第10話 美女、宮瀬先生の秘密(七瀬勝)

コンコン、失礼しまーす。職員室のドアを叩き、


「宮瀬先生に呼ばれてきました」


宮瀬先生は、缶コーヒーを片手に持ちながら、パソコンをカタカタしていた。この人、気づいてないよ。


「先生、呼ばれてますよ」


「あっ、はい?」


宮瀬先生は、隣の内海先生に肩を叩かれて、やっと気づいたようだった。


(ちょっと、ワーカーホリックみたいなだな)


「ああ、いや。わざわざ呼び出して悪かったな。七瀬」


先生は、バツの悪そうな感じで顔をかいている。


「それで呼ばれた用事とは?」


「新学期初日から悪いが、七瀬には、学級委員をやってもらいたい?」


「えっ?」


宮瀬先生はクラス表を手元に出し、見始める。


そのクラスメイトの表にはクラスメイトの名前。その他には性格や学業、部活動、なんやかんや色々かいてある。生徒の俺からも見える距離でいいのだろうか。


「まあ、七瀬はみんなより一歳上だ。他の生徒と関わるにはクラスで、役職あったほうがいいだろう。それで、学級委員をやってもらいたい」


「でも、俺はそういう人を導くようなの向いてないですね。バレーボール部すら逃げている状況ですし...」


俺はバツの悪そうに目線が下向きになる。


「七瀬は学業の成績が良い。それにバレーボール部でもあの活躍だ。それを見た私だから、頼みたいと思ったんだ。今回は学校生活のことだ。学級委員は君にとってプラスになるはずだ」


俺はそれでも無言を貫く。やはり、バレー部のみんなに後ろめたい気持ちがある。


「七瀬.....バレーボール部をこれから続けるとか、それはこれから決めたらいい。君の高校生活だ。どうするかは君次第だ」


宮瀬先生は挑むように俺に対して問いかけてくる。


「俺は....」


宮瀬先生は観念したように、クラス表のプリントをデスクの上に置いた。


「まぁ、いい。すぐに答え出なくてもな。返事は来週中にでも聞こう。悪かったな。今日はもういいぞ」


宮瀬先生は、元気よく俺の肩を叩いた。


俺は足早に職員室を出たのであった。



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私(宮瀬絵里)は職員室内で、去っていく七瀬の背中を見送った。


「宮瀬先生、結構、酷なことしますね?」


隣の内海先生は、いつものように話しかけてきた。


「えっ、そう思います?」


私と内海先生は同い年のせいか、気楽に話せる同僚というか、友人だ。


「またまた、とぼけちゃって...」


「イヤイヤ、私も考えなしではないですよ。先ほど言った通り、彼のため、彼女らのためにやったんですよ」


私は、机の上のコーヒー缶を飲もうとするが、もう中身が空だった。


「それにしても、このクラス分けにも、なんかありそうですよね。七瀬くんとあの子を同じクラスにするなんて、ちょっと、悪意というか....」


私の机にあるクラス表を見て、そう話す。


「悪意なんて、あんまり言わないほうがいいですよ。内海先生」


内海先生は、可愛いタイプの先生だ。生徒からも人気で、可愛いためか、少し頼りなそうにみえる。でも、私は内海先生を芯のある人間だと思う。


「それで、宮瀬先生は七瀬くんとあの子、関わりを持たせたいんですか?」


「そういうことですね」


私はパソコンの事務作業をしながら、淡々たんたんと答える。


「狙いがあるならわかるんですけど。事故を起こした加害者の会社の生徒と、よりにもよって被害者を関わらせて、何かあります?」


内海先生は少し、怒っているようだ。わからなくもない。

できるだけ、私も避けて通れる人生なら避けて通るほうがいいタイプだ。


「人生、メリットばかりじゃない。それにあの生徒も七瀬を知らないし。七瀬もあの生徒の事には気づいてないみたいだしな」


「私、知らないですよ。もう、忠告しましたからね」


内海先生はぷんぷん怒った顔で給湯室に行ってしまった。





 内海先生が離れた後、私はクラス表とは別の冊子になったプリントを出す。




そこには報告書という記述がある。





『        ***年**月**日


     

    ***新庁舎建設事故調査報告書




 

      社団法人***協会




   ***新庁舎事故調査タスクフォース


                    

                    』




私は、プリントをファイルの中にしまった。



「この事故には私も避けられないんだよ」


そういい残し、ポケットにしまってあるペンダントを握りしめた。






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