憑依 ー 早くあなたに会いたい ー

 「復讐を決めてから私に大きな変化がありました。夜眠れるようになったんです」


 「夜目を閉じてから、ゆっくりとアイツ等の泣き叫ぶ姿を想像するんです。そうするだけで、犯された日の事を全く思い出さなくなりました。物凄く強い睡眠導入剤を飲んでも寝れなかったのに……心の平穏って大事なんだなって改めて思いました」


「ぐっすり眠れるようになってから、食事にも気を付けるようになりました。栄養価の高い食材を無理にでも食べて、適度な運動、それから毎日欠かさずにプロテインを飲むことにしました。『健全なる精神は健全なる身体に宿る』っていうじゃないですか」


 嬉しそうに笑いながら語る日笠千鶴ひかさちずる


 その笑顔にはどこか狂気が宿っていて、何かが壊れてしまったんだと感じた。


 「寝ても覚めても復讐計画の事だけを考えてました。出来るだけ長く、出来るだけ苦しめてから殺したい。まるで修学旅行の旅のしおりを作っているような、最高の時間でした」


 「復讐計画が完成した時は、嬉しくて嬉しくて中々寝付けなかったんですよ~」


 「本で見つけた凄~~い拷問に、私のオリジナルブレンドを少々」


 「ウフ……ウフフ……アハハ……アハハハハハハ」


 「考えるだけで、笑いが止まりません」


 …………


 「計画実行は少し先にしました。早くあの人たちに会いたいけど、計画にはどうしても必要なものが、いくつかあったからです」


 「えっ復讐計画の詳細を知りたい?」


 「せっかちさんですね~~」


 「こういうのは、何も知らない方が楽しめるんですよ」そう言ったあと、僕に向かって、パチンとウインクする日笠千鶴ひかさちずる


  僕がドキッとしていると、それに合わせるように画面が消える。


 日笠千鶴ひかさちずるには『せっかちさん』と言われてしまったが、次のシーンが始まるのを待ちきれない。


 無駄だと分かっていながら、僕はリモコンの早送りボタンを何度も何度も押していた。

 

 …………

 

 「お待たせしました、ようやく復讐の準備が整いました」


 真っ暗な画像から日笠千鶴ひかさちずるの言葉だけが聞こえる。


 再び画面が付き日笠千鶴ひかさちずるの姿が映る……僕は自分の目を疑った。


 日笠千鶴ひかさちずるが別人のように綺麗になっていたのだ。


 映像で見ると一瞬だが、実際には何か月も経過しているのだろう。


 病的なまでに痩せていたはずの彼女は、驚くほど健康的なアスリートのような身体に変わっていた。


 本人も言っていたが、栄養価の高い食べ物を食べ、適度な運動をして、毎日プロテインを飲む。


 徹底した自己管理の結果がそこにあった。


 日笠千鶴ひかさちずるは、好きな人に勇気を出して告白する乙女のような、うるんだ瞳で「本当に長かった……今日まで、あの人たちの事を考えない日は一日たりともありませんでした」と呟いた。


 「あの人達のTwitter。インスタグラム。Facebook。その全てを見ていました」


 「大学にも実際に何回も足を運んだんですよ。本当にドキドキでした……殺したくなる衝動を抑えるのが…………」


 「さあ行きましょうか!」


 「まずは坂口さん、アナタからです♡」


 そこで画面がまた暗くなった。


 …………


 ドキドキしていた……。


 『早く坂口に会いたい』


日笠千鶴ひかさちずると同じ事を僕も思っていた。


 …………


 

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