第2話デレデレ妹とツンツン妹(福井美緒視点)

4月7日。



私はこの日をどれだけ待ち望んだことか。

小学生の頃から大好きなあの人....近づける、チャンスが来たのだ。


私は玄関でセーラー服、シワがないか?


青いリボンが曲がってないか?


華の女子高生なんだから、スカートもギリギリを攻める。


そして、重要なのは......

あの人からもらったブサカワのキーホルダーがあるかの確認。

このブサカワはあの人との大事な絆というか、

誓いというか。とにかく、宝物だ。


戦闘体制は整った。


「はーーーー。ふーーーーー」


深い息を吸って吐く。顔をパシパシ両手で気合いを入れる。


「ねえちゃん。どうしたの?そんなに張り切って?」


「ゲホゲホゲホ」


私はびっくりして咳き込む。


急に話しかけたきたのは私の妹、福井里奈ふくいりな


眠いのか。パジャマ姿で、廊下をうろついていた。パジャマ姿の里奈は発育だけは良くて、私のブラのサイズなんてもう、とっくにこえて...なんか悲しい..


「うん。始業式だから気合いを入れておかないと!里奈も、中学校、今日からでしょ?」


元気よく答える。至って、普通の私だ。


「うん....そうだけど...でも、まだ。7時だよ?」


訝しげに見てくる我が妹。こう見えて、勘が鋭いところがある。


アブナイ、危ない。でも里奈の追撃はまだ続く。


「怪しぃーー」


「怪しくなんてないよ。ほら、お姉ちゃん、いつものお姉ちゃんだよ」


汗。ダラダラの私。


それでも見つめてくる里奈の視線を避けようと慌てて、カバンでガードした。


「あっ。そのキーホルダー?」


「キーホルダー?」


あろうことか。キーホルダーのことを失念していた。


勘が鋭い名探偵。里奈にはもう、このキーホルダーで全てを察したのだ。


「あっ、勝にぃ。今日からだっけ?」


「えーっと。今日からじゃない?」


あくまでも、興味関心がないように。


近所に住む七瀬勝こと、勝にぃ。思い出すだけで、胸が温かくなる。


でも里奈に気づかれる厄介なのは、一緒に住んでいて痛いほど知っている。


あくまでも意識してないように。


自然体。平常心。


「ふーーん。そんなに楽しみなんだ?お姉ちゃんもお年頃だね?」


急に余裕の笑みを浮かべる。


里奈は面白いおもちゃを見つけたようにこちらを見てきた。


「楽しみ?私が?」


「だって、去年。死んだように、登校していたお姉ちゃんが嘘のように元気なんだもん。これは勝にぃのおかげだね」


やれやれとあきれたように、里奈は答えた。


「里奈〜」


私はすかさず、里奈の頭をホールドし、頭を締め付ける。


「ギブ、ギブ、お姉ちゃん。痛いって!」


私でいうのあれだけど。大きな胸で、ある程度の痛みは軽減されてるが。里奈は、私の腰を手で叩き降参してきた。


私たち姉妹は、里奈の口が回るため。いつも私の実力行使で場が解決する。


「もぉー。お姉ちゃんはすぐ、暴力に頼るんだから。これじゃ、勝にぃにも嫌われちゃうよ」


里奈は頭を手でおさえながら、ため息をつく。


「勝にぃとはそんなんじゃないし。意識もしてないし」


「まぁ。お姉ちゃんも頑張りなよ.....


     

     勝にぃがまた、無理しないように」


先ほどと変わって、急に真面目な態度を取る。


里奈は去年、元気のない私を気遣ってくれたのだ。


なんだか。


  どっちがお姉ちゃんか。わからない。


「うっ、うん。それじゃ、里奈」


ばつが悪くなり、その場から一目散に出たい気持ちが強くなる。


「バイバイ。お姉ちゃん。吉報を楽しみにしてる」


「だから、そんなんじゃないから!またね」


ニヤニヤ顔に戻った里奈に見送られながら、私は胸の温かみを感じつつ、勝にぃとの新たな高校生活に胸を膨らませた。

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