第12話 共存

 ゴブリンの村に戻った。


 ゴブリンロードとその配下を倒したことと、ゴブリンロードが備蓄していた食料が手に入ったことを伝えた。


 「これで冬がようやく越せる」


 ゴブリンは泣いて喜び、俺をゴブリンブレイブ、ゴブリンブレイブと讃えた。


        *


 「もうお前たちがこの冬を乗り切るために人間の村を襲う理由はなくなった。この森には他にもゴブリンの村があるだろう。そこに使者を送りこのことを伝え、彼らにも食料を分けてやってほしい。彼らもまたゴブリンロードの犠牲者に違いない。お前たちだけが助かっても、他のゴブリンたちが飢えてしまうようであれば、俺がゴブリンブレイブとしてしたことは無意味になる。彼らも助けたい」


 うやうやしく村の長が俺の下知を受領した。


 

 「ブレイブ様はこの後どうされるおつもりですか?ぜひ私どもの村に残り、伝説のゴブリンブレイブ様として私どもをお導きください」


 長がさらに頭をさげる。

 他のゴブリンたちも首がもげるくらいウンウン何度もうなずいた。


 「—— 俺によい考えがある」


 にやっとする俺。

 どのように反応してよいかわからず、俺の言葉を待つゴブリンたち。


 「この冬を乗り切っても、食料が不足していることには変わりない。お前たちが普段どんだけ節制して暮らしていたのかはこの村を見ればわかる。それでもこの時期になると食料が不足し、冬のための備蓄も必要になるのでやむなく人間の里を襲って最低限の蓄えとしたのだろう」


 どのような話しになるのかまだ読めず、ゴブリンたちは短く「はっ」と同意するに留めた。



 「そこでだ。このゴブリンの村のひとを20人、俺に預けてくれないか?」


 「「「「えええええええええええええええええええ!」」」」


 ゴブリンたちはびっくりして一斉に声をあげた。


 「間引きのために私どもを食うのですな!」


 全てを諦めた表情でゴブリンの長がうなだれる。



 「違う違————う! そんなことはしな————い!」


 俺の考えをみんなに伝えた。


        *


 俺のアイデアはこうだ。


 この村は食料が不足しているだけで働き手としては十分な人数がいる。


 しかし現在のこの森はゴブリンたちが生きていく分の食料の提供量が若干足りていない。


 —— そこが問題だ。



 ゴブリンは自ら食料を作り増やすことができない。

 つまり自給自足できずに、人間のものを奪い、狩り、糧を得るしか生きる術がないのだ。


 不足は大げさな量ではなく、例年この時期に人間の里を襲って得たわずかなヤギや農作物でしのげている。


 ほんの少しの食料をどこかから手に入れられれば、この問題は解決するのだ。


 しかしそれが難しく、今までは里が襲われていた。



 里のみんなから見れば、毎年襲ってくるゴブリンは恐怖でしかない。


 俺を雇ったように、俺が解決できなかったとしても別の手を考えてゴブリンから村を救おうとするだろう。


 生きる上で当然だ。


 いつか人間とゴブリンとの全面戦争になる。


 —— そしてどちらにも大きな犠牲が出るに違いない。



 「人間の村には百人ほど暮らしている。ここと同じような質素な暮らしぶりでも食料は足りずいつも飢えとの戦いらしい。じっくり観察したが、この里の畑も畜産もまだまだ余裕があり、生産量をあげることができるはずだ、と俺は見た」


 「では人間が怠けているのですね?」


 相槌を打つゴブリンの長。


 「いやそれが違うんだな。俺から見てもみんな真面目な働き者だ。朝から晩までせっせと働いている。村長をはじめ誰も楽しているものはいない」


 「それではなぜ?」


 「ゴブリンの村と逆の課題があるのさ。決定的に『人手』が足りていない。里の大きさはまだ余裕があるが、畑を拡大しても、それを維持して農作物を育てるだけの人数がいないんだ。かといって、ここは人間から見たら辺鄙な場所で、ここに移り住んでくれるような酔狂な人間もいない。どんどん村は小さくなる一方。このままいくと遠からずのうちに廃村となる」


 「あの里がなくなれば私どもも餓死ですな。今でさえギリギリな生活で、あの里から食料をわずかでも奪わなければ私どももここでは生きていけない」


 「そこで最初の話しに戻る。このゴブリンの村のひとを20人くらい俺に預けてほしいんだ。人間の村の足りない人手をゴブリンが貸す、そして生産量上がった分をゴブリンの村にも分け与えてゴブリンが人間の村を襲わなくても生きていけるようにする。な、Win-Winだろ?」


 ドヤった顔で説明する俺。



 ゴブリンたちはまだ疑問があるようだ。


 「ただ、俺たちはあまり賢くない。人間と同じように仕事することできない。だから狩りをする、奪う。それしかできないからだ」


 「そう決めつけるのは少し早いと思うよ。お前たちは決して人間に劣っていない。単純に違う種というだけだ。それに今までは人間と言葉が通じず、互いに意思を伝え合うことができなかった。俺が間に入り、人間の仕事をお前たちに教える。まだ難しい仕事ができなかったとしても、体力あって力も強いお前たちであれば、畑を耕したり家を作るための重い木を運ぶみたいな仕事はむしろ人間よりも得意なはずだ。そういう仕事も里にはたくさんある。お前たちがとても役に立つのさ」


 おおお、と感嘆の声。

 ゴブリンにもそのような仕事はできそうと腹落ちしたようだ。



 「人間の里に連れて行ったからって、この村のゴブリンであることには変わりない。距離が遠いので向こうに基本的には住んでもらうことになるが、仕事が許せば一時的にこちらに戻ることも逆に家族を向こうに呼ぶことも可能にする。しばらくはメンバーは固定だろうけど、この方法がうまくいけば、ローテーションも考えよう。どうだ?楽しそうじゃないか?」


 「オレ行きたい!」


 前に座っていた若者が手をあげた。


 「オレは人一倍力が強いけど、森での狩りが苦手だ。人間の村であれば、狩りの下手なオレでも役に立てる気がする」


 「私も行きたいわ!」


 後ろの方の女性がおずおずと手をあげる。


 「昔、道に迷って人間の里に出てしまった私を助けてくれた人間がいた。彼は幼い私に親切に道案内してくれてこの森に戻してくれた。私は人間と仲良く共同生活できると思う。それを証明したい」



 ポツポツ手が上がり、やがて20人を超えた。


 手を上げたひとりひとりをじっくりと見回した村の長は言った。


 「このものたちであれば間違いはないでしょう。村でも優秀なやつらです。残る我々のほうが頑張らないといけなそうですじゃい」


 長はそう言って、景気よく笑った。



 「—— ブレイブ様、このものたちをよろしくお願い致します」


 真剣な、しかし希望に満ちた目で俺に彼らを託す。



 「しかと受け取った。こいつらは俺が命にかけても守るから安心してくれ」



 こうして、共存に向け、ゴブリンたちは一歩前へ足を踏み出したのであった。




———————————————————

次話『人とゴブリン』へ続く



毎日1話ずつ投稿していきます。


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