第五〇話 次の平穏はいつなのか

 少女に対する称賛はとどまることを知らない。


 二人がオークの首領を相手にしている間に、逃げ惑っていた市民たちは自らの家へと戻ってきており、戦闘を終えた他の冒険者たちから二人の武勇伝を聞き感動していた。


 勿論他の冒険者たちもかなり貢献したわけであり、何よりハルトヴィンの西門での実際の戦果は少女たち以上のものであったのだが、見ていた人数や撃破した数の少なさにより、そこまでの評価を受けることはなかった。それは彼の地位も理由の一つで、元からかなり期待されていたというのもある。


 また、少女とクラーラの内、比較的評価が高かったのは少女であった。それは少女自身の魅力もあるが、クラーラの人間に対する無関心が彼女自身の評価に歯止めをかけていた。冒険者たちはそのことよりも頭蓋骨を持って現れたあの時が脳裏によぎり、少し距離を置いている。


 しかしながら、そのどこかぼうっとした雰囲気に惹かれた者もまた一部いる。実際、クラーラは女性としての魅力を十分に持っているのだ。


 戦いを終えて数日が過ぎ、市民による街の復興が続けられる中、少女とクラーラは冒険者組合から呼び出しを受けたためそこへ向かっている。


 二人はすでにこの都市の有名人だ。組合に向かって歩いているだけでも声を掛けられる。


 しばらくして組合へと到着し、その扉を開けた。木製のドアの開く音が組合のロビーに響くと、受付の女がそれに気づいた。


「お待ちしておりました。ご案内します」


 彼女がそう言うと、他の冒険者たちも二人の存在に気が付く。


 また歓声が沸いた。


 二人を尊敬するのは市民だけであるはずがない。どちらかと言えば同業者の方が興奮していた。


 首にかけられた二級冒険者のバッジ。それは冒険者の誰もが憧れる階級だ。


「最高指導者と組合長、一級冒険者のパウル・マイヤーさんが会議室にいらっしゃいます。それから、クラーラさんはここでお待ちいただけますか?」


 パウルとエミーリアは一級冒険者となっていた。少女たちの方が戦果は多いのだが、三級以降は飛び級出来ないため二級止まりである。


「……どうしてですか?」


 クラーラは少女から離れたくない様子だ。


「まあそう言わずに待っててくれ。すぐ戻ってくるから」


 彼女から不満の表情は消えないが、少女からの命令であるため仕方なく従う。


 そして少女は二階へと案内され、見慣れた会議室へと入って行った。


 時間は過ぎ、半時間ほど経過する。


 部屋から一番乗りで出てきたのは少女であった。ゆっくりと階段を降り、一階のロビーに姿を現す。


「お帰りなさいませ、カミリア様」


 ぼうっとしていたクラーラは長椅子から立ち上がると、少女のもとへ駆け寄った。


「クラーラ、一つ聞きたい」


 少女は少し悩み事でもあるかのような顔つきだ。


「どうされました?」


「これからも、わたしについてきてくれるか?」


「はい!」


「毎日忙しくても?」


「もちろんです!」


「そうか……ありがとう」


(ああ、これからはゆっくりできそうにないな。この世界がどこだか知らないけど、運命っていうやつなら仕方ないのかな……)


 少女の旅路は、これからも続いて行く。

 


 ――第一章 転生と冒険者の道 完――

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不死鳥少女建国紀 かんざし @AL-Mavet

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