第16話 輪廻

 「って、思ってた時期が俺にもありましたー」


 天界で再び天女さんと出会う。

 ここはいつもの白い部屋。

 

 「何度でもやり直すことができる権利って、思い残すことなくなったら終わりじゃないの⁉」


 俺はずっと信じていた前提を天女さんに確認する。


 「私に聞かれてもわからないわよ。 なんであんたとまっとうな人生過ごしちゃったと思ってるのよ。これで終わりだと思ったからじゃない!詐欺よ詐欺」


 「まあ天寿全うしても転生終わらないのはミジンコであったからな。寿命1ヶ月だったけど」


 「何のんびりしたこと言ってんのよ! この輪廻もしかすると全ての異世界が滅ぶまで断ち切ることできないかもしれないのよ!」


 確かにその通りだ。1回1回の人生は短かったが、もう100回以上も転生したからトータルで何百年も生きたことになる。よく今までへこたれないな俺。



 「まあそういうルールならそういうルールってことで楽しまないとな」

 また次の人生に向かっていく俺ってドMなんだろうか。



 「次はどこの異世界に行く? お婆ちゃんや」


 「そうねー。中世ヨーロッパ風ナーロッパの異世界も捨てがたいのよねー。転生者を送り出すだけでまだ一回も行ったことないから」


 「こないだ転生したところは結構よかったな。海もきれいで、白亜の塔が立ってて。ああいうところで人生すごしたかったなー」


 「あんたってば、あの海でクラゲに刺されて死んじゃったもんねー。知ってる? あそこでクラゲに刺されて死んだひとって、あんた含めて二人だって。最初の一人は千年前よ。どんだけ不幸体質なのよ——」


 思い出してめっちゃ笑い転げる天女。


 「クラゲめちゃくちゃ痛いんだからな!自分が刺されても今言ってたこと後悔すんなよ!」


 「私は刺されても平気よ。あんたも知ってるでしょ?不幸背負い込んですぐ死にそうになるあんたを守って私が影で大活躍してたこと。少しくらい感謝してほしわ」



 「そういえば、あの開かずの部屋はなんなんだ?本物の天女の羽衣伝説のように、覗いたら天に帰らないと行けなくなるような秘密あったの?」


 「あれは私がダラダラするための部屋よ。私が私だってこと、あんたに隠してたでしょ? 結構隠し通すの大変だったのよ。だからあの部屋にたまにこもっては食っちゃ寝、食っちゃ寝を二、三日やって英気養ってたの。あんたの前ではずっといいお嫁さんでいたでしょ?」


 「え? 会ったその日にお前だって分かってたで? たまにふわふわ浮いてるしバレバレやん。しかも結婚してからも、たまにぐーたらしてることも知ってた。お前があの部屋にこもると昼間でもグーグーいびき聞こえてたし、たまに寝言いってたし、俺にばれないようにこっそり夜トイレ行ってたけど寒い日は掛け布団にそのまま包まって歩いてたよな。まさか俺が気付いてないと思ってたとは(笑)」


 「うわあああああああ!めっちゃ恥ずかしい。やっば、顔見れん」

 真っ赤になりながら顔を隠す天女さん。


 「もうどうせ今までも長い付き合いだからな。そんでいつ終わるかはわからんけど、この先もまだまだ長そうだしな」


 「じゃあ、次は本当に運任せで異世界決めるね。いろんなところ行ってみたいし」


 もう隠すこともなくなって、次も一緒に異世界行く前提になっとるがな。お婆ちゃんや。

 ずっと天女やってきても、異世界に転生者を送り込む仕事ばかりで、こうやって誰かと一緒に過ごした時間なんてなかったんだろうなー。

 こんな生活を楽しく思ってくれるならよかった。



 「今度はアラビア風の異世界ね。あんただけだとすぐ死んじゃいそうだけど、まあ私がいれば大丈夫でしょ」


 「うん、じゃ俺先に行ってくる」


 「じゃあ、逢った時の合言葉は『オープン・ザ・セサミ』ね」

 合言葉まで考える、乗り乗りの天女。


 「では転生門開くねー。リンクスタート!」


 「もう、それはええっちゅうんじゃ————!」



———————————————————

次話『彼女だけがいない世界』へ続く



毎日1話ずつ投稿していきます。


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