第20話 男の狂気と女の嫉妬

 「もうこれで終わりだ」


 女神がつぶやく。


 スカンダが狙っていたのは世界の崩壊。

 彼は転生前の、産まれた世界を強く恨んでいた。そして、転生後のこの世界も同様に恨んだ。


 スカンダは、転生前の世界でも絶大な力を持つイレギュラーだった。

 彼は転生前の世界も滅ぼす一歩手前まで行っていた。帝国の総統であった彼は世界中を巻き込む大戦を引き起こしたのだ。

 もう少しで達成できそうだったが、彼に恐怖した各国が協力しあい、最終的に彼の野望は潰えた。彼は世界の前に敗北し、世界を滅ぼせずに死んだ。


 女神カーリーが天女と輪廻転生者への悪巧みを考えついた時にすぐひらめいたのが、このスカンダであった。 

 その彼に私が力を与えて、異世界でさらなるイレギュラーを引き起こそう。そう考えたカーリーは、ラークシャサなど、他の有望な転生者を彼の手駒とすべく、優先的に送り込んだ。


 スカンダ。

 彼こそ真の『狂気』だ。何せ世界を滅ぼすためだけに生きているのだから。


 できれば彼にも輪廻転生の力を与えてみたかった。

 天女の凡夫なんかが持つよりも遥かにふさわしいに違いない。

 スカンダであれば、何度でも転生した先々で世界を滅ぼして回ることだろう。

 それは愉快そうだった。


 なんで、そんな悪巧みを考えたのかですって? 

 決まっているじゃない。あの天女おんながムカつくから。

 『あの世界』を選んだのはたまたま。天女の『彼氏』が転生していたからにすぎない。

 彼氏にとって思い入れが強い世界であればどこでもよかった。


 あの天女おんなとは天界ができたころからの犬猿の仲だ。

 そのはずなんだけど、なぜかあの天女は私のこと友達と思っている節がある。

 何度も外界の世界滅ぼすような壮大なケンカ神の戦いを繰り広げているのに、なんで彼女は私を未だに友達だと錯覚しているんだろう。


 天界の給湯室で顔を合わせるたびに、「ほんと笑っちゃうのよねー。今回なんに転生したと思う? ミジンコよミジンコ! あんなやつはじめてよー」などと楽しそうに笑い転げて報告するこの天然天女おんな

 それ聞かされて、私がイライラしてるってなんで気づかないのか。


 しかし、ようやくこの天女おんなに復讐するチャンスが巡ってきた。


 天女の彼が異世界で不運にも早逝繰り返していたのは私のささやかな復讐だ。私が彼の死神グリムリーパーだ。


 彼がどこにいつ転生したのかを異世界転生管理局の同僚の神々私を好きな男どもに内緒で教えてもらっては、タイミングを計算して彼がまだ力を付ける前に殺せるよう仕組んだ。


 直接殺すと勘のするどい天女が気づく可能性もあるので、できるだけ偶然を装い、盗賊やクラゲ、隕石さえも使った。


 転生した先々には、執拗な彼女が事前に送り込んだ転生者刺客が二重三重に配置され、異世界で凡人でしかない彼は何が何だかもわからないままに死ぬ運命。


 有能なカーリーの打っていた手は的確で、彼の異世界での生存時間は極端に短かった。それなのに、天女も彼も、彼の不運として捉えていて疑うこともない。

ざまあみろ。


 それまでも、おっとりした天女が転生者数のノルマ果たせないしわ寄せを受けて、私が頑張って彼女に代わって転生待ちリスト捌いてきた。そりゃ、たまには強引な説得で転生させちゃたりもするけれど、まあどうせ死ぬ運命だった転生者だと思えば、ある程度の失敗トラブルは割り切ればいいだろう。候補はいくらでもいる。


 私が強いイレギュラー起こす転生者を好むとか噂されてるけど、強い転生者ほど世界を大きく進化させる可能性も秘めているのだから当たり前。無能で一般人と変わらない転生者がいくら異世界に行ったからって何の役にも立っていないはずだ。


 それなのに、私には仕事は早いが失敗も多い担当官とレッテルを貼られ、あの天女おんなはおっとりしているように見えるけどなんだかんだ天界にも転生者にも評判がいい。

 私の天界の信者こと好きって言ってくる神々は腐るほどいるんだけど、彼女は密かに恋い慕われているタイプだ。もしかしたら私の信者より多くて深いのかもしれない。


 そして、最近はあの男と白い部屋で仲良くして、ただでさえ生産性低いのに今ではほぼ彼の専任担当官と化している。お前、それは職場デートだろー。イチャコラしないでちゃんと仕事しろ! 私がどんだけ残業しながらこの職場回してると思ってんのよ!



 そしてついに、男と異世界イチャラブ旅行と来たもんだ。それは異世界転生規約を紐解くまでもなく、どう考えたって違反だろー!


 それをよりにもよって田舎まんじゅう(甘くなくって堅くて冷たいやつ)を土産に「これで管理局には内緒にしておいてね」って笑顔で買収してくるなんて、どんだけ頭の中お花畑なのよ!即チクってやったわよ!


 「カーリー、信じてたのに、私を騙して嵌めたのね」みたいな顔して連れて行かれたけど、私は騙しても嵌めてもないわー。全部あんたが悪いだけじゃない!まじでムカつくのよね——!


 ああ、私ときたことが、思わず冷静さを欠いてしまった。

 あの天女のこと考えるとすぐ頭に血が上ってしまう。落ち着こう、落ち着こう。

 

 ここまでは全て計画通りだ。

 人生ここまでうまく行かなければ絶対やる気削がれて、惰性で転生繰り返すだけの転生ガチャ失敗者になっていることだろう。


 彼が殺され続ける転生にうんざりして、私の足元にひれ伏して、私の男になったところを、あの天女に見せつけてやるのよ。そうすればどんなに気持ちがいいことか。


 カーリーは、勝利を確信していた。




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次話『破壊の神』へ続く



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