第一四話 予想外の仲間、あるいは部下 その二
少女は冒険者たちのもとへと歩いている。森の奥から戻ってくる道すがら、足元の枯れ草が軋む音を立てていた。
しばらくして、遠くに四人の姿を視認する。彼らがまだそこにいたことを確認でき、少女は安心した。肩の力が抜けたように小さく溜め息を吐いた。
「そうだクラーラ、わたしたちは一応旅仲間ってことにしておいてくれ」
少女は真っ黒な外套を纏った尸族の女クラーラにそう伝えた。
「わ、わかりました」
クラーラは小さくうなずいた。
二人は冒険者たちのもとへと到着する。彼らは既に恐れによる引きつった表情を和らげていたが、二人の接近に気づくと一瞬だけぴくりとはねた。
そして先ほどの白い服の女だとわかると、安心したような表情になる。
「ごっ……ご無事でしたか!!」
少女らの進行方向から声がかかった。それに続いて全員が驚きと感嘆の声を上げる。あの危険な殺気の中へ突っ込んでいき、そして生還した人間を純粋に尊敬したのだ。
「そちらの方は一体?」
クラーラの姿に気づいたエミーリアはすぐに質問した。
「ええっと、わたしの旅仲間です。あなた方が襲われていたので、わたしが少し先に移動していたんですよ」
(この言い訳は少し厳しいか?)
少女は言い訳をした。疑問に思われないかと不安であったが、冒険者たちの顔には疑いの色が一切なかった。
「そうでしたか。あっ、先ほどはありがとうございました。本当に助かりました」
パウルは少女の言葉に納得し、また、感謝の言葉を述べた。他三人も続く。
どうして深夜にこの森をという質問は、四人とも気が動転していたためにそこまで考えが至らず、されることはなかった。
少女は全員を見つめ、それぞれと目を合わせた。誰も危険そうには見えなかったが、最低限の警戒は続ける。
「それで、結局奥には何がいたんです? 尋常じゃない気配を感じたのですが……」
フランツが尋ねる。全員が興味深そうに少女の方を見た。
「いや、これがどうもわからなくて……。発生源に近づいたと思ったら、急に消えちゃったんですよ」
少女の発言に、冒険者たちは困惑した。撃破したというわけでないなら、また襲ってくるかもしれない。
そんな中で何も気にしていなさそうな様子の少女に、誰もが違和感を覚えた。たった一人クラーラを除いて。
「なら、取り敢えずは街に戻って、組合長に報告しておくべきでしょう」
「そうだな。直接見てはいないが……あれを倒せるとなると、王都から最高指導者を呼ばないといけないかもな……」
パウルの言葉に他の三人が賛成した。
「最高指導者って、どういう方なのですか?」
少女の質問に冒険者たちは少しの間唖然とした。この社会に生きている人間なら、特に冒険者や旅をする人間なら必ず知っているような知識であったからだ。
「あなた、本当に何も知らないのね。どこの生まれ?」
エミーリアが尋ねる。
「えぇっと………………すみません。それは秘密です」
「んーそうなの? 話し方からして南東出身っぽいけど……まあいいわ。名前だけ聞いてもいい? 私はエミーリアよ」
「カミリアです。それで、こっちがクラーラです」
「俺らも名乗るべきだが、話は後にしよう。今は森から離れるべきじゃないか?」
フェリックスが会話を中断させる。皆森の方を振り返り、やや緊張した面持ちとなった。
「そうね。他の尸族が来るかもしれない」
「だけど先に一つ、お二人にこれからの予定はありますか?」
パウルは少女らに対して質問した。
尸族の母を容易に撃破する存在、そしてその人物の隣にいる連れのような女。彼女に関しての実力は知らないが、少女に及ぶかもしれない。
もし共に行動できるのであれば、強さの秘訣を僅かでも知りたいと考えたための発言であった。
「特にないですよ。ただ旅をしているだけですので」
「では、ヒューエンドルフの方へはもう訪れられたのですか?」
少女はそれが何かと尋ねると、近くにある都市であることを説明され、そしてエミーリアが彼女らとの同行を提案した。
食い気味に是非と即答する。その返答に、冒険者たちは笑顔で答えた。
少女とクラーラは、冒険者たち四人組に連れられて森を出る。月の光が木々の間から漏れ、地面に不規則な明暗を描いていた。
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