第11話 ゴブリンロードとの戦い (2)
魔法詠唱が『言葉』と定義されているなら、これも使えるかも知れないと思い温めていた俺の隠し玉。
—— その力を今解放する。
ぶっつけ本番なので空振りになったらもはや次の手は考えていない。
まあ俺は、たまに来るラッキーだけは持っているからな。
その後は大きな不幸がセットで来るけど(涙)。
「———— 聴け、宇宙の言葉!」
俺がゼロ秒という生存最短記録を叩き出したときに唯一学んだ言葉だ。
その瞬間、このゴブリンロードの洞窟に極々々小の『ブラックホール』が出現した。
*
配下の大ゴブリンたちが重力に耐えきれずにまず吸い込まれた。
次いでブラックホールの重力に引き伸ばされた時の中に、俺とゴブリンロードが捉えられた。
「—— オレが間違っていると言うなら、果たしてお前は正しいのか?」
ゴブリンロードが問う。
「こんな馬鹿げたブラックホールを生み出せるようなお前が、自分だけは正しいと主張しているのならちゃんちゃらおかしい。お前はオレ以上に狂ったイレギュラーだ。神々まで殺す力を持っているなんてな」
「俺にはそんな力はない。そんな力がほしいとも思っていない」
「オレはお前が羨ましい。できることならオレはこんなチンケな世界の破壊者ではなく、お前のように神殺しがしたかった。そんな力が欲しかった。だがもう俺のターンは終わりのようだ。最後にお前みたいな好敵手と会えておもしろかったわ」
ゴブリンロードは清々しい顔をしていた。
ここから更に時間が無限に引き伸ばされ、永遠の一瞬を過ごすことになる彼は、その無限の時間の中でどのような考えにたどり着くのだろうか。
彼の最後の結論を聞いてみたいが、俺までブラックホールの中に付き合うことはできない。
「———— 閉じろ、宇宙の言葉」
俺の言葉で、ブラックホールはさらに矮小化した。
まもなくブラックホールはこの世界とのリンクが途絶え、どこの世界とも繋がりがなくなる。
ブラックホールに捉えられたゴブリンロードとその配下全員は分解され、ブラックホールだけが存在する宇宙で素粒子として永遠に存在することになるのだ。
「—— ⁈」
俺は戦いの
境界の外で冷静に勝負しており、ブラックホールから自力で逃げ出せるはずだった。
が、なぜかわずかに境界線を越え半歩中に入っていたことに気づいた。俺の足には細い糸が絡んでおり俺をブラックホールの中へといざなう。
—— ゴブリンロードの最後のあがきか。
悠長にイレギュラーの話しをし始めたと思っていたが、これが狙いだったとは。さすが。
振りほどこうとすればするほど、糸はより強固に足に絡まりブラックホールに引きずり込む。
この細い糸は何でできているのか、ゴブリンロードと互角に戦っていた俺の物理攻撃・魔法攻撃にも耐え、切ることができない。
糸の強い張力で俺はブラックホールに引きずり込まれ始めた。
『ああ、結局ここでも短い人生だったかー。頑張ったんだけどなー、俺』
『—— 聖なる伝説の棍棒を…… 使うのです……』
どこかから声が聴こえたような気がした。
空耳か?
