第18話 戦いの女神と無能な凡人
女神カーリーは自分の部屋に戻り悪巧みに勤しんでいるようだ。それ以降姿を見なくなった。
俺の目標は3つ。
①天女を幽閉から解放し、できれば転生担当に戻してあげること
②女神カーリーが悪巧みしているあの世界を滅亡から救うこと
③俺がこれ以上殺されないようにすること
人道的には②が最優先なのかもしれないが、わがままと言われても俺的には①を優先したい。
天女が幽閉されることになってしまったのは、俺を助けるために転生に付き合ってくれたから。天女を見捨てるわけには行かない。
どうすればこの目標が達成できるのか。皆目検討がつかない。
①は天女が俺と異世界に行っちゃったという異世界転生規約違反は歴然としている。
この違反へのペナルティは避けられないものの、それ以外の「多世界の環境が悪化したのが天女の行いのせい」という冤罪を証明することがまず第一だが、異世界転生と世界の健全性の関係も天界でもまだよく分かっておらず、立証は困難を極めそうだ。
とりあえず女神カーリーがやった悪巧みを暴くことで天界を味方にする作戦からはじめよう。
②はあの世界のカーリー秘蔵のイレギュラーを見つけて倒すことかな。
めっちゃ強そうだし、周りにもカーリーの子飼いの強力な転生者がたくさん控えているだろうし、凡人な俺にはハードル高いだろうけどやるしかない。
③は、①②が達成できたらついでに叶うかも、くらいに考えておこう。カーリーがその後も俺へ嫌がらせし続けるようなら変わらんし、興が削がれて飽きてくれるのに期待かな。
天界につてもコネもない俺にできることといえば、悪巧みを暴くためにひたすら転生して決定的な証拠を集めること。
せっかく集めた証拠を女神や女神のファンの神様に握りつぶされることも十分考えられるが、そこへの対処はまだ考えられていない。今のところ天界の良心に期待する。
勝ち筋としてはまだ弱いな。けど天女さんに報いるためにもやれること頑張ってやらんと。
もうここには転生天女はいない。今までのように天女さんの力を借りることはできない。
異世界転生の段取りだけでも、俺をサポートしてくれるひとがいないので、全て自分で段取らなければならない。
*
俺は、カーリーから「貴方は自分で好きに転生していなさい。私は私で忙しいから」と言われたことでシステム的には『転生担当官(臨時)』として認定されたようだ。本来であれば転生担当官でないとできないダーツや転生門操作もできる資格を得ていた。
ただ、異世界転生管理局に俺の転生先書類を提出することは、俺が天界への立ち入り許可されていないためできず、定期的に管理局の局員が白い部屋にまとめて取りに来ることになった。
カーリーが「気が向いたら、貴方のお仕事の慰問に私がこの部屋に来て、溜まった書類持っていってあげるわ」と言っていたが、めんどうなことが嫌いな彼女のこと、そんな時間の無駄はしないだろう。
これからは俺ひとりですべてやる。
行き先はただひとつ。
とある世界、俺が
ゴブリンを脅し、人間とゴブリンの村を皆殺しにし、『転生した俺』を知っているラークシャサがいたあの場所。
そこが、女神カーリーが『お楽しみ企画』と称して悪巧みしている舞台だ。
*
まずはダーツだ。
身内に甘い天界の神様のこと、女神カーリーは天女がやったようにダーツボードに手で矢を刺しても何のお咎めもないだろうが、俺にはその例外は認めてもらえないだろう。
取り敢えず『あの世界』の『あの時期』にうまく転生できるようにならなければ。
俺が高校のときにダーツにハマったときを思い出し、最初の一ヶ月は異世界転生せずにひたすらダーツの練習をした。
この戦いはどう考えても女神に有利。練習の間、女神に遅れを取ることになるが、ダーツで自由に異世界転生先を決められるくらいにならないと女神と互角の勝負すらできないだろう、と思って我慢した。
ダーツは思った以上に上達した。
寝食も忘れ夢中で練習に励んだ俺はかなりの高確率で狙った場所・時間に転生できるまでになった。
今の俺であればきっと地球のダーツのプロにも余裕で勝てそうな気がする。
転生先の異世界の時間と、天界の時間の流れは全く異なっている。
異世界で例え百年生きたとしても、天界に戻れば天界では数分しか経過していない。数年の異世界滞在であれば、それこそ天界では数十秒くらい。
女神カーリーと比べ、俺にアドバンテージがあるとすればその点だ。俺は自分で転生担当官と転生者を兼ねているので、説明も不要で非常に短いサイクルで転生することができる。
逆にカーリーが俺を罠にはめようとすれば、俺を暗殺する刺客に適した転生者を見つけ、カーリーの味方にしてから転生させなければならない。
普通の転生者候補にいきなり「転生先で、とある人物を殺して欲しい」と言われたら、全力で拒否するし、例え無理やり言うことを聞かせたとしてもそんな普通の人間がうまくやれるとは思わない。ということは殺人狂や戦闘狂みたいな転生者を厳選して、女神が魅了して刺客にしたてなければならないということだ。効率は悪そうだ。
俺がひたすら転生回数稼いで、カーリーを上回れば何か勝機があるかもしれない。
まあ、それでも圧倒的に女神有利は変わらんけど、どう贔屓目に考えても。
こうして、圧倒的な戦力と能力と神の力を持った女神カーリーと、やり直す以外のことは何一つ持っていない無能で凡人な俺との戦いの幕が切って落とされた。
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次話『無謀な戦い』へ続く
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