第14話 合流

 目を覚ました。

 見知らぬ天井だ。


 いやいや、森の中だった。

 マジ死ぬところだった。これで死んだらどう上神に報告することになったんだろ?


 私が殺しましたってのもさすがにないだろうしな。これは前代未聞だろう。


 「!!!」


 こんどは俺にビックリマークが出現した。


 膝枕されてる?

 頭の下にめっちゃやわらかい感触が……

 しかも、膝枕しているのは…… 彼女?


 少し照れながら「よっ、1週間ぶりくらい?元気だった?」と膝枕の彼女に尋ねる。


 彼女は一生懸命顔をそらして、俺に顔を見られないようにしていた。


 「ど、どなたさま↑ーで↑しょう↓か↑?」


 素っ頓狂な声をあげる彼女。


 「は、はじめましてー。私はパルヴァティーと申します。この度はお日がらもよろしくー」


 どうやら隠し通す気みたいだ。

 俺はこのお芝居につきあってやることにした。


 「俺は猿田 司馬夫。ここでは『サルタ』って呼んでもらっている」


 周りをみると、心配そうに少し遠くから俺を見ていてくれていた三人がいた。

 俺は立ち上がると元気に言った。


 「よし!里までもうすぐだ。みんな一緒に行こう!」


 最後尾を、彼女は慣れないように苦労しながら歩いている。


 普段は天界で軽く宙に浮くように軽やかに歩くが、それだとこの世界では人間でないことがばれてしまうので頑張って足をなんとか地面につけながら歩こうとしているようだ。素足なので痛々しい。


 俺は少し前に行ってから、草履を脱いで道の脇に並べ、誰に向かってでもなくひとり言った。


 「あーあ、この草履は俺には小さすぎて合わないなー。素足で歩くことにしてここに置いていこう。どなたか通りがかった方にちょうど合って役立ててくれればいいのだけれどー」


 ちょっと棒読みになってしまった。慣れないことをするものじゃない。

 そしてまた歩く。


 彼女は草履の付近で歩みを緩めた。みんなから少し離れて草履の前で立ち止まった。

 気になっている俺は横目でばれないように彼女を見てしまう。


 彼女は少しだけ迷ってから、えいっと素足を草履に入れて、両足のつま先を交互にとんとんと地面に軽く打ったのち、俺たちに追いつくように歩みを速めた。こころなしか軽やかにスキップしているようにも見える。というかちょっと浮いちゃってるでー、あんた!


 浮いていたことはみんなにばれなかったようだ。


 さっきまで最後尾を歩いていた彼女は、先頭の俺の横に並んだ。


 だんだん森の中が明るくなってきた。森を抜け里が近くなってきた。


 「あそこまでみんなで競争しよう」


 森を抜け、里までの人間の道を見つけた彼女はそう言ってまだ慣れない草履で駆け出した。

 

       ◇◆◇◆◇


 里に着いた。


 里では、村長がゴブリンたちとの共同生活について意見をまとめてくれていた。

 一言でいうと『本当に人間とゴブリンが仲良くなれるのか』の疑問だった。


 もともといがみ合っている上に、互いに言葉もわからない、生活習慣も違う2つの種族が共同生活している姿が想像できない、ということだ。

 俺は一計を案じていた。


 「こちらに来てくれ」


 女ゴブをみんなの前に連れてくる。


 「こちらのゴブリンは昔この里に降りてしまい迷子になっているところをこの里の人間に助けられたことを未だに感謝してるんだ。俺はそんな小さなつながりからも互いに理解し合えるようになると信じてる」


 おずおずとする女ゴブ。そうだよねー。はじめて人間にまじまじと見られる気恥ずかしさ分かるなー。いや俺には分からんか。


 と、こちらに歩み寄るものがいた。村のみんなが道を開けて彼を前に出す。

 え?村長?


 「お前があのときのゴブリンか……」


 まじまじと見つめる村長。びっくりした顔で涙ぐむ女ゴブ。

 マジ、なにかっこいいことやってたの!若かりし日の村長さん。

 いやー、絆だなー。ここからはじまるんだよ、俺たち。

 

