第六話 とある冒険者たち その一
時間は深夜、満月の明かりが真っ暗な周囲をわずかに照らす中、少しだけ明るい場所があった。
アルト大森林北東部には、現在四人組の冒険者チームがやってきていた。手には魔法の灯火がある。
彼らが普段人間の立ち入らない森林の内部まで来ているのには理由があった。
その目的は最近多発している
尸族とは生きた死体と呼ぶべきだろうか、何とも形容し難い存在で、生きる者であれば何であれ襲う、動く肉体のことを指す。
オークとは、この森に生息する亜人種のことだ。そしてその実態はほとんど知られていない。
大量の尸族を放置するというのが愚策であるのはもちろんのこと、オークがこの森から離れたというのなら人間が活動領域を広めることが出来るかもしれない。
また、わざわざ夜に来たのは、尸族は夜に発生することが多いためだ。
今回訪れた冒険者の階級は二級。冒険者の中では最高指導者、冒険者組合長を除いて二番目の実力者で、信頼できる実績の持ち主である。そんな彼らが
レヴナント四〇体。冒険者が訪れる数日前に出現したおおよその尸族の数と種類である。
先に訪れていた別の冒険者チームが恐怖心に
四人組の冒険者は男三人、女一人で構成されていた。
「フランツ、フェリックス、様子はどうだ?」
薄茶色の短髪で紺色の外套を
「いや、まだ少しも気配がないですね」
「だな」
前を歩いている二人の男は答えた。
フランツ・ベルガーは短弓を握り締めて森の奥を鋭い目つきで監視しており、その隣でフェリックス・ノイマンが短剣を二本逆手に持って彼のとなりを歩いている。
「ねぇリーダー、ほんとに来るの?」
かなり気の抜けた声で女が問いかける。露出が多く少し華奢な彼女は、その体つきには不釣り合いの非常に大きな金属製の
「エミーリア……。もう少し我慢できないのか?」
リーダーの男パウルは
「皆さん!!」
前方を歩いていた短弓を持つフランツが突然声を発し、他の三人もそちらに注意を向ける。皆立ち止まって各々の武器を構えた。
そして全員が感じる。森の奥から
「数はどれくらいだ?」
パウルはフランツに質問すると、聞いた話と大体同じほどだという答えが返ってきた。
「いつものでいくぞ、全員配置につけ!」
パウルの言葉に三人が頷き、即座に陣形を整える。前衛として巨大な槌を両手で正面に構えるエミーリアと、短剣を二本握り締めるフェリックスが。そして後衛は杖の頭を前に傾けて持つパウルと、矢をつがえた短弓で狙いをつけるフランツが並ぶ。
遠くの方から漂っていた気配はかなり接近してきており、すぐにでも彼らを襲い掛からんとしている。
パウルは陣形が整ったのを確認すると杖を持ち上げ、杖の頭を前衛のエミーリアとフェリックスに向ける。
すると、杖の先につけられた紫色の宝石は突然発光した。そして、その先には黄土色に光る円盤が出現する。
円盤内部には複数の文字列、その中央には逆三角形に
それが何であるのかパウル含め冒険者四人は知っている。〝魔法陣〟と呼ばれるそれは、一般的な魔法を使用するときに必ず出現するものだ。今回黄土色に光り、中央にそのような記号が現れたのは、地属性の魔法を使用したからだ。
前衛の二人はパウルの魔法によって、一瞬全身が薄茶色に光った。
パウルが使用したのは部分的な硬化魔法だ。この魔法の影響下にある人間は、端的に言うと防御力が向上する。
「リーダー、私の武器にも」
フランツがそう言うとリーダーの男は頷き、杖の頭を彼に向けた。
すると杖の先の宝石が光り、同様の魔法陣が出現した後、彼が持つ矢すべての矢尻部分が薄茶色の光を放った。
先ほどと同様の魔法で、矢の貫徹力の向上が見込める。
「今回の戦闘は魔力に余裕がない。だからなるべく傷を負わないよう慎重に戦ってくれ」
魔力とは魔法を使用する際に消耗するもので、生命力に直結しており、食事等の摂取で時間をかけて回復できる。
パウルの指示に三人が返事をすると、森の奥に視線を移した。そして少しの間、周囲が静寂に包まれる。
少し時間が経つと、遠くからの気配に足音が加わり、それは大量の存在が歩いているようなものだ。かなり近づいてきており、周囲では複数の鳥が鳴き声を上げて上空へと逃げだしている。
――そして、冒険者四人は尸族の群れを視認した。
彼らは激しく動揺することになる。
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