赤いリボンの女の子 2/3
ー 工事2日目 ー 202号室
次の日の12時、親方はまた定食屋に行くと言って、一人で向かった。
俺も弁当を食べようと準備していると、うしろから「お兄ちゃん」と言う声が聞こえた。
振り向くとニコニコ笑顔のさつきが立っていた。
「来たかぁ、早く食おうぜ、お腹ペコペコだわ」と言いながらさつきに唐揚げ弁当を渡す。
「……お兄ちゃん」今度は、下を向きしょんぼりしている。
「どうした?」と聞くと。
「あの……その……お弁当のお金……さつき持ってなくて……」と返ってきた。
「子供がそんなん気にすんな、早く食おうぜ」といってさつきの頭をなでる。
「うん、ありがとうお兄ちゃん」嬉しそうなさつき。
俺はさつきが、一所懸命にご飯を食べる姿が好きなのだ。
田舎のばあちゃんが「食べな」「もっと食べな~」と無限にご飯をススメてくるのは、きっとこんな気持ちなんだろう。
弁当を先に食べ終え、さつきが一所懸命に食べる姿を眺めながら、お茶を飲んでいると。
「どうしたの?」俺の視線に気付いたさつきが聞いてくる。
「なんでもない」と言いながらさつきの頭をなでる。
「もう~セットが乱れるでしょ」ぷんすか怒るさつき。
さつきの頭には、今日も可愛い赤いリボンが揺れている。
「さつきの赤いリボン可愛いな」と言うと「お母さんが結ってくれたの~」と笑顔で答えるさつき。
「そっか、良いお母さんだな」と言うと「うん」と返ってきた。
…………
仕事開始の時間が近づく。
「お兄ちゃん……あの……その……明日も来て良い?」オドオドしながらさつきが聞いてきた。
「明日も待ってるから」笑いながら俺が言うと。
「やった~」両手をあげて喜ぶさつき。
「お兄ちゃん大好き~」と言いながらさつきは家に帰っていった。
…………
ー 工事3日目 ー 203号室
午前中の工事も順調に進み、そろそろお昼になるという時間。
親方が「アカバネ、今日は俺が奢るから、一緒に定食屋に行かんか?」と誘ってきた。
親方は髭ずらで強面だが、とても寂しがりやなのだ、一人定食屋で飯を食うのが寂しかったのだろう。
「親方、小さい女の子なんですけど、その子も一緒で良いですか?その子の分は俺が出しますんで」と返事した。
「その子の分も俺が出す、子供が生まれるんだろ?お前は節約しとけ」と親方。
親方は髭ずらで強面だが、面倒見が良くて子供好きなのだ。
「あざっす、俺はさつきとすぐ行きますんで、先に行って席を取っておいてください」
「分かった」親方は俺に手を振って、先に定食屋に向かった。
…………
時計の針が進み11時59分を回る。
そろそろ来る頃かなぁと思っていると、すぐ後ろで「お兄ちゃん」と声がした。
「うおっ、びっくりさせんなよ」さつきがいつの間にかすぐ真後ろにいた……全然気付かんかった。
「えへへ~」ピースサインでドッキリ大成功を喜んでいるさつき。
「さつき喜べ、今日は親方が飯を奢ってくれるらしいぞ、一緒に定食屋に行こうぜ」と伝える。
「え……」さつきの顔が一瞬曇る。
親方の事を怖がっているのかもしれない。
「心配すんな、親方は髭ずらで顔は怖いけど、良い人だぞ」と説明する。
「もうね……ごはん食べちゃった……」俯きながらさつきが言った。
「そっか、今日はもうご飯食べちゃったのか……」小さい子供のする事だ、そういう事もある。
「ごめんなさい」しょんぼりしているさつき。
「気にすんな、親方待たせてるから、俺は行くな」と言いながらさつきの頭をなでる。
さつきは泣きそうな顔で、俺を見つめて「いってらっしゃい」と呟いた。
俺は駆け足で親方のあとを追いかける。
泣きそうな顔しやがって、さつきと一緒じゃないと、飯も美味くねーんだよ。
親方はちょうど定食屋に入る所だった。
「親方ぁ、今日の昼飯やっぱり一人で食ってください、すんません」と言って頭を下げる。
親方に事情を説明すると、笑って「行ってこい」と言ってくれた。
髭ずらで強面だが良い人なのだ。
急いで唐揚げ弁当を二つ買ってアパートに戻ると、いつもの部屋の前で、さつきが体育座りして顔を伏せていた。
「弁当買ってきたから、一緒に食おうぜ」と声をかける。
「お兄ちゃん……」顔をあげたさつきは真っ赤な目をしていた。
ずっとここで泣いていたのだろう。
「なんだよ、泣くくらいなら一緒に来ればよかったじゃねえか」笑いながら俺はさつきの頭をなでる。
「だって……だって……」大粒の涙をポロポロと流すさつき。
親方の事が怖かったのだろう……それは仕方がない、俺も最初は親方の事ビビってたし。
「ほら、早く食おうぜ、弁当が冷めちまうぞ」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
さつきはすぐ笑顔になった。
今泣いた烏がもう笑う、子供ってのは大体そんなもんだ。
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