きたくないの?」
「うっ、うっ、行きたい」
わたしは少し躊躇いながらも愚妹に負けてしまう。
「それなら、まず私に感謝でしょうおねぇちゃん?」
「ありがとうございます。
「なんかロボット口調が気になるけどいいや。それじゃあ、明日、お姉ちゃん行くからね」
「明日?」
私はカレンダーを見ると、ちょうど、明日が土曜日だった。
里奈はいつものわたしを揶揄うようなニマニマ顔に戻る。
「勝にぃさんがドキドキするようなコーデ、期待してるね」
愚妹は減らず口を叩きながら、2階の自室に行ってしまった。
「えっと、勝にぃとの水族館が明日?明日じゃない!!?」
わたしはやっと言葉の意味を理解したのだ。
急いで自分の部屋に行き、今年の春のトレンドのコーデをスマホで見ながら、クローゼットの服を全部出していた。
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