第一五話 六人で囲む焚火 その一

 男三人、女一人で構成される冒険者チームと女二人の旅人は、月の光が周囲を僅かに照らす丘の上で、焚火を囲むように胡坐をかいていた。


 彼らの顔には笑顔が浮かんでおり、周囲に対する警戒心はほとんど感じられない。


 もちろんそれには理由がある。冒険者チームのリーダー、パウルが周囲に魔法の結界を張っているからだ。生物の侵入を探知するこの魔法は、冒険者チームに所属する魔法使いならほとんどが習得しているか、同じ効果を得られる魔道具を所有している。


 そのためある程度は気を緩めて話すことができるのだ。


「そういえば、あの炎は一体何だったのでしょう?」


 フランツが話を切り出した。あの炎とは、つまりいきなり横切った巨大な炎の渦のことである。


「あー、あれはびっくりしたよな」


「不死鳥でも帰ってきたのかと思ったよ」


 パウルの言葉に、少女は一瞬ぴくりと体がはねた。そして興味深そうに彼の方を見る。


「不死鳥をご存知なのですか?」


 少女は食い気味に質問した。不死鳥がどう言うものか知りたいのではなく、どのような評価を得ているか疑問に思ったからだ。


「ええ。大して詳しくは知らないんですけど、四大元素の火、風、水、地のうちの、火をつかさどる精霊です。有名な話としては、数百年前に世界中を巻き込む大戦争を引き起こしたという伝説があります。昔の話なので、本当かどうかはわからないんですけどね」


 その言葉を聞き、少女の頭の中には疑問符が浮かんだ。


(は? 大……戦争?)


「でも、他の歴史書には慈悲深くて世界中の人々を救ったっていう話もあるわよね」


「だけど人見知りで、色んな生き物をさらって回ったっていう話もあるんだよ」


 少女が混乱している最中さなか、エミーリアとフェリックスがそう言った。


 さらに困惑するが、その表情を読み取ってかフランツが少女に話しかける。


「火の精霊、不死鳥の伝説は、著者や時代によってかなり内容が違うんですよ。ですから誰も何が本当なのかは分かりません。なにより、最後に見たと記録されたのもかなり昔の話ですし」


 他三人もその通りだと頷いた。


(あ、危なかった。わたしが不死鳥の後継だなんて言ったら…………いやいや考えたくもない)


 今後不死鳥の力の使用は控えるべきかと、真剣に悩む。取り敢えず新しい情報を得るまでは言わないでおこうと考えた。


「そういえば、自己紹介をしてなかったな」


 ふと、フェリックスがそう言った。


 これだけ話しておきながら、きちんと自己紹介をしていなかったことに気づく。森の中では危険であるため先に外へ出ることを優先したわけだが、すっかり忘れていた。


「そういえばそうね。私はさっきも言ったけど、エミーリアよ。このチームの前衛をしているわ」


 エミーリアはそう言って後ろに置いてあった巨大な槌を片手で少しだけ逆さまに持ち上げ、地面を軽く叩いた。ドスンという振動が少し響く。


「俺も前衛で、名前はフェリックス・ノイマンだ」


 陽気な男は白い歯を出して笑顔を送った。


「俺、いえ私はフランツ・ベルガーです。弓使いをしています」


 フランツは丁寧な口調で言った。


「本当は私から名乗るべきなのですが、先に言われてしまいましたね。俺――いや、私がパウル・マイヤー、このチームのリーダーです。普通の魔術師で…………一応錬金術師でもあります」


 少女は目の前の男が錬金術師である語ったことにかなり興味を抱く。ただの作り話ではなく、魔法の実在するここならばそういった者たちも存在し得るのかも知れないという期待に、胸を躍らせた。

 

「うちのリーダーはすんごい強いんだよ」


 エミーリアが少し得意げに言う。


「そうですね。リーダーなら、私たちよりももっと実力のある方々と組んでいてもおかしくはありません」


「そんな、俺は他の方と組むつもりはないよ」


 彼のそんな言葉に、他の冒険者仲間は少しむずがゆそうな表情を浮かべ、心底嬉しそうに微笑んだ。


(いい関係だな……)


「わたしはカミリア、ただの旅人です。そしてこちらが……」


「ん、クラーラです」


 クラーラはお辞儀とは言えないほどに僅かに頭を下げ、特に興味がなさそうに言った。


「パウルさんは錬金術師なんですよね?」


 少女は興味津々に質問した。


「えっ、ああ、はい……一応は」


 パウルは弱く肯定した。


「鉄を金に変えられるって、本当なんですか?」


 少女の食い気味な質問に少し圧を感じながらも、パウルは続ける。


「ええ、出来ますよ。ただ……カミリアさんが思われているほどの量を一度にというのは不可能です。小麦一粒分もできないですね」


 期待されるほどの成果を上げられない職業であるために、暗い表情で語っているのだと考えた。


 しかし、少女にとってはほんの少しでも変えられることに対して、純粋に尊敬の念を抱いている。何しろ前代の不死鳥が遺した日記には、錬金術に関して単語として記されてはいたもののその説明が一切と言っていいほど書かれていなかったからだ。


「カミリアさん、あんまり追求しないであげて」


 エミーリアが突然そう言った。


「俺は別に気にしてないよ。ええっと……カミリアさん、錬金術師は多くの場合短命でして、ですからあまり皆からいいように見られないんですよ」


「そ、そうでしたか。すみません……失礼なことを」


「いえいえ、いいんですよ。それに最近、ちょっと事件がありましてね……」


「いいんですか? そんなに話しても」


 フランツがそう言った。それ相応の何か言いづらいことがあったのだろう。


「カミリアさん、引かないと約束していただけるなら話しますが……」


 もちろんですと即答する。なぜなら少女の方が引かれそうな事情を持っているからだ。多少のことで驚くつもりは無い。


 パウルは頷くと、その事件について話し始める。

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