憑依 ー あいつら一人ひとりに必ず地獄を見せてやる ー

 日笠千鶴ひかさちずるが自殺をほのめかしたところで、画面が消える。


 男の自分には想像する事しかできないが、17歳の女の子が複数人の男に無理やりレイプされる。


 それは死を選ぶのに、十分な理由となり得るだろう。


 …………


 そう考えていると、再び画面が付いた。


 椅子に座った日笠千鶴ひかさちずるの姿が映る。


「死ぬと決めてからは、どうやって死のうかって、ずっと考えていました。心療内科から飲みきれないほどの睡眠導入剤をもらっていましたので、オーバードーズがいいかなと思い至りました」


「ですが……いざ致死量の薬を机の上に並べると……怖くて、怖くて、震えが止まりませんでした」


「ああ……少し前までは、友達と放課後に寄り道して、人気のカフェでスイーツを食べて、気になる男の子の話をして、そんなありふれた、どこにでもいる普通の女子高生だったのに……どこで道を間違えたのでしょう」


「いつも優しいお母さん。泣き虫なお父さん。大好きなみさき


「怖いよ……死ぬのが怖いよ……」


 日笠千鶴ひかさちずるが両手で顔を覆い、嗚咽を漏らして泣きだした。


 「どうしても私は、薬を飲むことが出来ませんでした」


 …………


 「少し眠ろうと目を瞑りました。ですが眠りに落ちようとすると、必ずあの人たちの顔が脳裏に浮かび上がるんです。私をこんな目に合わせたケダモノ。佐藤と松岡と坂口の顔です」


 「今日も眠れない……部屋の天井を見つめながら、あの人たちは、今頃なにをしているのだろう……私はふとそう思いました。あれだけの事をやったのだ、今ごろ逮捕される恐怖に震えて、私と同じように眠れぬ夜を過ごしているかもしれない」


 「きっとそうだ……少しでもこの陰鬱な気持ちを晴らしたい、そんな一心であの人たちの事をSNSで調べることにしました」


 「Twitter。インスタグラム。Facebook。3時間くらいでしょうか、スマホで検索していたら坂口の『ツイート』にヒットしました。アイコンが坂口自身の顔写真でしたので、絶対に間違いありません。そこから色んな事が分かりました」


 「三人とも東京にある『有名私大Y大学の2年生』である事。大学内の『インカレサークル自由の扉』のメンバーである事。『三人とも恋人らしき人』がいる事」


 …………


 「私は怒りで気が触れそうになりました。信じられますか?あいつら私を犯した三日後にサークルのメンバーと海に行ってはしゃいでたんです……海で泳いで……スイカ割りをして……バーベキューをして……それが終わったら花火をして……あいつらの楽しそうな写真を見ていたら、何もかもが馬鹿馬鹿しくなってしまいました」


 「わたしがぁ、わたしがぁぁぁ、どれだけ苦しんだか分かりますかぁぁ」


 「クソがぁぁ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 立ち上がり座っていた椅子を蹴り飛ばし、更に何度も何度も上から踏みつけて、怒りを露にする日笠千鶴ひかさちずる


 「死ねない……このままじゃ絶対に死ねない……そう思いました」


 「あいつら一人ひとりに必ず地獄を見せてやる、それまでは絶対に死ねない」


 「私はそう決意しました」


 …………


 僕も日笠千鶴ひかさちずると同じ意見だった。

 

 佐藤と松岡と坂口あいつらは、地獄に落ちるべき人間だと。


 …………

















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