第4話作戦会議ー(福井美緒視点)

わたしは一足先に、一ノ瀬高校に着いた。


先ほどの勝にぃの顔が忘れられない。


私と一緒の時には、決して見せない姿。


彼が見せた一瞬は私の心の隙間を開けるのに十分だった。


「気乗りしないなー」


一ノ瀬高校の中庭は、ベンチがある。


私は行き場を失った足を宙に浮かせながら。青空を見上げていた。


「だーれだ?」


すると、私の目が真っ暗になる。


誰かの手が私の顔を覆い被せる。


「その声は中瀬由依なかせゆいだよ」


「当っタリー。なんで、わかるん?」


後ろを振り返ると嬉々とした由依がいた。


由依は私と違って小柄で、背が低い。でも、人より愛嬌はあるし。中学生と間違えられたりしてるけど....私よりスキンシップは過多だけど。その分、みんなから愛されてる。


「なーに。黄昏たそがれてるんさー」


由依は私の隣に座って、横から私の顔を見上げる。


この純粋な眼差し。


由依は中学校以来の友達だけど。


私のことを見透かしてるような気がする。


ほんと、私にとって、天神様カミサマみたいだよ。


「ちょっと、高校生活に、つまづいちゃってさ」


「なにさー。私と美緒の仲じゃん。話してみー」


グイグイと肘で、脇をついてくる。急かされても出るものではない。


だけど....


「私のさー。大事な人にー。

    好きな人ができたみたいなんだよね」


言葉をつまりながら言う。


「えーっと。美緒くんの好きな人、つまり、七瀬先輩?に好きな女子おなごができたこと?」


わたしは、横の由依を驚いた形相ぎょうそうで見つめる。


「何やつだよ。あんた...」


「へっへっへっ。美緒様のことは大体わかるのであーる」


由依は得意げで、鼻高々だ。


でも、わたしはその由依を横目に、ベンチの下にある石を蹴飛ケトばす。


「あれ〜。重症だわね。これは」


由依はわたしの方を見やると、思いついたように、手をポンと叩き、私の肩を叩く。


「美緒くんは、まだ、クラス表を見てきてないのかね?」


由依は相変わらず、マイペースを貫くつもりだ。


「見てないけど。そんな気分じゃないよ〜。

少ししたら、見に行くけどさー」


わたしは完全に脱力した感じで、目の前の花壇を見つめる。


命が芽吹き、花になる一生は、本当に短いもんだ。そんな、たわいもない哲学的なことを考えていた。


「ふっふっふ、聞いて、驚いてくれ〜。今年は美緒くんと私、同じクラスだよ〜」



「えっ。まじ!?」


「まじのまじ」


わたしは由依を抱き寄せて、抱擁する。


まるで映画のラストシーンの一コマみたいに。


「くっ、苦しい....」


由依は抱きつかれて、苦しそうにしながらも、嬉しそうに照れ笑いする。


「これでわたしの高校生活も華が出るよー」


「そんな。大袈裟なー」


由依は、わたしの頭をしばらく撫でていた。


少しすると、大仰おおぎょうな私の抱擁を解いて、ベンチから立ち上がる。


「うんで、ここからもう一つ。重要なこと。私の口から言うのあれ、なんだけど...」


「なーに?由依?私に言えないことあるの?」


由依は踊るように前でターンをして、私を指差す。


「なんと同じクラスに七瀬勝がいるのであーる」


「えっ」


私の時間は止まったような気がした。止まってるというか。思考停止をしたような。そんな感じだ。


「だから、七瀬勝は美緒と同じクラス。OK?」


未だに信じられない私。


そんな私の顔を由依が覗きこみ、現実世界に帰ってくる。


「おっ、OK〜」


力ない返事。まさか、勝にぃと一緒。


「そんなに信じられないなら、美緒も見てくればいいよ」


まだ訝しむ私に不満を持った由依は、提案する。


「でも、ちょっと不安...」


「しょうがない子。美緒あんたは。

あたしも見に行ってあげるよ」


「それならレッツゴーだよ」


由依が私の手を取り、掲示板に向かう。


「頼れるのは神様、仏様、由依様だよ」


「なんだそれー。神様と同格じゃないっつーの」


由依は笑いながら、わたしのへらず口をいなした。
















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