第3話ミステリアスな女(福井美緒視点)

玄関を出た私。


訳あって、電柱の後ろに隠れている。


「落ち着け私」


はぁはぁ。


「これじゃ、ストーカーじゃない。私は堂々としていればいいのよ」


声に出して自分に言い聞かせる。


ハァハァ


(でっでも、やはりドキドキがおさまらない。)


第三者目線で見たら、絶対に不審者に見えるくらいの挙動不審。


(この画角的に、初めてのおつかいを身守るお母さんじゃない.....)


 私が後をつけてる人は勝にぃだ。


彼こと勝にぃとは学校は同じわけで彼の後をつけるというよりか、声をかければすむものだ。


だけど、私と勝にぃとは、気軽に声をかけられないくらい、ビミョーな関係性になってしまっている。


なので、ストーカーもとい、尾行を続ける。


「でも、元気になって良かったわ。勝にぃ」


まるで、我が子の退院を見ているようだ。


「あれ?」


勝にぃが通学路ではない方向を曲がった。


その行先は、いつも、私と勝にぃ、愚妹フクイリナや友達と遊んでいた神社だった。


(どうしたんだろう)


思い出ある境内に入っていく勝にぃは、何か神妙な顔をしている。


(も、もしやっ。恋愛成就!?)


朝からそんなことをするとは思えないけども。


どちらかと言うと私の方がその恋愛なんたらに祈願したい....


私は境内のありとあらゆる影に隠れながら、後をつける。


「あっ、勝くん!?」


勝にぃの呼ぶ艶やかな声がした。


声の先を見据えると背の高い、絵に描いたような美人がいた。


「あっ!咲さん。おはようございます!」


「おはよう。勝くん...もう大丈夫みたいね?」


咲という人物は巫女装束を着ている。


右手に箒を持ちながら、神社の境内を掃除していた。


 咲の見た目は美緒わたしよりちょーっと大きな胸で、美緒わたしよりちょーっと愛嬌のある顔立ちだった。


「咲さんのおかげですよ」


「ふふふ、勝くんが頑張ったから、退院が早まったじゃないの?良かったわ。これから学校?」


「そうなんですよ.....」


勝にぃは神妙な顔をしながら、話を進める。


「でも、俺の場合は去年、学校行けてないから、休学になっていて。また、2年生をやらないといけないんですよ」


その言葉を聞いた時。


私の胸がズキズキする。


勝にぃ...勝にぃ...辛かったよね。


境内の大木の裏に隠れながら、複雑な心境になる。



「勝くん...大変だけど。若いうちはいくらでもチャンスもあるし。きっと、いい仲間に出会えるわ。ずっと見てきた私が保証するわ」


咲は慈愛の聖母マリア様のように微笑む。


ここ、神社なんだけど...

    そういう例えが似合うような女性。


「咲さ....ん」


勝にぃは感動したように、咲という人物を情熱的な眼差しで見ている。


勝にぃ、何デレデレしてんのよ。


2人のロマンチックな関係にジェラシーを感じる私がいた。大木の幹を掴む私の指先に力が入る。


 それにしてもあの咲という美人も、勝にぃにそれぽいこと言って、若い男子、たぶらかしてんのよ....



「今日は、これから、学校生活がうまくいくように...友達ができるように...


神様にお願いしにきたんですよ。エヘヘへ.......」


照れながら、言う勝にぃ。


(何言ってんのよ!勝にぃ。どう考えても勝にぃの目的は咲さん....じゃないの???)


あんなに鼻の下を伸ばしてる勝にぃは初めて見る。


「まぁ」


咲は明るく、ぱわわわという擬音をつけるような晴れやか笑顔となる。


くっ、女の私が見てもあの笑顔はそこら辺の浜っに到底、及ばない美貌だ。


「それなら。私も勝くんの学校生活がうまくいくように願ってあげるわ」


「本当ですか?ありがとうございます」


勝にぃは、まるで女神様の施しを受けたような感じだ。


何度も思うけど、、ここ、神社。


勝にぃと咲は神殿の前まで行く。


「よし、お賽銭投げて」


その前の賽銭箱にお賽銭を2人同時に投げる。


2人ともシンクロするように、二拝、二拍手する。


「勝くんの高校生活が楽しい日々でありますよーに」


咲さんは、大きな透き通る声で祈願する。勝にぃは、咲さんの方をチラ見しながら、少し顔を赤くしながら、合掌をし、一拝をした。



「これで勝くんの学校生活は明るいよ」


なびく潮風に髪を抑えつつ、咲は言う。


咲の姿は女の私から見ても絵にしたい美しい姿だった。




  その時、勝にぃが、より恋に落ちた瞬間を見たような気がした。



 わたしは大木に引っ込みつつ、胸に手をあてた。桜の大木の間から落ちる、花びら。

私自身、誰かが恋に落ちる瞬間なんて確信を持てるはずない。それでも、世間で言うアオハルはこういう甘酸っぱい一ページで彩られているのだろうと思った。


咲と勝にぃの談笑はその後も続いたが、私は胸の痛みを感じながら、一足早く学校へ向かった。










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