それにしても最後に閃いたのが、俺が即興で作ったはりぼての『聖なる伝説の棍棒』とはお笑いだ。
見栄えがするようにだけ作ったが、ゴブリンロードとの実戦では案の定武具として勝負にもならずに、一発で粉々に打ち砕かれ、そのへんにバラバラに転がっている。
しかし今その破片をよく見ると、破片の中からうっすらとした光がこぼれていた。
溺れるもの藁をも掴む勢いで、一番大きな棍棒の破片を手に取り、細い糸に打ち付けた。
「ガラガラガッシャアアアアアアアアアアアアア——————ン」
打ち付けたところに、どこからか稲妻が飛び落ちた。
「—— ブチッ!」
細い糸が切れ、俺から離れた糸の先端はブラックホールに吸い込まれた。
その瞬間この世界とブラックホールとのリンクが完全に切れた。
稲妻が落ちた瞬間、稲妻で照らされた光の中に確かに渦巻いて降りてくる『竜』を見たような気がした。
—— 真っ暗に戻った洞窟の中でひとり佇む俺。
本当にギリギリだったが、なんとか生き延びることができたようだ。
俺が生んだブラックホールに俺が飲まれたら、また天女さんに笑われそうなところだった。
まあいいや、疲れた。その場に倒れ込む。ボロボロの体を洞窟に横たえて俺は眠りについた。
『—— おやすみなさい』
どこからか声が聞こえた気がしたが、もう意識は残っていなかった。
*
夢の中。
何故か天女さんが出てくる。
何気ない天女さんとの会話。
笑い転げる顔、怒った顔、泣いた顔。
—— そうか、俺、あの白い部屋での天女さんとの何気ない日常も大好きだったんだな。
ふかふかの枕が頭の下に置かれ、髪を撫でられている感触がある。
とっても気持ちいい夢だ。
—— えっ、誰かいる?
俺は目を覚ました。
洞窟の中には横たわっている俺しかいなかった。夢か。
心なしか、頭の下の床がほんのりと温かい。
まだ寝ぼけている頭で、夢の続きをぼんやり考える。
そう言えば俺、天女さんの名前も知らない。
この世界で天寿全うしたら聞いてみよう。
—— そうか。
俺は思い出した。
天寿全うできたらもう天界のあの白い部屋に戻ることも、天女さんに会うこともないんだな。
たまたま俺が転生に失敗しているばかりに何度も何度も会っているが、普通であればこんなに天女さんと仲良く話すようなことはなかったんだもんな。
—— 不思議な
でも、ただでさえ忙しいはずの天女さんの時間をこれ以上俺のために奪うわけにもいかない。
天女さんの評価が俺のせいで下がっているし、この世界を最後にするぞ。
そう、心に誓った。
*
よし、最後の課題、③ゴブリンの村の食糧難問題をどうにかする、だ。
俺は立ち上がり、洞窟の中を探索しはじめた。
最後の課題だけは俺にも狙いがあった。
ゴブリンロードのことだ。
自分の棲み家にたんまりと食料を抱えているに違いない。
他のゴブリンたちが飢えて死にそうになりながらも食料を上納させていたということだ。
普通のゴブリンよりもよく食べるのだろうが、さすがにいくつもの村から飢えるほど食料を奪い取りながらもうどこにも食料が残っていないことはないだろう。
冬を越すためにも大量の備蓄がどこかにあるはずだ。
と、足元にバラバラに散った食料箱を見つけた。これは備蓄の箱か?
よく見ると重い食料箱が洞窟の地面を引っ張られている痕跡がいくつも残っていた。
あれ?
俺ひょとしてやらかしちゃった?
ブラックホール出したときに周りのものがどんどん吸い寄せられているのは横目で見ていた。
それよりも本当にギリギリの攻防だったゴブリンロードを倒すこと優先したんだよなー。ゴブリンロードが抱えていたお宝があっても、それは犠牲やむなし。
でも食料まで根こそぎブラックホールに吸い込まれてしまったかー、それは大誤算だった。
まあいいか、食料はどこかで調達すること考えよう。
ゴブリンロードさえいなくなればなんとかなるだろう。
楽観的かもしれないが、みんなで協力して森をくまなく探せばまだ誰にも見つかっていない食料くらい見つけられるかもしれない。
俺は次善策を急ぐために、洞窟を出た。
*
「—— ⁈」
洞窟の外には、大量の食料備蓄箱がうず高く積まれて並んでいた。
来たときにはなかったよな?
その瞬間、目の端に隠れる影が映った。
誰かが洞窟の外にこれを運んでくれた?
急ぎこの恩人にお礼をするために影が消えたところまで走った。
—— しかし、そこにはもう誰もいなかった。
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次話『共存』へ続く
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