第10話 ゴブリンロードとの戦い (1)
お次のクエストは、②俺がゴブリンロードをどうにかする、だ。
ゴブリンロードにあの雷がもう一度落ちてくれたら勝てるかもしれない。
もう一度奇跡起きてくれないだろうか。
俺が魔王倒したときも、俺がなに企んでも思考読む能力持ってる魔王には筒抜けでにっちもさっちも行かなくなっていたところに、たまたま脇通っていたマグマの川に落ちた巨大な栗がたまたま熱くなって弾けて吹き飛んで、たまたま魔王の目に当たって、不意突かれてびっくりした魔王を倒せたんだよな。
他力本願寺の熱心な信徒である俺は、そんなお願いも欠かさなかった。
*
ゴブリンの村のみんなからゴブリンロードの情報を仕入れる。
ゴブリンロードは、ここから半日くらい先の洞窟を王の間に改造して棲んでいるらしい。
周りには屈強な大ゴブリンを数十匹従えているとのこと。
まあゴブリンロード自体が、それら屈強な大ゴブリン全員敵に回して戦っても瞬殺できるくらいの力あるってことなんで、そもそもどうやれば勝てるか皆目検討がつかないな。
念の為ー、やらないけどー、って断りいれて、ゴブリンロードが大切にしている妹や彼女がいないか尋ねてみた。
そんな存在はおらず誰に対しても平等に非情らしい。
まあそんな
最後の手段としてもありえないけどねー、正義の味方だからねー。
—— でもちょっと残念。
どこでゴブリンロードが生まれ、どこから来たのかもわからないそう。
急にこの地に現れてゴブリンたちを支配しはじめたのだそうだ。
普通であればゴブリンが増えすぎ生存環境が悪化したときに、強いゴブリンの中の一匹が進化してゴブリンロードが誕生するのだそうだが、ここは元々環境がそこまで悪くはなくゴブリン自体も増えすぎていなのでゴブリンロードが出現する条件には当てはまっていなかった。
またここの地のゴブリンから進化せずに突然どこからか来ることも本来であればありえない。
—— つくづく異例づくしのゴブリンロードみたいだな。
*
作戦会議を終え、俺はゴブリン村の部屋に泊めてもらうことにした。
ゴブリンの村も居心地がよかった。
みんなやさしく接してくれた。
まあきっと、みんな俺がゴブリンブレイブだと思ってくれてるからだけど。
*
出たとこ勝負にしても、勝つ見込みが全然立たないのでは犬死にいくようなものだな。
せめてゴブリンロードが人間の村にもゴブリンの村にもちょっかい出さないようにできないと、俺が死んでも何も進展しない。
ちょっとでもこちらの攻撃力あげるか、あちらの防御力落とす方法ないかな。
やはりゴブリンロードの恋人を探して……
いかんいかん、また暗黒面に入ってしまった。
前の転生で魔王を倒しに行くことになった時も全く勝つ方法思いついてなかったんだよなー。
でもあの時は魔法が使えたから、互角にはなった。
あれ?
そう言えば、違う世界で覚えたゴブリンの言葉がここでも通用したんだから、他の世界の魔法詠唱もこちらで有効なんじゃね? 詠唱なんて言葉みたいなもんだし。
とりあえず「ルーモス」と唱えてみた。指先に小さな光が灯った。
え、使えるじゃん!
魔法使えるならなんとかとんとんにまで持ち込むまでの作戦は考えられそう。
そこから勝てるかどうかは出たとこ勝負になるけど、きっと最後には他力本願寺の大栗が弾けてくれるだろう。うん、それに期待しよう。
*
そして翌日。
俺はゴブリンのみんなに村で朗報待っててくれるように言い残し、ゴブリンロードの洞窟に向かって一人出発した。
ゴブリンロードの洞窟に着いた。
そして戦い。
いやいやー。この世界のゴブリンロードの強さ、どうなってんの?
これレベル設定ミスよ。
こんな駆け出し冒険者の地で、よその世界の魔王よりも強い
魔王よりもゴブリンロードの方が弱いと期待していた俺は、現実を痛感させられていた。
*
—— このゴブリンロードの強さは異常だ。
俺が魔王の動きを封じ込めた時の重力魔法を使っても、足止めにもならずに俺に迫ってくる。
ゴブリンを専門に倒すスレイヤーさんならもっと敵を調べて準備して戦ったんだろうな。
その戦いも興味ある。彼ならどうやって戦うんだろう。
いやいや、
目の前の敵を倒さねば!
つけ入るすきがないとはこのこと。
元々小柄なゴブリンからどうやればここまで成長できるんだろうっていうくらい巨大な体を見えないほどの速さで動かすことができる筋力と身体能力と動体視力。
分厚い皮膚は物理耐性だけでなく魔法耐性や状態異常耐性も兼ね備え、俺のここまでの攻撃は全て跳ね返されている。
そしてなりより、あきらかに戦い慣れして狡猾に相手を騙し、誘い、隙きを狙うしたたかさ。
これで
こいつは戦いが分かっている。
俺は彼ら全員からの猛攻をよけるだけでも精一杯で、ここしばらくは反撃することすらできていない。
—— こいつは間違いなくこの世界のイレギュラーだな。
この力はこの世界の均衡を壊しかねん。こいつは『異世界転生者』だ。
戦いながら、それが真実だと突然理解できた。
突然この地に現れた異次元の力。
この世界の均衡をわざわざ破らせるために遣わされた者。
*
—— 天女さんならこんな方法を取らないだろう。
彼女はこんな荒療治の異世界転生はしない。
天女さんの異世界転生はさざ波のようにしか見えない小さなものかも知れないが、その波はうねりとなりやがて世界を包み込むような不思議な癒やしの力となる。
彼女がもたらした異世界転生が知らずしらずのうちに世界破滅の確率を下げているのだ、と今では納得できる。
一方、このイレギュラーは天女さんのそれとは大きく異なる。
世界を滅ぼせるだけの力を与えることで直線的に世界を変える類のもの。
—— 生と死の狭間で、世界は変わらざるを得ない。
すぐに答えがでる方法かもしれないが、成長を促すものではなく試練を与えるもの。
成長できなかった世界にもたらされるものは確実な『死』だ。
—— こいつは、天女さんではない何者かが送り出した異世界転生者に違いない。
俺はこいつを消し去ることにした。
もともとはゴブリンの村と同じようにゴブリンロード自身もどうにか俺の仲間に引き込めないか考えていたが、異なる考えで遣わされた転生者であれば俺と仲間になるはずがない。
先程までとは違う俺の殺気に気付いたのか、ゴブリンロードは初めて口を開いた。
「オレが転生者と気付いたか。確かに俺はこの世界の大いなるイレギュラーになるべくして遣わされた転生者だ」
「こんな世界を滅ぼす力で引き起こされるイレギュラーは間違っている!この世界をお前に滅ぼさせはしない!」
「フッ、何をバカなことを。オレがこの世界の間違ったイレギュラーだとしたら、お前は何だ? お前こそ全ての世界を滅ぼし神をも滅ぼしかねない、狂ったイレギュラーじゃないのか」
「俺は試練だからといって世界を滅ぼすようなまねはしない! 俺にはこの世界を変える力はないが、この世界を守ることで悪意あるイレギュラーを止めるという、小さな
俺はありったけの力とありったけの知恵で、ゴブリンロードとの最終決戦に望んだ。
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次話『ゴブリンロードとの戦い (2)』へ続く
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