第9話 ばちばちな2人 ② (福井美緒視点)

(うっ気まずー)


あんだけフレンドリーにしていた美人マネこと、藤見杏花さんは勝にぃを見送った後、無言でスマホをいじっていた。


(うっ、、、なにこれ、私から声かけないといけないの)


なんか、さっきの愛嬌はどこ行った?怖いんだけど。


「ねぇ?あなたさー?」


ビクッ...........突然話しかけられて、思わず反応してしまった。


「そんなびっくりしなくてもいいじゃん。くくく、面白いね美緒ちゃんって。ウチの猫もびっくりした時、そんな反応するよ」


藤見さんはフレンドリーに、先ほどの愛嬌ある仕草で、話しかけてくる。こうに間近で見ると男子に人気あるのがわかる、眼がとにかくクリクリしてて引き込まれるのだ。


「美緒ちゃんってさー。うーんと。なんというかさー」


なぜか、言葉を選んでるように藤見さんは、髪をいじる。そうして、意を決したように、私の方に向き直る。


「美緒ちゃん、七瀬先輩のこと好きなの?」


ド直球の質問に、2度目の驚きを隠せないわけもない私。


「へへへ.....さっきも言ったけど。ウチの猫みたいだわ。ウチの猫、隠したいことあると、そういう感じだもん.....そう、美緒ちゃんも好きなんだ。 七瀬先輩.....」


「えっ、そういうことじゃなくて。私と勝にぃは小さい頃の腐れ縁というか、なんというか、兄妹?同然みたいに育ったわけであって、そういう恋愛感情的なことを持つような間柄でもなくて....それで...」


藤見さんは、私の弁明を両腕で静止した。


「OK。OK。わかった。わかった。そんじゃ、私が七瀬先輩貰っていい?」


「うんん?」


「だから、私が七瀬先輩にアタックしていいよね?」


少し恥ずかしいからなのか。先ほどの勢いとは違った、素直さを感じるような告白だった。


 クラスルーム前の先ほどの会話の感じを見ていたら、特別に思っているか、大切にしたい人だというのは、私でもわかっていた。


「勝にぃは、中学から疎遠になっちゃったけど。私にとってなくてはならない存在...」


私の口が勝手に、こそばゆい言葉を口にしてる。私の本音は、ずっと同じだった。


「そんじゃ、ライバルだね」


「そ....そうなるかも」


不本意だけど、私にとって勝にぃは、勝にぃだ。大切な人は、そう簡単に変えられないし。

忘れられない。


 でも、少し、藤見さんに聞きたい事ができたのでこちらも質問をする。


「なんで、藤見さんは勝にぃのこと好きなの?」


藤見さんは、少し、躊躇いつつも、自分の思いを語ってくれた。


「私ね。初めて、一生懸命頑張ってる人って、素敵だなと思えた人がいたの。その人が七瀬先輩だったの。七瀬先輩が高校一年の時、ウチの高校、春高バレーに出場したでしょ」


藤見さんが言うように、勝にぃが一年生の時、私たちの高校は春高バレーに出場した。東京体育館での熱戦の結果、初出場ながら、全国4位という結果を残したと聞いている。


「あの時、知り合いがいてさ。私、見に行ったの。それまで、私自身、スポーツ全般に興味も持てないし。何かに熱中?してる人に対して、正直、何も思えなかったの。でも、七瀬先輩の最後まで、諦めずにボールを追いかけてるシーンになぜか、私も見惚れちゃって.....あれだけ、人を感動させることができるなんてすごい人と思ったのよ」


藤見さんは遠くを見つめるように懐かしそうに微笑む姿は印象的で、控えめにも、いつもの元気で明るい彼女はいない。


「なんだかさー。そんで、七瀬先輩のいるバレー部のマネに志願したわけ...でも、七瀬先輩が事故にあっちゃって...七瀬先輩がエースだったから、ウチのバレー部も弱くなっちゃって。なんだか、熱に浮かされて、バレー部マネになっちゃった人なのよ」


藤見さんは、先ほどよりも、寂しそうな顔をしていた。


「勝にぃは本当にたらしだなぁー」


藤見さんは、下に向けていた顔を私に向く。


「こんなに美人マネージャーに思われてるのにね」


私も何度か、藤見さんとは病院出会った事があった。彼女が勝にぃの病室に来た時はいつも綺麗な花がさしてあった。


「でもね。私、さっき、七瀬先輩にバレー部は続けないと言われちゃったんだよねー」


力無く笑う藤見さん。


「そこで私思ったんだよ。去年から考えてたこと...」


「考えてたこと?」


「七瀬先輩が、もしも、バレーボール出来なくなって、私が憧れてた七瀬先輩じゃなくったら。でも、七瀬先輩の意識が戻って、嬉しかったこと。ご飯とか、私が持ってきたりんごを食べてくれたこと。その後懸命に足のリハビリして、普通の生活も送れるようになった事。それ見てたら、私、また、感動しちゃってね...本当はバレーボールを続けるかは聞かないことにしてたの。人間欲出ると、ダメだね。七瀬先輩のバレーボールで頑張ってる姿見たくなっちゃったよ..............................................................

   


........ 本当に嫌な女だよね」


少し沈黙が流れたような気がした。先ほどの勝にぃとのことを気にしてる藤見さんはとっても繊細な人だと思えたような気がした。


「藤見さんは嫌な女じゃないと思うよ。私も勝にぃの病室に行っていたけど。『元気で騒がしいマネージャーが病室に来てくれる』と嬉しそうに言っていたよ」


「本当に、七瀬先輩が?」


藤見は驚いたような顔をしてこちらを見てくる。


「そんなに、甲斐甲斐しく来てくれた藤見さんをバレー部の一件で、邪険に扱ったら、私がグーで殴っちゃうよ」


「えっ、グーで」


またも、驚く顔をする藤見は、私の家のコーギーに似ているような気がした。


「へへへ。やはり、美緒ちゃん面白いよ。先輩から聞いていたとおりだ」


「えっ、藤見さん......あいつ、変なこと言ってなかった?」


「えっと、忘れちゃった」


困ったように、苦笑いする藤見さんは力がこもった目で私を見つめる。


「それにしても、美緒ちゃん、私の名前、杏花でいいよ」


「それなら、私のことも美緒でいいよ」


「美緒、これからは七瀬先輩をめぐるライバルだから」


「こちらこそ、杏花には負けないから」


お互いを名前で呼びつつ、友達ができたような気がしていた。


2人のライバルが誕生したこの時、

 自分の席で読書をしつつ見守っていた由依ちゃんがいた。


2人の様子が気になり、待っていたのだ。


ライバル宣言する2人に「こうになったか....あちゃー」と悩みを深ませていたのであった。








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