第8話 ゴブリンの村

 「—— お前、ゴブリンを退治できるか?」


 長の目がキランと光った。



 「いえ。ゴブリンは繁殖力強く、たとえ勇者でも彼らを根絶やしにすることはできません」


 「それはそうだ。こちらも刺し違える覚悟なら、一度くらい撃退はできるだろう。でもやつらは一回では終わらん。しつこく何度でも何度でも襲ってくる。それがやっかいだ」


 「それが、私なら解決できるんですよ」


 胡散臭そうな顔しながら、でも話を終わらせてはいけないって思ってそうな村長。


 「褒美はなんだ。何を期待している」


 どうせ法外な金品をねだるんだろうという目。


 「私はこの里が気に入りました。もしゴブリンの問題を解決できたら、この村に住まわせてください。私が住んでいる間はゴブリンの被害出さないことを約束しましょう」


 俺の実力を測りかねているものの、俺が失敗しても今までと変わらないし、もし成功しても村で受け入れるだけということであれば、見返りとしては軽い。

 それにその間、ゴブリン被害を食い止めてくれるなら安いもの、そう考えているようだ。


 「だが、この村は裕福ではないぞ。わしにできることはお前に村に住まわせる家を提供してやることまでだ。お前に食べ物を恵んでやることはできん」


 値踏みするように俺を見る。最初はいい顔しながら、どんどん要求高くなって最後には居座り強盗みたいにならないとも限らない。田舎の村長にしてはよい判断だ。


 「それで充分です。私は私の食い扶持を稼ぐことはできます。単に、この村に受け入れてもらい、この村の一員になることが希望なのです。特別扱いは不要です」


 「よし、お前の話しに乗ろう。今日から村に来てくれ。この時期、ゴブリンがいつ襲って来てもおかしくない。里を守って欲しい」


 村長はがっしりした右手を差し出し、俺と強く握手を交わした。


        *

 

 さて、ここからはゴブリン対策だ。


 俺は過去にゴブリンにも転生したことがあるので、ゴブリンの言葉も話せるし、考え方や習性などの一通りの知識もある。


 まずはどこにゴブリンの本拠地があるのか探るところからだ。


 俺はひとりでもよかったが、この村にも将来ゴブリンと対峙できるものを育てたいと考え、村長に頼んでひとりの若者を預からせてもらった。


 頭も回り、俊敏な身のこなし、そしてなにより勇気ある目をしていた。


 名はズン。


 俺は彼を引き連れて村を出発した。


         *


 以前ゴブリンが襲ってきたという方角をズンから教えてもらい、ゴブリンが出現したという森に入り丹念にゴブリンの痕跡を探す。


 ゴブリンは遠出するとき帰りの道を間違えないように木などにそのゴブリンの村特有の爪痕を残す。毎年襲っているということは似たような爪痕が新旧いくつも残されているはずだ。


 あった。


 横に三本平行線、その上から斜めに一本線の爪痕。周りの木にも同様のマークがあった。

 古くてもう爪痕には見えずに樹皮の傷が盛り上がっている木もある。

 このマークの木を見つけながら森を逆に辿ることでゴブリンの村を探しだす。


 俺の教えをよく聞き、マークを次々に探しながら俺についてくるズン。

 この若者はなかなかに優秀だ。



 —— 森を三日歩き、俺たちはついにゴブリンの村を見つけた。



        ◇◆◇◆◇



 正直、ここからはあまり作戦らしい作戦を考えていない。


 ゴブリンの言葉がわかるのでこっそり情報収集し、その後は出たとこ勝負するつもり。まあなんとかなるっぺ。



 —— 村に近づきこっそりゴブリンたちの会話を盗み聞きする。


 ゴブリンは一週間後、月も上がらぬ暗闇の夜に里を襲うらしい。

 人間に比べ夜目が効くゴブリンは暗闇の方が有利だ。


 去年まではヤギや農作物を狙っていたが、今年は彼らも食料事情厳しいらしく、村自体を襲うことを計画していた。



 村のゴブリン三百匹ほど。

 そのうち戦闘要員は少なく見積もって百匹以上いそうだ。


 人間の村は老若男女合わせて百人くらい。戦えるのは多くても半分いかないだろう。12歳から40歳に絞ると三十人にも満たない。


 ゴブリンはただでさえ大人の男よりも力強いので、この戦力差で戦いになったら人間が全滅となる公算が高い。


 引き受けた時は、ヤギが襲われる程度だし簡単に解決できるだろうとたかをくくっていたが、結構難しいなこれ。


 ただし、ゴブリンたちの会話をよく聞いていると、ゴブリンも何か困っているようだ。


        *


 『あのゴブリンロードに俺たちいつまで虐げられれば終わるんだ』


 『ゴブリンロードは満足することがない。俺たちは死ぬまでやつのおもちゃだ』


 『もう同胞が何匹もやつに食われている。それもやつの気に触った程度の理由でだ。俺たちはいずれ全員殺されるだけだぞ』


 『そんなことを言ったってやつに敵うわけはない。やつは俺たちを支配するゴブリンロードだ。俺たちではやつを倒せない』


 『黙れ!いまここで話していることがやつに漏れただけで俺たちは皆殺しだ。諦めるんだ』


 『しかし、もう今年の冬を越すだけの食料も残っていない。人間の村を襲い、やつらの食料を根こそぎ奪えば俺たちの半分は生き残れるかも知れない。が、それでも全員生きのびるだけの食料には全く足らん。残りの半分はここを去って食料を探しに行くか、餓死するしかない。しかも今年で人間がいなくなったら、来年はもう残った半分も餓死するぞ』


 ゴブリンは基本的に自給自足はしない。

 ひとのものを奪い、狩り、糧を得る。

 奪い、狩るものがいなくなると生きてはいけない。


 どうやらそのゴブリンロードゴブリンを統べるものとやらが現れてから、この森の狩場がことごとく根こそぎ奪われ、普通のゴブリンが生きていくだけの食料がなくなったらしい。


 ゴブリンの人生も楽じゃないな ——


 『嗚呼、ゴブリンスレイブ様ゴブリンの神に幸あらんことを!』


 俺もゴブリンに転生したのでゴブリンにも思い入れがある。ゴブリンに同情した。



 ズンに今聞いたことを伝える。


 今年はヤギだけでなく村自体が襲われると聞いて青くなったズンだが、見込みのあるこの若者は逃げずにまっすぐに俺を見ていった。



 「—— 私は戦います。何をすればいいですか」




———————————————————

次話『ゴブリン・クエスト』へ続く



毎日1話ずつ投稿していきます。


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