第14話 七瀬宅にて(七瀬勝視点)

「ただいまー」


「にぃに、おかえりー」


幼女が俺の足に抱きついてくる。頭を2つの髪留めでとめてあり、何とも可愛らしい。


「にぃに。きょうはどこにいってたの?」


待ちくたびれたような顔をして、俺の足を離さないのは妹の七瀬鈴だ。幼稚園児ということで、まだまだ、甘えたがりのようだ。


「ごめんなー。鈴。にいちゃん、今日は用事があって寄り道して帰ったんだ」


鈴を抱き抱えて、高い高いをする。俺はもう、病院から退院してかなり良くなったのだ。


「おにぃ、あんまり無理すんなよー」


横から声をかけてきたのが小学生4年生の次女の七瀬麗香ななせれいかだ。


「おねえちゃんは、にぃにのだっこがうらやましいからいってるだけ。やりたければ、にぃににたのめばいい」


すずは勝ち誇ったように麗香を挑発する。


「へー。鈴。おねぇちゃんにそんな態度とっていいんだ?」


すると、リビングから鈴の大好きなキリンの人形を持ってきた。


「このキリンもらっちゃうから」


「キリンちゃんはダメ〜」


俺の手から、鈴は降りて麗香のところに行った。


「次は、麗香の番か。麗香はお姫様抱っこしてやるぞ」


俺が手振りでこっちに来いをしたが麗香はジト目でこちらを睨む。


あれおかしいぞ?何で今日は来ないんだろう。


「本気で言ってるの?」


「ごめんなさい。調子に乗りました」


麗香はぷんぷんさせながら、リビングに戻っていた。


「にぃに、ママごとしよー」


「ああ、手洗いうがいしたらな」


鈴との最近の日課がおままごとである。


俺が手洗いうがいをしていると後ろから、服を引っ張られる。


「はいはい、ちょっと待て。鈴」


後ろを振り返ると麗香が立っていた。


「麗香、どうしたん?」


「にぃに。今日は部活動ないから早く帰れるって言ったよね。どこ行ってたの?心配した」


あの事故以来、麗香は俺の行動というか何というか、聞いてくるようになった。今朝も麗香には今日、早く帰れると言ったのだった。


「美緒や杏花...間違えた、藤見とか、後美緒の友達の女の子に呼ばれて、カラオケで退院祝いしたんだよ」


麗香は勘が鋭いため隠し事は基本的にムズカしい。そのため、包み隠さずいうのがベストだと思った。


「ふーん」


麗香は意味深の相槌をうつ。


「なんだよ」


「美人の美緒さんと美人の杏花さん、それとクラスメイトの女の子に呼ばれて良かったね」


麗香は不機嫌そうにその場から去っていった。

正直に答えたのになんだよ、この仕打ち。


俺は、2階の部屋に行く麗香の後ろ姿を見ていた。


「にぃに、こっちきておままごと」


鈴が呼びにきて、リビングの向かい側の和室でおままごとが始まったのであった。



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おまけ(七瀬麗香視点)



「おねぇちゃん、そんなにつくえ、たたいてどぅしたぁの?」


「なんでもない」


「だって、いつものおねぇちゃんとちがって、イライラしてるようにスズはおもう」


私をよく見てるだって、あなどれない妹。でも、私の態度が露骨すぎたのかもしれない。


「わたしはイライラしてないよ〜。一緒に遊ぼう。鈴?」


大きな手でこっちにおいでーと鈴をむかえる。


「えー。きょうはにぃにあそんでもらうからいい」


いつも、おにぃに遊んでもらってるくせして。こいつー。おにぃも鈴には甘いし。なにしろ、鈴は愛嬌があり、誰からも好かれる良い子なのだ。それにしても、鈴が家にいる時はおにぃにべったりなのだ。


おにぃは鈴が生まれるまで、わたしだけのおにぃだったのに......


「そんなこと言わずにさー」


私は諦めずにスキンシップを取ろうとしたが、玄関からおにぃの声が聞こえた。


「あっにぃにかえってきたー」


大好きなキリンの人形を放り投げて、おにぃに会いにいく。



くっ、可愛げのない妹。


私も、玄関でおにぃに飛びついて抱きつきたいのに。


仕方がなく、おにぃの元に行く。


「おにぃ、あんまり無理すんなよー」


鈴を抱っこしてるおにぃに話しかける。


「おねえちゃんは、にぃにのだっこがうらやましいからいってるだけ。やりたければ、にぃににたのめばいい」


すずは私に挑発してくる。可愛げのない妹だ。


「へー。鈴。おねぇちゃんにそんな態度とっていいんだ?」


わたしはリビングから鈴の大事にしているキリンのぬいぐるみを持ってきて、抱き抱えた。


「このキリンもらっちゃうから」


「キリンちゃんはダメ〜」


俺の手から、鈴は降りて麗香のところに行った。


「次は麗華の番か。麗華の場合お姫様抱っこしてやるぞ」


おにぃが手振りにこっちに来いする。私は内心行こうとしたが、鈴が見ている手前と小学校の高学年になったというプレッシャーに負ける。


「本気で言ってるの?」


「ごめんなさい。調子に乗りました」


わたしはおにぃの誘いを断ってしまい。リビングに戻った。


「おにぃのバカ、鈴の前じゃ甘えられないじゃん」


私は、ソファーに座り、クッションを抱き抱えた。


「それにしても。おにぃは何で遅くなったんだろう」


私の中の女の勘がザワザワする。おにぃのいる洗面所に向かった。


にぃにが手洗いうがいをしていると後ろから、服を引っ張る。


「はいはい、ちょっと待て。鈴」


私を鈴だと勘違いしてる。そこにもなぜか、嫉妬を覚える私がいた。


振り向いたおにぃはびっくりした顔をしていた。


「麗香、どうしたん?」


「にぃに。今日は部活動ないから早く帰れるって言ったよね。どこ行ってたの?心配した」


私はあの事故以来、おにぃの行動を聞くようになった。あの日みたいに、おにぃが帰ってこないかもしれないという恐怖心が未だにあるのだ。

今朝もおにぃは今日、早く帰れると言ったのに...


「美緒や杏花とか、後美緒の友達に呼ばれて、カラオケで退院祝いしたんだよ」


私のこと、ほうっておいて、美人な美緒さんと病院で見かけた美人の杏花さんたちといたなんて。退院祝いのためのカラオケのため私も追求できないけど。そこにも嫉妬を感じてしまう。



「ふーん」



「なんだよ」


「美人の美緒さんと美人の杏花さん、それとクラスメイトさんに呼ばれて良かったね」


私はその場から去っていった。


おにぃは本当にバカ、私がこんなに心配してるのに。


私は、自分の部屋に入るとベットの中にダイブする。すると枕元にはおにぃの写真が飾られてある。死んでもおにぃには見せられない代物しろもののため、枕の下にいつも入れてある。


ぎゅっと写真を胸に抱いて、勉強机に向かう。


机の上のスマホをいじる。


スマホの電源がつき、スマホのロックの画面は、家族の写真だ。


わたしはロックの相性番号、おにぃの誕生日の0724を入れる。


そして、スマホ内の写真アプリを開いた。


そこにはおにぃの寝顔の写真やバレー部の時の写真。おにぃがお風呂場で着替えてる写真や家族でも撮影をしてはいけない写真もある。


私は一枚づつ、おにぃの写真を見返した。


「こんだけ心配させるおにぃには、これまで以上の監視あいじょうが必要だね」


わたしは少しだけ胸のわだかまりが消えていくのを感じながら、おにぃの写真を見ていた。









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