第二幕 クラスルーム
第6話 美人マネージャー(七瀬勝視点)
俺は先ほどのから胸焼けみたいなのを抱えている。
美緒はなんであんなにも怒っていたのか?
そうこう考えているうちに、教室がガヤガヤとし始める。
俺は、2ーC組のドアをくぐり、座席表を見るなり、げんなりした。
このクラスには奴がいるのだ!
何を隠そう。俺にとっての天敵がいたからだった。やつが来る前に俺は存在を消さなけばならない。
しかし、遅かったようだ。何やら隣の席が騒がしい。
「あっ。先パーイ!病院以来ですね。おひっさー」
机の上で完全寝てますモードの俺を無理やりに揺すり、眠気から覚醒させようとしてくる。
でも今は狸寝入りだ。
こいつと関わるのは、まだまだ先でいいはずだ。
「あれ先パーイ?いいんですか。そう言う態度で?」
少し静かになったと思ったが急に奴のお家芸がはじまる。
「甲斐甲斐しく、病院でお世話をしてあげたのに...シクシク、そう言えば、あの時、先輩は嫌がるわたしを...」
なぜか。教室が静まり返ったような気がした。
おい、おかしいぞ?みんな?
まっまさか、俺がそんなことをするやつに見えるのか?
これは早々に事を解決しないといけない。
「えーい。悪ふざけはやめろ。藤見?」
勢い余って、立ち上がったため。周りの注目をいっそうに浴びてしまう。
「なーんだ。やっぱり、先パーイ?
起きてたんじゃないですか?ひどいですよ」
俺をジト目で見てくる
「先パーイ。わたしと一緒のクラスなんですね?」
「あぁ。そうだが」
「先パーイ。私と一緒のクラスで、しかも、隣の席なんですね?」
「あぁ。そうだな」
いかんせん、俺は
こいつこと、藤見杏花はバレーボール部のマネジャーである。去年の春、病院送りになった俺。なので俺と藤見は一ヶ月くらいの部活でしか面識がないが、病院送りになった後も頻繁に俺の病室を訪れていたらしい。
俺自身、病院で半年は眠っていたから、なんともわからないが、起きた数日後に藤見がいて、驚いたことは覚えている。
「先パーイ。私と同じクラスで、隣の席ですし、これは運命を感じますか?」
「あぁ、そう.....じゃないわ。ボケ」
先ほどと同じトーンで話されているためか。相槌をうちそうになってしまったのである。
「チッ、引っ掛からなかったですね。先パイ?」
「お前は、そうにやって俺をおもちゃにして楽しいか?」
「何言ってるんですか?高校生活の楽しみの一つですよ。先パイも美人マネに話かけられるだけでも、まんざらじゃないでしょ?」
不敵な笑みを浮かべて、俺を挑発してくる。
まあ確かに、藤見杏花は、男子バレー部内でも人気がある。
去年は一年生ながらも文化祭のミスコン5位と言う実力だ。胸はそれほどあるし。しかも、この小悪魔的な性格だから男子の人気は高いと聞いている。俺はその評価に疑問をあげたいが...
「まあ。お前がいて助かったよ」
このクラスには男子バレー部の後輩もとい、今の現状で言えば、同級生は1人もいなかった。人数が少ないというのも原因の一端にあるだろう。
なので、藤見には彼女の言う通り話し相手になってもらうのがベストの選択である。
「えっ、なんで否定しないんですか?先パイ。きもいです。お熱あるんですか?病院行きますか?」
ブラックジョークを交えつつ、藤見は俺のおでこ触ってくる。
「やめろ。藤見?」
「冗談ですよ。先パイ?それにしても、先パイが無事、復帰してくれれば、バレー部は安泰ですね」
藤見は俺の痛いところをついてくる。
彼女自身、悪気があって、言ってないのはおおいにわかるから、バツが悪そうに答えるしかなかった。
「すまん、藤見。俺はバレー部復帰できそうにない」
「えっ!なんでですか?」
藤見は驚いた目でこちらを見てくる。
「医者にはもう大丈夫と言われているんだけどな。でも、1年くらい、バレーボールをやっていない俺が今更、チームに戻ってもな...と思ったんだ」
「なんだ。そんなことですか。男子バレー部のみんなは七瀬先パイのことを首を長ーくして待ってますよ」
「だけどな...俺が許せないんだ」
「何なんですか?それ」
藤見は急に俺の肩を揺さぶって、声を荒げる。
「先パイがいない男バレなんて、私が目指した男バレとは違うんです。何でわからないんですか?」
教室の中はまたもや、無言になる。あの藤見が感情的になっているからだ。
「悪い。悪い。本当に無理なんだ。もう...」
俺の悲痛の訴えを聞いた藤見。
すると、藤見は、右手で俺の頬を平手うちにした。
「パシーん」と音が鳴る。
「痛ッ」
感情的になった藤見は冷静を取り戻す。
「ご、ごめんなさい。先パイ」
「ああ。俺も悪かったよ」
俺自身のわがままのために藤見には悪いことをしたと思っている。正直、平手打ちで許されるなら何度でもやってもいいと思う。
「藤見の気持ちも知らないで、藤見みたいなチーム思いのやつがいて男バレは、ほんと幸せもんだよ」
あくまでも明るく、何事も無かったように済ますのが、この場においては正しい選択だ。
藤見の株を落とすようなことをしたくない。
「そ、そんなんじゃないで...す。わたしは先パイの....」
藤見が言葉を声は後半になるにつれて聞こえなくなる。
しばらく俺は藤見の頭を撫でながら、彼女が落ち着くのを待った。
————————————————————
「そんなことより、藤見?」
俺は話題を変えることにした。クラスの喧騒も戻りつつある。
「何ですか?先パイ」
瞼を赤く染めた藤見がこちらを見返す。
「その先パイ呼び。どうにかならないか?」
「どうにかって、先パイは先輩でしょ?」
藤見は世の中のルールのように言う。
「俺はもう、
藤見は人差し指を顎に指しながら、いつものイタズラっ子のような顔に戻る。
「それじゃあ。
「えっ。お前。本気か?」
「おお
右目をウインクさせながら、答える藤見は本当に楽しそうだ。
「もしかして。さっきの美緒との会話を聞いていたのか?」
「あんなに公衆の目前で痴話喧嘩してたら嫌でも聞こえました。クラスメイトの美緒さんがいいなら、わたしももちろんOKですよね?」
もう
「ああ。慣れないが。いいぞ」
「じゃあ。先パ...間違えた。勝よろしくね!」
これ以上ない笑みで俺の手を取り勝手に握手をする藤見だった。
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