 「xボボ)ガ< ギン+ガ、ゴ%ブン^@ゴp」


 女ゴブリンが村長に向かって両手を前に差し出して手を合わせ、お辞儀をする。


 「な、なんと言ってるんだ⁉」


 村長が慌てて尋ねた。


 「もうみんなにも伝わっているでしょう?」


 俺が焦らすように言った。

 ズンが、自分に答えさせてくださいとでも言っているような目で俺を制した。


 「『ありがとう、人間』、に決まってるじゃないですか!」


 ズンが自信たっぷりに通訳した。

 それは、この世界初のゴブリン語通訳者誕生の瞬間でもあった。


 「あぎがご、にげん、にぎまっでぶじゃだいでどが」


 ズンの言葉を真似して女ゴブがもう一度村長に礼を言う。

 村長がうるうる来ながら、村の代表として挨拶した。


 「ようこそ、里の村へ。我々はゴブリンのみんなを心から歓迎する」



 その後はスムースにことが運んだ。

 男ゴブがその自慢の力を披露すると早速声がかかった。


 「この丸太をあそこまで運びたいんだが、重すぎて腰をやられてしもうての」


 身振りだけでもやりたいことがわかったようだ。

 俺が通訳しなくても男ゴブは丸太を持ち上げて言われたところまで運んだ。


 「&ぃ!ざ_ボ?ゔ{ぇン~ス\ぽ」


 男ゴブが尋ねた。俺が通訳する。


 「この丸太、本当は横じゃなくってこの穴に立てたいんじゃないの?って聞いてる」


 「おお、よくわかっておるな。本当は立てたいんじゃが、それには5人がかりでロープ使って持ち上げる必要あっての。まだ人が揃っておらんのじゃよ」


 男ゴブはそれを聞くと、任せてくれとでも言わんばかりにサムアップした。サムアップってこっちの世界でもあるんかー。

 そして、えいっと腹に力入れると丸太を一人で縦に持ち上げた。そのまま数歩進み、こんどは静かに穴に落とす。

 あっという間に丸太が立った。


 喜んだ村人は、「もうすぐ昼だろ?どうだ俺の家で飯食っていけ」と言って、男ゴブの肩を抱いて連れて行ってしまった。

 どんだけ順応性高いのこの村の人間たち。

 俺置いてったら互いに何言ってんのかもわからんでしょーが。


 でも、まあいいか。それでもなんとか意思疎通しようって気持ちが理解深めていくんだよね。


 

 道端にひとり佇んでいる女性を見つけた。彼女だ。

 まださきほどの草履を履いてくれている。

 この世界の人間と同じような格好をしているものの、やはり天女さんは天女さんだ。

 なんせ顔がきれいすぎるし、こころなしか地面にしっかり付いておらず時折ふわふわしているようにも見える。


 「ずっと俺を助けてくれてただろ? どうもありがとう。お前がいなかったらゴブリンブレイブにもなれなかったし、ゴブリンロードとの戦いで最後ブラックホールに飲み込まれてしまうところだった。洞窟から食料箱を持ち出してくれたり、帰りの道で敵に襲われたのも助けてくれたり…… ほんと感謝しかない」


 頭を下げる俺。照れくさそうに左右に体をゆする彼女。


 「えー、なんのことかしら?私はたまたま森歩いていたらあんたたちを見つけてこっそりつけていっただけなんだからねー。あんたを助けた覚えはないわ——」


 「それでもありがとう」


 「まあいいわ。身に覚えはないけど、感謝されるのは好きだし受け取っておこうかな」


 「素直じゃないねー」


 笑う俺。はにかむ彼女。


 「草履はありがたく受け取っておくわ。まあ道端に捨てられてたのだから誰に感謝するでもないんだけどね。ほんとは」


 「少し大きかったろ?鼻緒直すからちょっと貸してみ」


 「そお? じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら。これであんたにあげたカップラーメンの貸しはチャRaniーくぁwせdrftgyふじこlp」


 何かに気付き、焦って急に壊れた彼女。


 「こ、これであんたにあげた電撃はチャラにしてあげるわ」


 いやー、めっちゃ痛かったわー。

 あれ。俺のほうがチャラにしたくないわ。


 

 そうそう、一番の心配があったんだ。


 「そう言えば、天界の仕事ほっぽったからして、こっちの世界に来ちゃって大丈夫なの?」


 「えっ!何のことかしら? 天界?仕事?なにそれおいしいの? もちろんダイジョブです!なんのことかはよくわからないけどー」


 よく分からん慌てぶりをしているってことは、絶対やらかしてるなー。

 あとで上神にたっぷり怒られそう。


 「まあいっか。せっかく来たんだから、ちゃんと俺の村手伝ってよね」


 「もちろん、ここに来たのはあんたを助keNiー△□○!!!」


 慌てて自分の口を抑えて言い直す。


 「まあ偶然にもこうして知り合えたんですしこれも何かの縁。少しは手伝ってもよくってよ」


 なんの小芝居してるんですか、あなたは。

 まあいいや。彼女ここに来てめっちゃ楽しそうだし。


 「ゴブリンたちがこの里に来る前に彼らの住む場所探したくってさー。あっちに今は使っていない良さそうな所あるって村の人に聞いてさー。見に行きたいから、ちょっと来てよ」


 「人遣い荒いですわのねー。しょうがないからついていってあげるけど、よろしくってよ」


 なんのキャラ演じてるのかだんだん自分でもわからなくなってそうだな。

 そのうち飽きてもとに戻るだろうけど、おもしろいからしばらく放置しておこう。




———————————————————

次話『幸せ』へ続く



毎日1話ずつ投稿していきます。


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