第13話 カラオケの終わり③(福井美緒視点)

私たちはその後何曲か、歌いあったり、デュエットをしたりして楽しんだ。


「コーヒーとってくるわ」


「私も冷えるからホットコーヒー」


そうして、勝にぃと由依は、ドリンクバーに行った。杏花は2人の行先を見守った。


「美緒ちゃん、七瀬先輩の飲みかけ、飲みます?」


「なぬ??」


思わず変な言葉をあげてしまったが、杏花こいつは何を言ってるんだろうか?


「ちょっと。背徳的で、ドキドキしない?」


「いやほんと、意味わからんから。本当に...」


すると、杏花は面白がって、先輩の飲みかけのジュースを取る。


「じゃあ、私いただきます」


「それはダメでしょ」


必死に静止する私。


「ほら、美緒ちゃんも先輩の飲みかけ飲みたいんじゃん。はは。それじゃあ、先にどうぞ」


私は、口の中をごくんとする。


目の前には先ほどまで勝にぃが口をつけていたジュース。コップの先に紙のストローがあって、紙だから少し萎びて、柔らかくなっていた。


私は小さい頃、何度か勝にぃと間接キスみたいな感じでジュースを飲んだことがあった。



でも、今になると、なんか、すごいことやっていたんだなと思う。




ドクンドクンドクン、自分の鼓動が聞こえる。




私は勝にぃのコップを持って、紙ストローに手をかけると.....





「それで、俺もどうしようかと思ってさ...」


「勝くんの好きなようにすればいいと思うよ。

色々と気にせずにさ」


ドアから勝にぃと由依の談笑が聞こえた。


カラオケボックス、沈黙が走った。勝にぃが私の方を見ている。


「あわあわ、これはその。杏花と遊んでてて...」


「何言ってんのさ。私は何度も勝のジュース飲むなんて、はしたないから辞めなよと美緒に言ったよね」


ニマニマしながら、杏花が言う。こいつ、はめやがった。


「はぁー。美緒、もう小学生の俺とお前じゃないんだから、一緒に飲むのは倫理的に不味いのはわかるな?」


勝にぃの呆れたような顔を見て、私は思わずソファーの上で正座をする。その一方で、杏花は素知らぬ顔で曲を選曲していた。杏花あいつー覚えてろ。


「はい反省してます」


「わかったなら、それでいい」


それにしても由依ちゃん..そんな、哀れみの目で私を見ないでよー。




 何曲か歌い、勝にぃがコーヒーを飲み終わると、カラオケの時間がもう残りわずかとなる。


「今日はもう時間だし、お開きにするか」


勝にぃがみんなに声をかける


「ちょっと待ったー」


杏花はそういうと、バックの中から可愛いリボンの袋に入ったクッキーを出す。


「勝、退院おめでとう」


「あっそうだったな。そういう会だったな」


勝にぃは苦笑いしながら、受け取る。あれ、私何も用意してないじゃん。


「えっと、私はなにも用意してないけど...退院おめでとう。これからよろしくね。勝にぃ!」


私は勝にぃに精一杯、伝えたけど。杏花の方が一枚上手だと思った。


「私は、ノリで着いてきちゃったけど。七瀬先輩..間違えた勝くんと一緒の学校生活楽しみにしてる」


由依ちゃんも勝にぃとの距離が縮まったようだった。


「ああ3人ともありがとな。これからよろしく」



これからの学校生活、勝にぃと一緒にいられるのが楽しみであった。



4人で迎えた帰り道、各々、帰る方向が違う。


由依と杏花の2人はここでお別れだった。


「勝、バイバーイ。美緒、抜け駆けすんなよー」


杏花は元気よく、手を大きく振った。


「バッバカ。そんなことしないわ」


杏花の挑発に、顔を真っ赤にして答える私。


「美緒、頑張ってね」


由依も揶揄いながら、私に耳打ちし、勝にぃの方に目を向ける。


「勝くんもバイバイ」


由依の挙動がちょっと意味深に見えたのは気のせいだったのだろうか。少し微笑みながら小さく手を振った。


すると私と勝にぃの2人ぼっちである。


「俺たちも行くか」


「うん」


私は便りなさげに返事をする。勝にぃと帰るのはいつ以来だろうか。懐かしい思いが溢れてくる。


「懐かしいな。美緒。一緒に帰るなんてな」


私が思っていたことを勝にぃが口に出してくれて心が温かくなる。


「そうだね」


あの時よりも背がずっと大きくなって、私が見上げなくちゃいけないくらい成長した勝にぃ。

私が横から覗き込むと勝にぃも私の顔を覗き込む。


すると、勝にぃが、私を見つめ返す。


少し時間が経ったような気がしたけど、視線を外してくれない勝にぃ。


「どうしたの。まっ勝にぃ?」


「美緒...」


私の名前を呼び、顔を近づけてくる勝にぃ....


(ちょっと待って、キスはまだはやいですって)


でも、勝にぃの顔はドンドン近づいてくる。


私はもう目を瞑ることしかできなかった。


唇を差し出すしかない




.....まだまだ、はやいかもしれないけど。私の念願の勝にぃとのラブラブ...





「美緒、これは」


「はへぇい?」


私は目を瞑っていたため変な声をあげてしまう。


「このストラップ」


「ストラップ?」


状況を理解していない私。


勝にぃは、私のカバンにつけてあるストラップを手に取った。


「これって、俺が美緒にプレゼントしたやつだよな」


(えっ、そっち???)


私は少し項垂れた。そうそう、甘くない。


「そうだけど。可愛いでしょ?」


(本当は勝にぃに貰ったから大事にとってあるんだなんて言えない。)


「こんなに不細工キャラクターをか?」


「長年持ってると愛着が湧くんですよーだ。勝にぃにはわからないかもですけど」


私は少し恥ずかしながら言う。小学生の時にもらったプレゼントを持っていて、今もバッグにつけてしまっている。何だか、痛い女だと思われちゃうかも。


「ククク、愛着ね。俺も嬉しいよ。こうやって昔にあげたブサイキーホルダーもつけてくれてるなんて...ククッ」


少し笑いを抑えきれない勝にぃ。


「そんなに笑うんなら、これから仲良くしてあげない」


「そんなこと言うなよ。美緒」


勝にぃがこんなに笑う顔を久しぶりに見たかもしれない。私の中の昔の記憶が蘇ってきたような気がした。


「じゃあ約束、たまには一緒に帰ることで手打ちにしてあげる」


「ああ。いいぜ。また一緒に帰ろうな美緒」


私と勝にぃの関係は一気に深まったようで、私自身、この日のことを忘れないだろうと思った。






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